ICOI Japan 2018日本支部総会・学術大会 レポート

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7月21日~22日にTKP市ヶ谷カンファレンスセンターでICOI Japan 2018日本支部総会・学術大会(尾関 雅彦 大会長)が開催された。本大会では『知って得するインプラント治療』をメインテーマとし、複数のテーマの中から今回は、ICOI Japanでは初めて取り上げるテーマとなったシンポジウム「歯科手術における抗菌薬を考える」の2演題に注目した。
『北里大学病院 形成外科・美容外科における抗菌薬投与の実際』
北里大学医学部 形成外科・美容外科学 診療准教授、北里大学病院 歯科長 山崎安晴 氏
演者が所属する北里大学病院は、抗菌薬適正使用支援加算を算定し抗菌薬適正使用支援チームとして抗菌薬などの感染症の治療薬の適正使用を推進するための組織的な活動を行っている。その目的は、不適切な使用を制限するだけでなく、抗菌薬の選択、投与量、投与経路、治療期間などを最適化し、患者予後を改善することによって、耐性菌の出現や医薬品の副反応、出費など、患者さんが望まない結果を最低限に留めることである。
世界的に薬物耐性(AMR)感染症が拡大傾向にあり、公衆衛生および社会経済的に重大な影響を与えており、何も対策を実施しなければAMRに起因する死亡者数は2050年の時点で1,000万(現在70万)人を超えると推定されている。国外においては、多剤耐性・超多剤耐性結核(抗酸菌)、耐性マラリアなどの罹患者が拡大傾向にある。
30年以上、新規機序を持った抗菌薬は開発されておらず、開発の道のりは険しい現状があるため、AMRに対する対抗手段が枯渇していくことが予見できる。
薬物耐性菌を取り巻く我が国の現状としては、耳鼻科、歯科・口腔外科領域での耐性菌が増加傾向にあるだけではなく、動物における耐性菌も増加傾向にある。動物における動物耐性菌は動物分野の治療効果を減弱させるほか、畜産物等を介してヒトへ感染する可能性が予見できる。したがってヒトと動物等の保健衛生の一体的な推進(ワンヘルス・アプローチ)の強化と新薬等の研究開発への取り組みが重要といえる。
抗菌薬に関する市民への周知を図るために『抗微生物薬適正使用の手引き 第一版 ダイジェスト版』※ が2017年9月に公示されているが、急性気道感染症・急性下痢症において抗菌薬が必要な病態は、中等症又は重症の急性副鼻腔炎、A群β溶血性連鎖球菌(GAS)が検出された急性咽喉炎、百日咳である。一方、抗菌薬が不要な病態としては感冒、軽症の急性副鼻腔炎、A群β溶血性連鎖球菌(GAS)が検出されていない急性咽喉炎、急性気管支炎(百日咳を除く)、急性下痢症、健常者における軽症のサルモネラ腸炎・カンピロバクター腸炎などがあげられている。
以上のような状況を踏まえて世界的に拡大している薬物耐性菌への対処策としては、海外渡航歴、医療行為実施歴の確認、状況共有が極めて重要であり、薬物耐性菌を拡散させないようにするためには、日常的な標準予防策と、原因微生物に応じて感染経路別予防策を追加する必要があると山崎氏は締め括った。
※抗微生物薬適正使用の手引き 第一版 ダイジェスト版はこちら
─抗菌薬をめぐる現状─ 2011年に世界保健機関(WHO)が世界保健デーに薬物耐性を取り上げ、ワンヘルス・アプローチに基づく世界的な取り組みを推進する必要性を国際社会全体に提唱した。2014年にWHOは、世界の薬物耐性の現状に関する初の動向調査報告を発表し、2015年5月の世界保健総会では、『薬物耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プラン』が採択され、加盟国各国に2年以内の時刻の行動計画の策定を求めたことがあげられる。
上記内容の過程を経て我が国では2016年に厚生労働省から『薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン』が公示された。新規抗菌薬の開発が停滞している現状下、我が国においても既存の抗菌薬を適正に使用することによって薬物耐性菌の検出を最低限とする必要性に迫られている。
2016年4月に日本化学療法学会と日本外科感染症学会の合同声明として『術後感染予防抗菌薬使用のための実践ガイドライン』が発刊された。本ガイドラインを活用する対象としては、当該手術を実施する領域の外科医に加え、病院内のantimicrobial stewardship programに従事し、予防抗菌薬の適正使用を推進する側のICT(Infection Control Team)を想定している。このガイドラインは、我が国の臨床各領域上、実際の予防抗菌使用状況を前提に勧告が行われている。歯科領域からは日本口腔感染症学会、日本口腔外科学会がパブリックコメントおよび承認を求められた。
『歯科インプラント治療における抗菌薬の使用』
東京医科歯科大学 インプラント・口腔再生医学分野 教授 春日井昇平 氏
1940年頃に抗生物質であるペニシリンを使用し、現在にいたるまで100種類以上の抗生物質が開発された。これらの抗生物質は次第に曝露されても死なない菌が出現してきた。安易かつ不適格なかたちで家畜や養殖魚などを含めた抗生物質が使用されたことが耐性菌出現の背景となっている。
通常の場合、増殖することのない細菌が抗生物質の影響により急増してしまうことを「菌交代現象」、菌交代現象の結果、発症する疾患を総称して「菌交代症」という。代表的な疾患としては、クロストリジウム・ディフィシル感染症、抗生物質起因性出血性大腸炎、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌腸炎などがあげられる。
腸内細菌と健康の関係においては、腸内細菌が免疫調節に重要な役割を果たしており、腸内細菌の異常と自己免疫疾患の関連は注視されており、難治性の自己免疫疾患の治療では、便微生物移植(糞便移植)を実施するケースもある。
抗菌薬を使用する目的としては、感染の予防・治療がある。予防的な抗菌薬の使用においては、抗菌薬の種類、投与開始の時期、投与期間、投与量の各情報を把握し、特に周術期で予防的に抗菌薬を使用する際の原則としては、手術部位に起因菌として高頻度に検出される菌を対象とし、想定菌に対して効果のある狭域の抗菌薬を選択することがあげられる。
口腔領域で使用する予防的抗菌薬では、最もレンサ球菌が多いため、レンサ球菌を対象に薬剤を選択していく。具体的にはペニシリン系、セファロスポリン系を選択し、投与開始のタイミングは、術前(2時間前)単回投与を推奨する。
歯科インプラント治療における抗菌薬の使用では、術前に口腔清掃と歯周病のコントロールを適切に実施し、手術直前に含漱剤を用いて口腔内の除菌を行う。一例として健常者へのインプラント埋入手術の場合、術前1~2時間前に、アモキシシリン(500mg)を単回服用させる。静脈内鎮静法を併用する場合は、注射用ビクシリン(50mg)を投与する。この場合、術中の観察を行い、ショック症状に注意を払うことが重要である。
抗菌薬の術前投与が推奨されている現状下、実際に歯科医は、抗菌薬の術後投与を実施しているケースが多く、この状況を早急に改善する必要があると春日井氏は語った。
上記両名の講演後、臨床時における具体的な内容に基づく活発な質疑応答がなされ、参加者の関心度は高いことを実感した。
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