▶新規会員登録

記事

2013/10/24

第88回:国民の医療・保健への歯科界の貢献に期待する

5月のDentWaveニュースを見ていると、「日本リウマチ学会:歯周病と関節リウマチの関係ついて興味深い研究発表」(2日)、それと「厚労省、医科・歯科連携促す 取り組む自治体に助成」(16日)という記事があり、これをみて1年以上前に書いたコラムと似たような趣旨のことを記す気になった。

歯周病と全身性疾患との関連性については、糖尿病がよく知られたところであるが、それ以外に心血管系疾患、呼吸器感染症、早産・低体重児出産、骨粗鬆症、メタボリックシンドロームなども挙げられている。さらに近年では、歯周病と関節リウマチ(rheumatoid arthritis、以下RAと略)には共通の原因となる病理的特徴があると考えられてその関連性も注目され、歯科も糖尿病だけでなく、RAの医療にも貢献できる可能性があることが示唆されており、歯科にも何らかの役割を期待したいのである。

日本リウマチ学会での京大病院・リウマチセンターからの発表は、診断未確定・無治療の関節痛患者を対象に、歯周病の合併がその後の治療などに及ぼす影響を調べたものであるが、「歯周病を有する患者は有さない患者と比べて関節炎の活動性が高く、後にRAと診断され、メトトレキサート治療を導入される可能性が高い」というのが要約である。これは症例研究の一例であるが、多数の症例研究を含め2012年6月までの19論文をまとめたシステマティックレビューがJournal of Dental Research 5月号に掲載されている。これは、abstractをもとに選んだ61論文から、全文および方法の妥当性を検討して厳選した19論文(症例研究16、実験的研究3; 定量的なメタ分析では12論文を採用)のレビューである。そのおよその内容は次のようである。歯周病とRAとの関連性は、歯の喪失、歯肉の付着喪失で強く、RA患者はそうした観点から見て有意に多く歯周病に罹患した。両疾患の関連性は、赤血球沈降速度、CRP(C反応性タンパク質)、IL(Interleukin)-1βでかなり認められた。抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体、リウマトイド因子、TNF (腫瘍壊死因子)などの炎症マーカーとの関連性は、明確ではないかあるいはなかった。歯周病のあるRA患者の血清中の歯周病原菌・P.gingivalis 抗体レベルの増加はある程度の関連性があった。歯周病を治療するとRAの臨床症状の改善に役立つということがある程度認められた。

もう一つの厚労省云々という記事はその情報源は5月14日の日経新聞電子版であるが、厚労省が歯科にどのようなこと想定しているのかと思ってそれを見ると、「病院での通常治療に歯周病などの歯科治療を組み合わせてがんや糖尿病の治療効果を高める「医科歯科連携」の普及に乗り出す。連携に取り組む地方自治体向けの助成制度をつくり、今年度から全国十数カ所でモデル事業を開始。数年で約100カ所へ広げる。薬の使用量や入院日数を減らし、医療費の抑制につなげる。・・(略)・・具体的には糖尿病の患者やがん治療で入院する患者に対し、歯科医師が口内を診察して歯周病などを治療する。病院には歯科が設けられていない場合が多く、外部の診療所と組織的に連携して歯科医を招く。」などと書いてある。

この構想では、医科が歯科に単に治療の協力を求めることのようであり、この程度のことであれば予算措置して大げさに手間ひまかけてするほどのことでもあるまい、というのが筆者の感想である。もう少し歯科の医科への積極的関与のある連携も想定されているのかと思っていたため、残念ながら大いなる期待はずれである。この構想で重要課題である”医療費の抑制につなげる”がどの程度達成できるか極めて疑問である。罹患後治療ではなく、予防的観点を重視することが、国民の保健、延いてはとくに高齢者の医療費抑制に必要であると思う。それには、医科と並んで医療の重要な人的資源である歯科を積極的に活用しないのは惜しいことである。

最近病院に行ったところ、待合室に糖尿病に関する各種の小冊子が置いてあり、その中に”糖尿病と歯周病をよく知ろう”という12頁のマンガの小冊子があった。その中に下図のようなシーンがある。例えばこのような形での歯科主体での医科歯科連携も厚労省は積極的に考えてほしいと思うし、実際にこのような取り組みをしている歯科医院もあるということである。じつは1年以上前の74回コラム「糖尿病対策と歯科への期待」で海外論文を紹介しつつ”歯科医院通院ついでに血糖値を測定してもらえるとしたら、それは患者にとってありがたいことであろう”などと書いたことがあり、このマンガを見て嬉しく思うとともに意を強くしたことである。74回コラムをぜひもう一度ご覧いただきたいと思う。

筆者の頭にある歯科での予防的役割というのは例えば次のようなものである。糖尿病ではマンガのようなことでこの場合には簡単ながらも測定が必要である。RAの場合には問診のみでよいと考えている。すなわち、RAの診断では左右の肩・肘・手・膝各1関節と手指10関節、合計28関節の圧痛関節数と腫脹関節数が最も基本的なデータの一つになっているようであるが、歯科ではこれら部位での疼痛の自覚症状を問診する程度でよいであろう。その結果次第では、歯周病の重症度により、患者がまだ医科でRAの受診していないようであれば医科での受診を勧め、それと並行して歯周病治療を進める。”歯周病を治療すればRAもよくなる、あるいはRAを治療すれば歯周病もよくなる”という観点から、診療者、患者ともに、医科でのRA、歯科での歯周病の治療の重要性を認識することが大切だと思う。

予防的という観点からRAと歯周病について記したが、さらに進んでRAの治療に歯科が積極的に関与できる可能性もあることを66回コラムで紹介した。内科医から紹介された関節痛(RA)などのある患者から金パラを除去すると、ほとんどの症例において痛みが消失あるいは軽減した話である。これは歯科金属補綴物に由来する医原病としてのRAの原因除去療法といえ、積極的な医科歯科連携により患者が救われるケースである。

(2013年6月3日)

記事一覧
プロフィール 第122回:清涼飲料の酸蝕性と酸蝕症(2016/08/01)第121回:セラミックインレー/アンレーの寿命(2016/07/12)第120回:最近のう蝕治療の考え方(2016/06/03)第119回:患者の望む歯科医療(2016/05/10)第118回:根管治療に関する記事へのコメント(2016/03/31)第117回:レジン修復と二次う蝕(2016/03/01)第116回:歯科インプラントは万能かそれとも歯の保存に努力すべきか(2016/02/01)第115回:ハイブリッドレジン、ジルコニアの接着(2015/12/16)第114回:ハイブリッドレジン製CAD/CAM冠の脱離(2015/11/10)第113回:歯周病にまつわる最近の論文から(2015/10/08)第112回:光線力学的治療(Photodynamic therapy, PDT)の医療における利用(2015/09/01)第111回:慢性歯周炎治療におけるスケーリング・ルートプレーニングと補助療法の効果(2015/08/03)第110回:破折歯の診断と処置(2015/06/29)第109回:グラスファイバーポストを利用した支台築造(2015/05/18)第108回:バルクフィルレジンについて考える(2015/04/07)第107回:う蝕乳臼歯の治療の見直し(2015/03/03)第106回:臼歯のコンポジットレジン修復物の寿命(2015/01/19)第105回:CAD/CAMの保険導入と今後(2014/12/02)第104回:非う蝕性歯頸部欠損の修復(2014/10/27)第103回:MTAをめぐる動き(2014/09/18)第102回:EPAとDHA神話の行方(2014/08/12)第101回:深在性う蝕の治療―銅セメントはよみがえるか?(2014/07/22)第100回:歯科における接着―その源流(2014/06/11)第99回:インプラントの不具合と医療機関の対応(2014/05/02)第98回:歯科のかかわりが疑われる医原性疾患(2014/04/09)第97回:ノンクラスプデンチャーについて考える(2014/03/07)第96回:知覚過敏抑制材料(2014/02/10)第95回:根管治療の新しい試み(2014/01/06)第94回:根尖性歯周炎の全身への影響と治療(2013/12/03)第93回:歯の保存かインプラントか(2013/11/14)第92回:歯耗(Tooth Wear)の発生状況とそのリスク因子(2013/10/24)第91回:予防指向の歯科医療(2013/10/24)第90回:初期う蝕の革命的処置法(2013/10/24)第89回:う蝕治療の再考を!(2013/10/24)第88回:国民の医療・保健への歯科界の貢献に期待する(2013/10/24)第87回:修復物のリペア(2013/10/24)第86回:英国版歯科疾患実態調査と歯周診査のありかた(2013/10/24)第85回:早急に"代用合金"から脱皮を!(2013/10/24)第84回:根管治療歯は時限爆弾?(2013/10/24)第83回:歯質接着システムは進化している?(2013/10/24)第82回:生活歯髄治療の成績(2013/10/24)第81回:薬事工業生産動態調査から見た歯科材料の動き(2013/10/24)第80回:平成23年歯科疾患実態調査について(2013/10/24)第79回:深在性う蝕の治療―窩底軟化象牙質をどうするか(2013/10/24)第78回:根管治療成績について考える(2013/10/24)第77回:歯みがき後のうがい ―フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果を高めるには―(2013/10/24)第76回:成人のう蝕予防(2013/10/24)第75回:メタルボンドか、オールセラミッククラウンか(2013/10/24)第74回:糖尿病対策と歯科への期待(2013/10/24)第73回:インプラント義歯の保険導入(2013/10/24)第72回:不況は米国の歯科界にどのような影響を及ぼしているか(2013/10/24)第71回:う蝕乳臼歯処置の新たな選択肢(2013/10/24)第70回:根管治療の見直しと新しい試みを!(2013/10/24)第69回:垂直歯根破折の処置(2013/10/24)第68回:コンポジットレジンのリペア(2013/10/24)第67回:Siloraneモノマーをベースとする画期的コンポジットレジン(2013/10/24)第66回:歯科金属アレルギーと慢性疲労症候群(2013/10/24)第65回:根管の化学的清掃(2013/10/24)第64回:インプラントをめぐるせめぎあい(2013/10/24)第63回:メタボリックシンドロームと歯周病(2013/10/24)第62回:東日本大震災によせて(2013/10/24)第61回:象牙質知覚過敏の治療(2013/10/24)第60回:支台築造をめぐって(2013/10/24)第59回:短縮歯列(2013/10/24)第58回:インプラント歯科の教育をどうするか(2013/10/24)第57回:くさび状欠損の原因は歯のくいしばり?(2013/10/24)第56回:英国における最近の欠損補綴治療(2013/10/24)第55回:う蝕治療にどう対応するか?(2013/10/24)第54回:根管充填をめぐる話―日本歯内療法学会から(2013/10/24)第53回:う蝕が減るとどうなる?(2013/10/24)第52回:接着性レジンシーラーの前途はどうなる?(2013/10/24)第51回:ビスフェノールA(BPA)をめぐる最近の動き(2013/10/24)第50回:総義歯の将来(2013/10/24)第49回:インプラントブームについて考える(2013/10/24)第48回:ミニマルインターベンションに基づく修復(2013/10/24)第47回:金パラ(2013/10/24)第46回:東京デンタルショー2009(2013/10/24)第45回:歯と全身の病気の関係(2013/10/24)第44回:増原英一先生のご逝去を悼んで(2013/10/24)第43回:歯耗 -Tooth Wearー(2013/10/24)第42回:ジルコニアはフッ酸でエッチングできる?(2013/10/24)第41回:ポリフェノールと歯科における効用(2013/10/24)第40回:修復物からのフッ素放出の効果(2013/10/24)第39回:インパクトファクター(2013/10/24)第38回:英国の歯科治療(2013/10/24)第37回:ホルムクレゾールをめぐる論争(2013/10/24)第36回:ファイバーポストについて(2013/10/24)第35回:セルフエッチングシステムについて考える(2013/10/24)第34回:日本デンタルショー2008から(2013/10/24)第33回:義歯と義歯安定剤(2013/10/24)第32回:歯頸部欠損の修復(2013/10/24)第31回:セルフアドヒーシブ・ルーティングセメント(2013/10/24)第30回:接着ブリッジ(2013/10/24)第29回:日本歯科保存学会春季学術大会講演抄録集を見て(2013/10/24)第28回:日本歯科理工学会学術講演会から(2013/10/24)第27回:根管治療結果の大規模調査(2013/10/24)第26回:光重合について考える(2013/10/24)第24回:アマルガムは何で代替されたか(2013/10/24)第23回:歯科におけるミニマル・インターベンション(2013/10/24)第22回:日本歯科保存学会講演抄録集を見て(2013/10/24)第21回:アマルガムはどうなっているか(2013/10/24)第20回:歯を失う原因(2013/10/24)第19回:5月の学会学術講演会の講演集から(2013/10/24)第18回:レジンの硬化や接着に好ましくない影響を及ぼすもの(2013/10/24)第17回:日本歯科保存学会に出席して(2013/10/24)第16回:むし歯予防週間によせて(2013/10/24)第15回:水酸化カルシウムとFC(続)(2013/10/24)第14回:水酸化カルシウムとFC(2013/10/24)第13回「納豆でダイエット」と食育(2013/10/24)第12回:デュアルキュア(2013/10/24)第11回:改正薬事法と歯科器材(2013/10/24)第10回:歯のホワイトニング(2013/10/24)第9回:最近のコンポジットレジン(2013/10/24)第8回:ファイバーポスト(2013/10/24)第7回:HEMAのはなし(2013/10/24)第6回:根管治療かインプラントか(2013/10/24)第4回:金属アレルギーと歯科治療(2013/10/24)第3回:接着歯内療法(2013/10/24)第2回:合着と接着(2013/10/24)第1回:歯科における接着の話(2013/10/24)

新着ピックアップ


サンデンタル テクニカルセミナー 2019

「3X-Power System」を新開発!26Wへパワーアップを実現!

第112回歯科医師国家試験の総評と今後の展望

難易度高過ぎ!?現役歯科医師らが歯科医師国家試験に物申す

医療広告ガイドライン対策