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2014/01/06

第95回:根管治療の新しい試み

昨秋根管治療を受けた。根治の実際がどのようなものかまったく知らなかったため貴重なよい経験となった。折角の根治の機会であり、従来の標準的治療ではなく、筆者がよいと思っている方法での治療をかかりつけのドクターにお願いし、了承していただいた。その内容の要点は、①貼薬には水酸化カルシウム粉末に水ではなく次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えてペーストにしたものを使う、②スメア層除去にEDTAではなく過酢酸水溶液を使う、③根管充填に筆者が試作したMMA/TBB系レジンを使う。まず、このような治療を受けるに至った背景を述べよう。

① 根管貼薬剤としては、従来のホルムクレゾール(FC)に代わり、近年では水酸化カルシウムが多用されている。水酸化カルシウムにはその強アルカリ性による殺菌性と組織溶解作用があるとされているが、その効果は限定的であることが報告されている。さらに、貼薬された水酸化カルシウムも根尖部では組織液により短時間のうちに弱アルカリ性の炭酸カルシウムに変化し、強アルカリ性は失われてしまうことも知られている。使用時の水酸化カルシウムペースト調製の煩雑さを避けるためプレミックスタイプの商品ではプロピレングリコールも添加されているものもある。しかし、これは生体にとってなじみのない異物質であり、できればその利用は避けたい。以上のようなことを考慮して考えたのが、水酸化カルシウムと根治でもっともなじみ深い次亜塩素酸ナトリウム水溶液(ヒポクロ)を使用時に混ぜて調製するペーストである。水酸化カルシウムにヒポクロを混ぜることにより殺菌力と組織溶解力が高まることが期待できる。

② 根治でしばしば問題とされ、ヒポクロではあまり効果がないとされるEnterococcus faecalisも0.2%過酢酸15秒で殺菌できる。過酢酸の微生物の殺菌あるいは不活化性に要する時間を例示すると、ヒポクロでやはり効果がないとされる真菌のCandida albicansの場合には5分(2%グルタルアルデヒド(GA)と同等)、Bacillus substilis(芽胞型)には1分(GAでは2.5分)、ポリオウィルスには5分(GAと同等)などであり、一般細菌、抗酸菌、ウイ ルス、芽胞を含む広範囲の微生物に対する殺菌、不活性化効果はおよそ次のような順で強くなる:ヒポクロ<グルタルアルデヒド≦過酢酸。過酢酸にはこのような強い殺菌力があるのに加え、酸性であることによる強い脱灰力、スメア層除去力もあり、ヒポクロとEDTA両者の性質を兼備しつつそれらを上回る能力を有しているといえる。ヒポクロはアルカリ性よりも酸性側で殺菌力が高まるため、ヒポクロ洗浄後に過酢酸を用いると好都合である。さらに付け加えておくと、根管内に残存する水酸化カルシウムの除去にも過酢酸は有効である。なお、過酢酸は医療機器消毒用に2001年発売となり、ジーシーからもアセサイド6%消毒液として近年販売された。6%原液(過酢酸以外に酢酸、過酸化水素を含む)を緩衝化剤と水で20倍希釈して0.3%(pH 3.5)として器具などを消毒することになっている。過酢酸は分解して酢酸と過酸化水素になり、後者は容易に酸素と水に分解する。食酢中の酢酸は約4%、そのpH は2.4~3.0であり、0.5%以下の過酢酸は、pHから見ても食酢より影響が少なく、またヒポクロより安全と考えられる。

③ 根充用シーラーには、根管への接着性のない、酸化亜鉛/ユージノール系、酸化亜鉛/脂肪酸系、アパタイト系、酸化マグネシウム系、シリコーン系などのシーラーおよび接着性のあるレジン系シーラーがある。根管封鎖性が根治成功のカギを握っていることを考えると、基本的にはレジン系シーラーのほうが望ましいといえる。そのレジン系には、エポキシ樹脂系のAHプラス、ジメタクリレート/HEMA系のリアルシール SE シーラー、ジメタクリレート/HEMA/4-META系のメタシールSoft、MMA/TBB系のスーパーボンド・根充シーラーが上市されている。これらを根管壁接着性の低い順から並べるとおよそ次のようになる: AHプラス<リアルシール SE<メタシール Soft<スーパーボンド・根充シーラー。

現在のところ、30年以上の臨床実績のあるスーパーボンドC&Bの接着性を継承しているスーパーボンド根充シーラーが最もすぐれていると考えられるが、残念ながら、冷却が必要なうえ操作時間に余裕が少なく、基本的にシングルポイントでの充填を推奨しており、適用時の手技の選択が限られている、などの難点がある。そこで、これら難点を解決しようと試作したのが今回の治療に用いたシーラーである。この試作シーラーは、基本成分はスーパーボンド根充シーラーと全く同じであるが、粉末成分に改良を加えてある。そのため、冷却の必要はなく室温で粉液混和ができ、操作余裕時間も長く、ガッタパーチャポイントの必要はなく(用いてもよい)、レンツロ、シリンジ注入が可能である。X線造影性はガッタパーチャポイントと同等以上である。

というような背景のもとで、右側下顎第一大臼歯感染根管の治療をしていただくことになった。治療のおよその手順は次のようである。

① 根管口明示後、#15Kファイルにて根尖口付近までアクセス。洗浄、貼薬。
② 後日、電気的根管長測定。#35まで拡大。洗浄、貼薬。
③ さらに各根を#40~45まで拡大。洗浄、貼薬。
④ 試作シーラーをレンツロにて根管内へ送り、そのままコア形態まで築造。

使用した薬剤
貼薬前の洗浄:次亜塩素酸ナトリウム水溶液(ネオクリーナー)
貼薬:水酸化カルシウム粉末 + 次亜塩素酸ナトリウム水溶液(ネオクリーナー)
拡大:過酢酸水溶液(アセサイド、ジーシー)

今回のような治療は、治療の簡便化による治療時間の短縮や再感染リスクの低減などの点から、診療者と受診者の双方にとって、利益があると信じている。とはいってもこれは筆者の勝手な思い込みである可能性もかなりあろうと思う。そこで、今回治療してくださったドクターに是非にとお願いしてコメントを書いていただくことにした。筆者としては簡単なコメントでも、というつもりであったのだが、お送りいただいたものは全く想像外の詳細なコメント、本当に感謝申し上げたい。これであれば、臨床家にも十分ご参考になるであろうと信じている。それは次のような内容である。

  • 今回は、通法とは異なる術式・薬剤で施術したわけであるが、使用薬剤の安全性確保およびその薬剤の特性に見合った術式を選択できたものと考えている。
  • 本症例は高度な根管狭窄を生じた歯根に対する感染根管治療で、根尖口までのアクセス・フレア状拡大に多くの時間を費やすことが予想された。
  • 過酢酸は硬組織溶解能を有するため根管拡大には極めて有効で、主にファイリング操作で容易に拡大形成を行うことが可能であった。さらにファイリング操作中にも殺菌作用が期待できるため、作業時間全般を通じて殺菌・拡大・スメア層除去が行えることが大きなメリットである。
  • 根管内切削片により過酢酸水溶液はファイリング操作の早い段階で白濁してくるため、注水下での超音波洗浄→ヒポクロ洗浄→超音波洗浄→軽い乾燥→新たな過酢酸水溶液滴下、という手順を繰り返した。
  • 超音波洗浄の合間にヒポクロ洗浄を行ったのは、開いた根管象牙細管内の有機物を溶解・除去・殺菌することが目的である。
  • 貼薬には、ヒポクロ/水酸化カルシウム混和ペーストを用いたが、レンツロに絡みやすい粉液比にうまく調製するには少々コツが必要であろう。
  • 根管充填にはいくつかの手法を考案した。
    ①シーラーとしての通法通りの使用法。レンツロにて試作シーラーを填入、ガッタパーチャを挿入、ガッタパーチャ切断。後日レジンコア築造。
    ②①と同様に試作シーラーを填入。ガッタパーチャの使用なし。後日コアレジン築造。
    ③②と同様にガッタパーチャを使用せず根管充填を完了し、そのままメタルピンを根管内に挿入、残存した歯冠部内壁にも試作シーラーを塗布し重合硬化させる。その後コア用レジンを用いてコア築造まで行う。
  • 残存する歯冠部歯質の量によっても選択する術式が異なってくるが、ガッタパーチャ使用時にはガッタパーチャの切断除去作業が必須になってくることがデメリットである。試作シーラーはコア用レジンのアドヒーシブ代替としても、市販品をはるかに超える接着能が期待できるため、根管充填から一連の流れとしてコア築造まで行うことは、治療回数の低減やコアまでを含んだ接着界面のシーリングに極めて有効だと考えた。したがって今回は③の術式を選択したが、以下の課題も残った。
    ⓐ硬化時間が比較的長いこと。
    ⓑ試作シーラーの粘度のコントロールにコツが必要であること。
    ⓒ歯肉縁上の残存歯質がない場合(0壁性の残根)には強度的不安が残ること。
    ⓓレンツロを長く回し過ぎると粘度上昇が危惧されること。
    マイクロシリンジ・ニードルでの試作シーラー填入も要検討。

上記課題があるとはいえ、試作シーラーの接着性はマイクロリーケージ・歯根破折の予防、残存する可能性のある細菌の完全包埋(細菌増殖の抑制)、等には極めて有効であると考えられる。

  • 今後はさらなる操作性の向上を、術式・材料の両側面から考えていきたいと思っている。
  • ちなみに一旦根管に填入・硬化した試作シーラーの除去は、無注水下での超音波スケーラー(市販専用チップ使用)操作および溶剤での洗浄で容易に行うことが可能であった。

(2014年1月3日)

追記:
今回の治療内容に関しては、過去のコラムでも何となく触れてきた。①は70回14回、②は70回65回22回、③は52回。それぞれ参照していただくと、より詳細がわかるかもしれないと思う。

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