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2013/10/24

第45回:歯と全身の病気の関係

“歯科医ももう少し医療に貢献できるのではないか”という期待を抱かせる、興味深くも論議を呼びそうな論文を目にしたのでその一部を紹介しよう。それは、“糖質食と歯科-全身疾患”と題してJournal of Dental Research 88巻6号490-502頁(2009)に掲載された、米国ワシントン大学歯科公衆衛生学科Hujoel(フジョー)教授のレビューである。

食事の糖質が歯と全身の健康や病気にどのように関係しているかを巡って対立する二つの説がある。Cleaveは精製した小麦粉や砂糖のような糖質は歯の病気を含め多くの西洋病の原因であるとし(1966年)、またYudkinも砂糖は歯および全身の慢性非伝染性疾患の原因であるとした(1972年)(Cleave-Yudkin説)。この説によれば、歯および全身の疾患は発酵性の糖質(炭水化物)の過剰摂取にあり、歯の疾患(例えば、う蝕、歯周病、ある種の口腔がんと白血病)は、将来の全身の疾患(例えば、心臓血管病、糖尿病、ある種のがん)に対する警報、初期マーカーであり、歯の疾患は糖質の摂取制限で予防すべきであるという。一方Keysは、全身の病気のおもな原因は過剰な脂質の摂取にあるとし、健康的な食事には脂質を減らして糖質の摂取を増やすのがよいという(1959年)。このKeys説では、歯の疾患は食事の局所的な影響とみなし、糖質は歯と全身の疾患の共通因子とは見ていない。

1980年に出された米国の食事ガイドラインでは、おもにKeys説に基づき、脂質の摂取を減らして糖質を増やすことが推奨された。1980〜2009年の検証で得られたエビデンスでは、Cleave-Yudkin説が優勢であり、Keysの低脂質食説の裏づけは得られていない。低脂質食は、約13,000人の男性を対象にした調査ではやや死亡率を増加させ(1982年)、約50,000人の女性についての調査では心臓血管病、乳がん、大腸がんを減らせず(2006年)、また比較試験で生存率や肥満に影響を与えないとされた(2000、2002年)。

Cleave-Yudkin説はまだ十分検証されないままとなっているが、この説の裏づけとなるような結果が集まりつつある。グリセミック・インデックスの高い食物は、糖尿病、冠動脈心疾患、胆嚢疾患、乳がんおよびこれらの合併症のリスクを高めることが示唆されている(2008年)。低糖質食は体重減と心臓血管疾患のマーカーの改善に最も効果があるとされ(2007年)、糖質食制限についての最近の一連の比較臨床試験でも、体重減、糖尿病および心血管疾患の代理マーカーの改善に役立つことがいくつも報告されている(2007〜2008年)。しかし、論議の決着に必要な、糖質食の制限が病気の罹患率や死亡率を減少させるという決定的な報告はまだ出されていない。今のところCleave-Yudkin説が有力であり、したがって、糖質の有害性が認識される方向に徐々に進むであろう。ある機関では、米国農務省が策定した栄養摂取に関する指針で主食とされた糖質の摂取制限を勧めている(2008年、世界がん研究基金)。

Cleave-Yudkin説では、う蝕や歯周病は糖尿病、肥満、冠動脈心疾患になる早期の前触れと考えている。病気の発症に要する時間は、歯では数ヶ月、糖尿病20年、冠動脈心疾患30年であり(1966年Cleave)、う蝕や歯周病は将来の全身疾患への警報と考えられる。その後の臨床試験結果は、歯科疾患が糖質食過剰摂取に対する早期かつ敏感な警報であるとするCleave-Yudkin説を支持している。破壊的な歯周病は、悪い生活習慣の高感度のマーカーであることがはっきりしつつある。歯科での警報は活性化の閾値が非常に低く、反応は数日、数週、長くても数年内に起り、これは全身疾患では臨床的にはっきりするのに数十年かかるのとは対照的である。

食事が歯垢のpHを大きく低下させるほど、血糖レベルは急上昇する。これは、う蝕が全身疾患の一つの警報であるというCleave-Yudkin説が生物学的に妥当であることを示すモデルである(1993年)。この関係は、高糖質食をやめるよう勧めることは、う蝕の予防だけでなく、血糖値の急上昇抑制につながることを示唆している。また、糖質を頻繁に間食しないよう勧めることは、う蝕リスクに関係する頻繁なpH低下を抑え、微小血管合併症につながる糖化ヘモグロビンレベルの上昇抑制につながる。歯垢のpHと血糖インデックスの関係は、歯の健康にとって悪い食習慣は全身の健康にとっても悪いという一つのエビデンスとなろう。

1990年代初め、歯の疾患が全身疾患を引き起こすとされた時、う蝕や歯周病は感染症とされた。う蝕感染症説は、おもにハムスターやラットでの実験に基づいたものではあったが、一時広く信じられた。しかし、その後、さまざまな臨床試験結果が出されるにつれ、この説は疑問視されるようになった。同じように歯周病についても、治療しても全身疾患への影響はほとんど認められないことなどから、感染症説は疑わしいものとなっている。歯の疾患と全身疾患の関係に関し、感染症説はほぼ否定され、それに代わる説も出されているが、いずれも決定的なものはなく、現時点ではCleave-Yudkin説の優位は動かないというのが著者の見解となっている。

筆者としては、Cleave-Yudkin説は全面的には認めにくいが、う蝕や歯周病が将来的な全身疾患の前触れであるかは別としても、それらが悪い食生活習慣や生活習慣(とくに歯周病での喫煙習慣)を反映していることは否めないであろうと思う。そうした観点からすると、歯科医には、不健康な生活習慣の初期の臨床的サインを見つける機会があることから、プライマリー・ヘルス・ケア医的役割を果たしてもらうことにより、一般医療、保健にもさらに貢献してもらえるのではないかという期待が生まれるのである。さらに、悪い食生活習慣はまさに食育に関連していることから、歯科界、歯科医も食育に積極的に関与、情報発信し、患者にも食育についての理解を深めてもらうことが望まれよう。

(2009年10月29日)

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