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2013/10/24

第66回:歯科金属アレルギーと慢性疲労症候群

本ウェブサイトの「知恵の輪」コーナーに”パラジウムの為害作用”と題する質問が3年ほど前に投稿されていた。その詳細は直接参照していただくとして、その要点はおよそ次のようである。「関節の痛み、頭痛、腰痛、肩こりなどいろいろな慢性的体調不良、不快症状のある患者から金パラを除去し、金合金、セラミックスなどで処置すると、ほとんどの症例において不快症状が消失あるいは軽減したが、このことについてコメントがほしい」。本当にそのようなことがあるのかと思っていたが、具体的反響は1件にとどまり、このことはずっと気になっていた。そこで、少し調べてみることにした。

Contact Dermatitis 2011年4月号に掲載の”21世紀の金属アレルゲン – 曝露、疫学とパラジウムアレルギーの臨床症状”というレビューをまず読んだ。これは、1986〜2008年の文献に記載されている、塩化パラジウムを使用してパッチテスト(PT)を行った皮膚炎患者6,808人、歯科患者3,970人の結果をまとめたものである。それら患者群でのパラジウム(Pd)アレルギー発生率の中央値(範囲)は、前者7.8(1.0-19.0)%、後者7.4(1.3-13.9)%であった。これはNiとの交差反応の結果を含むものであるが、NiアレルギーはなくPd単独のアレルギーは各群それぞれ0.2%と0.5%であり、PdとNiのアレルギーは同時に認められることが多かった。これでPdアレルギー発生のおよそのことはわかったのだが、残念ながら、「知恵の輪」の質問に関連するような事項についてはまったく触れられていなかった。なお、このレビュー掲載誌の7月号に、Pdアレルギー発生率を過小評価しすぎているというコメントがあり、それはPT試薬として塩化Pdが不適切なためであり、それをナトリウム4塩化Pdに変えると陽性率がずっと上がるという。これに対し、レビューの著者らもそのことは認めており、指摘されたPd化合物を最近は推奨していると回答している。

次に見たのは、インターネットで出合った「環境保健クライテリア(Environmental Health Criteria) 226 パラジウム」という、WHOの専門家委員会がまとめて2002年にWHOが公表した文書である。その中にはPdに関する様々な情報が記されていた。Pdを含む歯科金属により引き起こされたとされる過敏反応症例の一覧表があり、その症状は多岐にわたっている。最も一般的な症状は、口腔扁平苔癬、皮膚炎、湿疹、じんま疹、金属味、口腔内乾燥や灼熱感、顔面痛、顎の痛みや疲労などである。このような局所症状だけでなく、慢性疲労症候群のような関節や筋肉がかかわる全身症状、あるいは倦怠感、集中困難、めまい、睡眠障害、頭痛、うつ病などの中枢神経系障害なども記されている。Pd塩に対するPT陽性は、口腔内症状あるいは皮膚炎と必ずしも関連しているとはいえず、Pdで感作されたリンパ球を介して全身症状として現れる可能性もあるという記載もみられる。

その可能性に関係する論文として、スェーデンのStejskalらによる”金属特異的リンパ球:ヒトにおける感作のバイオマーカー”が1999年のNeuroendocrinology Lettersに発表されている。歯科修復に起因して金属アレルギーの疑いがあり、局所および慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome、CFSと略)に代表されるような複数の慢性の全身症状に悩まされている患者3,162人について、リンパ球増殖試験(MELISA)により金属が誘発するリンパ球の反応を調べた。金属に過敏でCFSに似た症状のある111人の患者については、歯科金属の除去効果を検討した。かなりの患者の血液に金属特異的リンパ球が認められた。陽性率は、Niが女性45%、男性29%と最も高く、続いて水銀>金>Pd(20〜13%)、銀、白金、銅などは3%以下であった。金属除去により、76%の患者が長期に健康を回復したが、22%では変わらず、2%は症状が悪化した。金属除去・非金属材料での再修復処置後には金属に対するリンパ球の反応は低下したが、その度合いは金属の種類により異なっていた。陽性率を開始時と比較すると、Niでの低下は比較的小さく、Pdで最大の低下、次いで水銀、金であった。健常者群とCFS群の陽性率を比較すると、Niでの差は小さいのに対し、Pd、Hg、Auでの差は顕著であった。CFSなどの症状が生ずるのは、金属によって刺激されたTリンパ球を介した炎症反応のためと考えている。

WHOの文書には、ドイツでは1993年にPd-銅合金は使用しないようにという勧告が出されていると記されている。そこで調べてみると、ドイツ連邦保健省が1993年に公表した「歯科治療における合金」という文書の中で、歯科医師、技工士、患者、メーカーに対して、”歯科鋳造合金/歯科用ろうおよび歯科矯正用合金の選択と加工におけるリスク最小化”という勧告を行っている。その中に、耐腐食性および生体適合性が以前に試験されていない限り、Pd-銅合金の使用を控えるようにという記載がある。また、WHOの文書の最後にも、Pdを含有する歯科合金について、ある種の合金の使用制限あるいはPdの溶出が最低限の合金の使用が望ましいという勧告が記されている。

Pd-銅合金はPd合金の中でも耐腐食性が乏しく、銅が溶出しやすいことが知られているが、Pd合金の成分、組成によって耐腐食性は大きく変化するため、ドイツやWHOのような勧告となっている。我が国で保険適用となっている20%Pd含有の金/銀/銅合金の位置づけはどのようになるのか不明である。しかし、東京医科歯科大学の歯科アレルギー外来で2006〜7年に行った金属アレルギー被疑患者485人のパッチテスト(PT)結果によると、Niの陽性率が21%で最高、ついでCo>Hg>Pd(9.5%)の順となったという(日本歯科理工学会誌2010年6号)。一般人がPdで感作される危険性は歯科修復物、ジュエリーからとされているが、Pdのかなり高い陽性率からすると、保険適用の金パラも一応要注意ということになろうか。さらに注意を要するのは、すでに述べたように、PT試薬を変えると陽性率がさらに上昇する可能性である。

Stejskalらの報告している歯科金属で感作されている患者のことは、「知恵の輪」の内容と非常に似ており、質問での患者にもCFSの可能性があるように思われる。CFSは、強い疲労が少なくとも6ヶ月以上の期間持続、ないし再発を繰り返し、微熱、咽頭痛、リンパ節腫張、筋肉/関節痛、筋力低下、頭痛、睡眠障害、思考力/集中力低下などの症状を伴い、ほかの検査などで器質的疾患も見つからない場合とされるが、治療法はない。原因については様々な説が出されているが、その中に歯科金属は含まれていない。しかし、Stejskalや「知恵の輪」の話からすると、歯科金属(とくにPd、水銀)も重要な因子の一つとして対処するのが望ましいと筆者には思われる。

患者の口腔内にPd合金やアマルガムを見つけたら、患者に体調についてひとこと質問して欲しいと思う。これは医科医師ではむずかしく、歯科医師のみができる医療行為である。いま、医科-歯科連携が取りざたされているが、CFSと歯科金属との関係は、その連携の一つのモデルとなり得るものである。じつは、「知恵の輪」の症例も”懇意にしている内科医から多数紹介された患者”であることが書かれている。これまでは、歯科金属アレルギーといえば、湿疹、掌蹠膿疱症、皮膚炎、扁平苔癬、口内炎、舌痛症、口腔内違和感・灼熱感など、局所的疾患・症状のみに焦点が当てられてきたが、全身症状への考慮も必要な患者もいることを歯科医師も理解しておいて欲しいと思う。

(2011年7月31日)

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