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2013/11/14

第93回:歯の保存かインプラントか

標記タイトルの歯とインプラントの長期生存率に関するシステマティック・レビューがJADA10月号に掲載されている。この場合の保存は歯周病の観点からの保存である。歯の喪失の最大原因である歯周病に罹患した患者の多くがインプラント治療の対象であると考えられ、部分欠損症例をはじめ単独歯欠損にまで適用されるようになった。このようなインプラント重視の傾向は米国においてとくに顕著であるが、歯周病治療をなおざりにしたインプラント治療に若干疑問を呈したのがこのレビューであるように思われる。ざっと内容を紹介する。

追跡期間が15年以上の論文として、歯について9論文(1978~2011年)、インプラントについて10論文(1999~2012年)を厳選し分析した。全体として、15~30年追跡の歯の喪失率は3.6~13.4%、15~23年追跡のインプラントの喪失率は0~33.6%であった。歯周病による歯の喪失率は論文によりかなりの幅があった。それらの差は各論文での方法論の違いから生じているところもある。22年あるいは19年追跡した論文では、歯が失われた原因は、歯周疾患7.1%、その他1.2%、あるいは歯周疾患9.8%、その他1.5%とされているが、歯の喪失は歯周疾患によるとしている。このことは歯周疾患関連の喪失率の過大評価となる可能性があろうという。

予後の疑わしい歯あるいは望みのない歯はインプラント治療の主要な対象であるが、それら歯の喪失率は前者で11.3~31.1%、後者の慢性歯周炎患者で34.3%、侵襲性歯周炎で40.5%と報告されている。慢性歯周炎患者(40~69歳)および侵襲性(若年性)歯周炎患者(23~42歳)を16年追跡した論文によると、歯の喪失率は前者11.2%、後者8.4%であった。予後の疑わしい歯あるいは望みのない歯の喪失率は、それぞれ、慢性歯周炎で20.4%と34.3%、侵襲性歯周炎で11.8%と40.5%であった。このことは、全体の歯の喪失率および歯周病罹患歯(初期の予後に基づく)の歯の喪失率は、歯が適切に処置されメンテナンスされていれば侵襲性疾患の影響を受けないことを示している。

次にインプラントに関してである。15~23年追跡でのインプラントの喪失率0~33.6%、骨の喪失量0.05~2.1mmであった。10年までの短期の追跡では、インプラント喪失率1~18%、骨喪失量0.7~1.3 mmというレビュー論文があり、追跡期間が延びると骨とインプラントの喪失が増加することを示唆している。インプラントは生存率が高いとされているが、合併症の問題がある。ある論文によれば、インプラント周囲粘膜炎が80%の患者、50%のインプラント部位に、インプラント周囲炎が16~56%の患者の7~43%のインプラント周囲に発生した。こうしたことからすると、多くのインプラント(約5本に1本)がインプラント周囲疾患になるだろうとしている。

インプラントの失敗率は、喫煙者や糖尿病、放射線治療歴がある、骨の量・質が低下している、インプラント周囲炎、歯周炎関連の歯の喪失歴がある、などの患者で増加する。喫煙の影響については、21年追跡の論文では喫煙歴のある患者の20.2%がインプラントの失敗を経験、別の論文ではインプラント生存率が喫煙者と非喫煙者で87.8%と97.1%という差があったと記されている。糖尿病はインプラント失敗のリスク因子であるとの報告が多い。21年追跡の論文には糖尿病患者のインプラント生存率は69%とある。

歯周疾患に罹りやすい患者は、インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎のようなインプラント周囲感染を発症しやすい。歯周炎で歯を喪失した患者は、歯周炎関連での歯の喪失のない患者にくらべ、10年後インプラント周囲炎の発症が有意に多く、5年後インプラント周囲骨喪失が有意に増加した。歯周炎歴のある患者のインプラント周囲炎発症率37.9%、それがない患者は10.5%という報告、歯周炎歴の有無でインプラント生存率が90.5%と96.5%と差があるという論文、さらに、難治性歯周疾患の患者はインプラントの失敗と合併症が多く、13年のメンテナンス期間中に25%のインプラントが喪失などという論文がある。

15年以上の追跡で全体の歯およびインプラントの喪失率はそれぞれ3.6~13.4%と0~33.6%であった。このことは、歯よりもインプラントの喪失率のほうが概して高いことを示唆しており、長期的にはインプラントの生存は歯の生存を超えることはないという論文と一致している。こうした結果から以下のような考察がされている。歯が維持された期間に関わりなくいつの時点でも抜去された歯はインプラントで置換できる。このことは、臨床家は可能な限り歯を保存できるということである。抜歯は最終的、不可逆的処置である。望みのない歯あるいは疑わしい歯にかぎっていえば、歯の喪失率は20~62.3%と高い。それでも、インプラントの生存は、生存しているインプラントが機能していない、あるいはかなりの骨の喪失を起こしている可能性があることから、インプラント治療が成功しているとは必ずしもいえないということに留意すべきである。

結論は次のように記されている。治療計画時の臨床家の最終ゴールは各治療法のリスクを把握して成功の確率を高めることであるが、このレビューを考慮すると、適切に治療されメンテナンスされた歯をできるだけ長く維持することが長期での治療リスクを低減できることにつながると思われる。

このレビューを読むと、米国では歯周専門医によりかなり安易に歯周病罹患歯の抜歯、インプラント治療が行われているような印象を受けた。我が国での歯周専門医の取り組みはどのようなものであろうか?抜歯に関しては、日本歯周病学会作成の「歯周病患者におけるインプラント治療の指針2008」(2009年3月公表)の中で歯周病罹患歯の抜歯の判断基準が提案されている。インプラント治療の実態については、同学会の評議員、専門医を対象とした「インプラント治療に関するアンケート調査」が2010年に行われ、その結果は同学会会誌(日歯病誌)54巻3号(2012)に報告されている。回答者(283人)の82%がインプラント治療経験を有し、歯周病患者へのインプラント治療は、78%の歯科医師が実施していたが、17%の歯科医師は長期予後に不安がある、設備や環境が整っていない、歯周病の既往がインプラント周囲炎のリスクとなる、インプラント周囲炎治療法が確立されていないなどの理由から実施していないと回答した。合併症については、インプラント周囲炎が19% で最多、次いで、アバットメントスクリューやオクルーザルスクリューの破折、インプラント体の破折等の破折が合計で24% と多かった。

我が国ではインプラントがまだそれほど一般的ではなく、また公的保険診療制度があることから、まだ米国のような状況にはなっていないようであるが、筆者のような患者の立場としては、上記レビューの著者らが示唆しているように、可能な限り歯の保存に努力してほしいと思うのである。
(2013年10月31日)

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