2018 第8回日本国際歯科大会

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2018 第8回日本国際歯科大会
2018年10月5日~7日の3日間、第8回日本国際歯科大会(主催:クインテッセンス出版株式会社)がパシフィコ横浜の会議センター・アネックスホールにおいて開催され、国内外を問わず、歯科の各専門領域の著名人が講演を行った。どの講演会場に行っても、用意された席が常に学会参加者で埋め尽くされ、立ち見をして聴講する参加者も非常に多い印象が見受けられた。
全ての講演内容を紹介したい所ではあるが、本記事では、10月6日の午後に行われた矯正歯科分野の講演「局所から全顎まで!日常臨床に生かす歯科矯正」の一部をピックアップし紹介する。座長は「加治初彦」先生(東京都開業)で、計9名の先生が講演を行った。多くの一般開業医(GP)は、矯正治療を日々の診療に取り入れることに苦手意識を持っているかもしれないが、GPが矯正治療を補綴治療や歯周治療と併せて行うことで、より良い治療を患者に提供することができる。また、GPが矯正により歯を動かすことができれば、患者を矯正専門医へ紹介する手間が省かれ、患者も複数の歯科医院に通院する必要がなくなる。講演では、矯正歯科に精通していない聴講者のために、アイディアルアーチの形態の解説や、2X4(トゥーバイフォー)システムのベンディングの手順の説明などもあった。多くの聴講者が矯正治療を含めた包括的治療を患者に提供したいと感じたに違いない。以降では、矯正歯科の演題で講演された9人の先生の内、「岩田光弘」先生と「石井彰夫」先生の講演内容を紹介していく。

不正咬合を有する歯周病患者への対応~歯周組織再生療法と矯正歯科治療の連携について~
岩田光弘先生(岡山県開業)は、「不正咬合を有する歯周病患者への対応~歯周組織再生療法と矯正歯科治療の連携について~」という演題で講演を行った。内容は以下の通りである。
歯周病患者における不正咬合は、歯周炎を増悪させるリスクファクターの一つと考えられ、その対応は1歯単位の咬合調整から全顎矯正まで幅広く、治療法を決定する上で、的確な診断、治療計画が重要となる。日常では、咬合性外傷によって歯周炎が進行し、小範囲の咬合調整や暫間固定では対応が困難な症例にも遭遇し、安定した咬合関係を得るためには、矯正治療の必要性を感じることも多い。不正咬合を有する歯周病患者に対して、歯周治療、特に歯周組織再生療法と矯正治療を行う上で考慮しないといけないことは、歯周炎の発症と不正咬合との因果関係である。もともと、不正咬合があり、それが誘因となって歯周炎を悪化させたのか、それとも、歯周炎の進行に伴って、歯の病的移動が起こり、不正咬合を発症させたのかによって、再生療法後の矯正治療の開始時期は異なってくると考える。前者の場合は、骨縁下欠損を有する歯に常に外傷力が加わっている可能性があるため、歯周組織の再生がある程度認められる時期、すなわち、6ヶ月程度待って矯正治療を開始した方が望ましいと考える。一方、後者の場合は、前歯部など外傷力のあまり加わらない部位が多く、比較的早期に矯正治療を開始しても問題が起こらない可能性が高い。これらのことを文献的考察や自身の臨床例を提示することで、わかりやすく解説し、歯周治療と矯正治療の連携の重要性を述べていた。

咬合治療の一環としての矯正の活用法~医療としての矯正治療を再考する~
石井彰夫先生(岡山県開業)は「咬合治療の一環としての矯正の活用法~医療としての矯正治療を再考する~」というテーマで講演された。形態ではなく機能回復に主眼をおく、患者本位の矯正治療の重要性について、症例を示しながら述べていた。
包括治療を行う上で、矯正治療は、根管治療や歯周治療と並び、イニシャルプレパレーションと位置付けられる。局所・全顎にかかわらず、咬合再構成を行う際、矯正治療と補綴治療をいかにコンビネーションして行うか日常臨床で悩む方も多いはずだ。
注意していただきたいのは、必ずしも「形態異常=機能異常」ではないということである。形態異常を改善することにフォーカスし過ぎてしまうと、歯の予後に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、臼歯部に欠損があり、前歯部がフレアーアウトしているような歯列の形態異常が認められる患者が来院してきたとする。形態の回復を優先して矯正・補綴治療を行った後、咀嚼周期(チョッピングタイプ、グライディングタイプなど)の変化や咬合力過大といった機能異常がみられるのであれば、歯根破折などにより歯を喪失する可能性が高くなる。患者が「治療のおかげで、良く噛めるようになった。」と喜んだとしても、咬合力が治療前の5倍大きくなっていれば、歯の予後に大きな悪影響が出るのは言うまでもない。それでは、このような事態を避けるには、どうすべきであろうか。治療前に咀嚼周期・咬合力・顎関節運動などの機能検査を予め検討し、歯のポジショニングを決定することによって、治療後の長期的な歯の予後が期待できると石井先生は推察している。本講演において、形態の回復のみならず、機能の回復にもフォーカスして治療を行う重要性を感じた。患者個人に本来備わっている咀嚼パターンを変えないように十分注意し、歯列の形態異常を治療すべきであろう。

日本国際歯科大会の今回の矯正歯科の講演を通じ、GPが一般歯科治療と矯正治療を上手く組み合わせることによって、より包括的な治療が可能であることを学んだ。本記事では、矯正歯科の講演内容を取り上げたが、予防歯科やインプラントなど他の講演内容も非常に興味深い内容であった。日本国際歯科大会は4年に1度開催される。次回の開催予定年は2022年と大分先になってしまうが、本学会に興味があり、まだ参加されたことのない方は、ぜひ一度来場されることをお勧めする。
古川 雄亮(ふるかわ ゆうすけ)
  • 日本矯正歯科学会 所属

東北大学歯学部卒業後、九州大学大学院歯学府博士課程歯科矯正学分野および博士課程リーディングプログラム九州大学決断科学大学院プログラム修了。歯科医師(歯学博士)。バングラデシュやカンボジアにおいて国際歯科研究に従事。2018年より、ボリビアのコチャバンバで外来・訪問歯科診療に携わり、7月から株式会社メディカルネットに所属。主に、DentWaveやDentalTribuneなどのポータルサイトにおける記事製作に携わり、現在に至る。

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