第52回:接着性レジンシーラーの前途はどうなる?

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4年ほど前の第3回コラムで当時発売後間もない接着性メタクリレートレジン系シーラー(以下、接着性シーラーという)の話題を取り上げたが、その時このようなもので果たして満足な成績が得られるのだろうかという疑問を持っていた。その後、接着性シーラーに関する論文も増えてきたが、226編の論文をまとめたレビューがJournal of Endodontics36巻3号383-399(2010)に最近掲載された。従来臨床で広く行われているガッタパーチャ(GP)/シーラーによる根管充填では根管の完全封鎖は困難であることから、修復領域での接着性レジンの成功を受けて、歯内領域でも接着性シーラーが登場したのであるが、接着性シーラーには厳しい内容となっている。その一部を紹介しよう。 “メタクリレートレジン系シーラーは従来の非接着性シーラーよりもよく根尖/歯冠を封鎖できるか?”という問いには、38論文をまとめた結果、よい36.8%、悪い34.2%、差なし28.9%となっている。さらに、“従来の非接着性シーラーと根管充填材とくらべ、メタクリレートレジン系シーラーと接着性根管充填材は根管充填歯の破折強度を高めるか?”では、13論文の結果をまとめると、差なし61.5%、強める23.1%、弱める15.4%となっている。いずれにしても非常に期待を裏切るデータである。このような結果として、“根管充填にとって、接着性メタクリレートレジン系シーラーは非接着性の従来品よりも良い代替品だろうか?”と疑問を呈され、“現在得られているデータからすると、メタクリレートレジン系シーラーと接着性根管充填材を併用しても、明らかに利益があるとはいえそうにない”という結論になっているのである。さらに、次のような一文も記されている。“接着性シーラーと接着性充填材を臨床家が使う理由はさまざまである。ある人は営業成績を上げる売り込み手段として使う、またある人は以前に従来のシーラーと非接着性根管充填材で失敗したためその解決策と考えるかもしれない”。このような記述を見ると、要するに、接着性材料は歯内領域ではまだまともに認められてないということが残念ながら理解できた。 接着性シーラーの臨床評価報告は極めて少ない。比較臨床試験は1報だけである。GP/酸化亜鉛・ユージノールシーラーとResilon/Epiphanyを加熱充填法で充填して2〜25月追跡調査した結果によると、成功率はそれぞれ78%、79%(リコール期間を12〜25月に限るとそれぞれ86%、85%)となっており、差は認められていない。接着性シーラーのみを評価した報告では、GP/EndoREZの1〜2年成功率91%(5年では86%)、Resilon/Epiphanyの1年以上成功率89%というのがある。いずれにしても、従来法あるいは接着シーラー法ともに1〜2年の成功率は約90%というところらしく、接着性シーラーの優位性は今のところ認められていない。 レビューで取り上げられている論文で多用されている接着性シーラーはEndoREZ(Ultradent)、Epiphany(Pentron)(同製品がSybronからはRealSeal)であり、従来型シーラーはエポキシ樹脂系のAHプラスあるいはその旧製品のAH26であり、酸化亜鉛・ユージノールは極めてまれである。接着性シーラーには上記以外にMetaSEAL(Parkell)(同製品が欧州向けにはHybrid root SEAL)(Sun Medical)があるが、発売が2007年であったこともあり、報告は非常に少ない(AHプラスやRealSealと封鎖性の差はない、あるいはよいという論文がある)。さらに我が国にはスーパーボンド根充シーラーがあるが、レビューには登場しない。 このレビューでは、根管充填材、シーラー、根管壁の一体化ということにかなりの焦点が当てられ、各界面での接着、歯根の強度などの観点からのまとめもあるが、現在のところ十分な一体化や一体化効果による強度向上は実現されていない。それらのことは、シーラーは根管および根管充填材に接着性を有しており、可能であると販売元は謳っている。しかし、そもそもGPやResilonのようなやわらかな材料を充填して歯根が強化されるという発想が筆者には理解できない。従来型シーラーおよび接着性シーラーともに、近年多用されている流体ろ過法による漏洩試験(根尖側あるいは歯冠側から加圧しながら液体を流し、漏洩する液体量を計測する方法で、定量性に優れている)では、根尖部でのわずかな漏洩を含め、すべて漏洩するという結果になっている。これは、シーラーもさることながら、GPやResilonのような根管充填材を用いているかぎり、完全封鎖、歯根強化には限界があり、根本的な発想の転換が必要ではないかと思っている。 筆者がずっと頭に描いてきたのは、根管壁から接着性レジンの重合をスタートさせて根管壁を完全に封鎖しつつ、根管内すべてをレジンで充填するというものであり、すぐれた根管封鎖性と歯根強化を図ることが可能である。このようなアイディアが実現可能であることは過去の学会で報告している。じつは、これに近いアイディアの製品が既に上市されている。それは、接着臨床研究会支台築造研究部会の提唱に基づき製品化された、根管充填、支台築造をまとめて行うi-TFCシステムである。このシステムは、MMA-TBBレジン(スーパーボンド)系シーラーで根管充填、根管形成、ボンディング材処理、レジン填入、ポスト挿入、レジン硬化、コアレジンの築盛・硬化、支台歯形成という一連の流れとなっており、GPなどの入る余地はない。このシステムが今後どのような評価を受けるか楽しみであるが、現在上市されているスーパーボンド根充シーラーは使いにくく、普及を進めるにはその改良が不可欠である。本システムは、今のところ、理にかなったすぐれた根管充填システムであるが、MMA-TBBレジンになじみのない海外で理解されるのは容易ではないだろうと思う。当分は、残念ながら、いわゆる“ガラパゴス化”して日本で進化を遂げるしかないような気がしている。 今回のレビューを読んで、つい思い出してしまうことがある。1950年代、従来のシリケートセメントの代わりとして、修復用のMMA系即時重合レジンが登場し、臨床家の注目を集めた。しかし、接着性がまったくなかったこともあって、短期間で歯髄症状が現れ、疼痛、歯髄死を起こし、臨床家は期待を裏切られて従来のシリケートセメントにもどらざるを得なかった。そしてそのとき、MMAは歯科で利用されているモノマーの中では最も安全性が高いにもかかわらず、その原因はMMAの為害性のためという誤った印象を臨床家に残してしまったのである。現在上市されている接着性シーラーは、修復領域での接着の水準からすると、明らかに低レベルである。“接着性”を謳うのもおこがましいと思われるような製品がほとんどであり、ホンモノの“接着性”シーラー普及の妨げにならねばよいがと懸念し、1950年代の修復用MMA系レジンの轍を踏まないでほしいと願っている。 (2010年5月30日) 追記: レビューで取り上げられた論文で多用された製品および我が国で上市されている製品の情報を附表としてまとめた。興味をもたれる方はご覧いただきたい。 製品名 (製造元あるいは販売元) 成分・特徴など(販売元説明およびカッコ内は文献情報やコメント)   AHPlus (Dentsply),国内販売 ペーストA: ビスフェノール-Aおよびビスフェノール-Fエポキシ樹脂 (分子量700以下)(25-50%),タングステン酸カルシウム,酸化ジルコニウム(10-25%),シリカ ペーストB: アダマンチンアミン(5%),N,N-ジベンジルオキサノナンジアミン-1,9(10%),タングステン酸カルシウム,酸化ジルコニウム,シリカ,シリコーンオイル (粉液タイプであった旧製品のAH26とはやや成分が異なる)エポキシ樹脂系従来型非接着性レジンシーラー EndoREZ (Ultradent),国内未販売 ベース: UDMA(30%),BPO(0.2%) キャタリスト: TEGDMA(50%),ジエタノール-p-トルイジン(<1%) コンポジットレジン系第2世代接着性シーラー;(造影材は当然添加されている。一部説明にユージノール含むとあり);接着には根管内を湿潤状態にする(親水性ありという),アルコール乾燥は不可;次亜塩素酸の影響あり;GPと接着(弱い);(セルフエッチング機能なし) Epiphany SE (Pentron),国内販売;国内販売 RealSeal SE (Sybron) エトキシビスフェノールAジメタクリレー,HEMA,BisGMA,酸性メタクリレート(4-MET/4-META),シラン処理バリウムガラス,シリカ,ヒドロキシアパタイト,カルシウム/アルミニウム/フルオロシリケート,ビスマスオキシクロライド,BPO,アリルチオ尿素(化学重合促進剤),光重合開始剤(プライマーを用いる第3世代接着性シーラーのEpiphanyとは成分が少し異なる)コンポジットレジン系第4世代セルフエッチタイプ接着性シーラー;接着には根管内を湿潤状態にする,アルコール乾燥は不可(乾燥したほうが重合促進されるという報告あり);セルフエッチング機能あり(弱い;エッチングに必要な水を含まぬためこれは当然?pH 3.9でpH 2.5の第3世代シーラーでのセルフエッチプライマーよりエッチング力弱い);次亜塩素酸の影響あり;GPやResilonと接着(弱い) MetaSEAL (Parkell)米国で販売 Hybrid Root SEAL (Sun Medical) 欧州で販売,国内未販売 液: HEMA/4-META (40%),ジメタクリレート (60%) 粉: 酸化ジルコニウム (80%),シリカ (12%),スルフィン酸ナトリウム・光重合開始剤 (8%) コンポジットレジン系第4世代セルフエッチタイプ接着性シーラー;根管内湿潤していても可,アルコール乾燥については未記載;セルフエッチング機能あり(弱い;4-METAがスルフィン酸塩の活性化に消費され,またエッチングに必要な水を含まぬため当然?);次亜塩素酸の影響は未記載(スルフィン酸塩が存在するため影響少ない);GPやResilonと接着(弱い) スーパーボンド 根充シーラー (サンメディカル) 国内のみ販売 液: MMA/4-META+キャタリスト(TBB) 粉: PMMA, 酸化ジルコニウム MMA系接着性シーラー;(冷却必要,操作性悪い)   UDMA,ウレタンジメタクリレート;BPO,過酸化ベンゾイル;TEGDMA,トリエチレングリコールジメタクリレート;HEMA,ヒドロキシエチルメタクリレート;BisGMA,ビスフェノールA/グリシジルメタクリレート付加物;4-META,4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物;4-MET,4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸;MMA,メチルメタクリレート;TBB,トリブチルボラン根管充填材(ポイントなど):GP,ガッタパーチャ;Resilon,ポリカプロラクトン/コンポジットレジン/ガラス
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