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2013/10/24

第43回:歯耗 -Tooth Wearー

“歯耗”とは見慣れない言葉であろう。これはTooth Wearに対して筆者が当てた訳語である。近年、第三の歯科疾患”Tooth Wear”なる言葉を時々見かけるが、どうもこの英語が気になっている。普通であれば、少なくともカタカナ言葉のトゥース・ウェアになると思うのだが、そうもならないのも不思議である。Tooth Wearがなぜ歯耗なのか?“耗”は減る、減ってなくなるという意味であり、wearという語感にかなりよく対応している。咬耗、摩耗という“耗”のつく用語は歯科界で定着していることも踏まえ、Tooth Wearは原因が何であれ歯質が徐々に減る現象であることから、全体を総括して歯耗(症)と呼んでもそれほど違和感はないであろう。

歯耗をめぐっては、「Dental Erosion」(2009年Operative Dentistry 34巻3号)、「Prevalence of Tooth Wear in Adults」(2009年International Journal of Prosthodontics 22巻1号)、「Pathological or physiological erosion?is there a relationship to age?」(2008年Clinical Oral Investigation 12巻特別号1)など海外学術誌でのレビュー、「Tooth Wearを考える」という国内商業誌2008年7月号での特集、さらに「第3の歯科疾患“Tooth Wear”を考える」シンポジウム(2007年秋開催の日本歯科保存学会)、2008年夏のTooth WearにかかわるGSKオーラルケアシンポジウムなど、国の内外を問わず近年関心が高まっているようである。こうしたことの背景には、2007年のFDI(国際歯科連盟)総会で“Dental Erosion”に関する声明が採択された影響もあるのではないかという気がする。この声明は、実は2000年の総会で既に採択されていたものの改訂版である。2002年の同総会で採択された、う蝕治療におけるミニマル・インターベンション(Minimal Intervention)(最小限の侵襲)の概念は我が国ではかなり早く理解されたが、歯耗に関しては少し遅れてやってきたというところであろうか。

Tooth Wearは、機械的作用や化学的作用を長期にわたり受けることにより、歯質が徐々に失われる現象であり、次のように分類されている:①咬耗(Attrition、歯同士の接触による歯の機械的な磨耗)、②磨耗(Abrasion、歯の接触以外の機械的作用による歯の磨耗)、③侵蝕(Erosion、化学的作用による歯の溶解)、④応力剥離(Abfraction、咬合力によって生ずる応力による歯質の微小破壊・剥離)。①〜③はずっと以前からあるお馴染みの用語である。④はその後加わったものであるが、これについては議論が分かれており、これを含めないこともある。Tooth Wearに対して、ヨーロッパではおもにErosionが使われているようであるが、4タイプのWearがはっきりと区別できるわけでもなく、複合した現象である。なお④は、通常はアブフラクションとカタカナ書きされているが、それを筆者が応力剥離と日本語に意訳したものである。Abfractionは粉々になって取れるという意味であること、および、③の侵蝕は酸による侵蝕という意味は本来ないのであるが、それが歯科では酸蝕というかなりの意訳となっていることも考えると、この意訳は一応妥当であろうと思っている。

歯耗の実態については、その報告は少ないようであるが、少し紹介しておこう。2003年に報告された英国での12歳の子供1,308名の調査では、歯耗の発生率(以下、カッコ内は中〜高度の歯耗)は56.3(7.3)%、2年後(14歳)では64.1(21.8)%であったという。26〜30歳および46〜50歳の大人55名を対象にした1987年およびその6年後に行ったスイスでの調査によると、歯耗発生率(以下、カッコ内は象牙質まで露出した率、→は6年後の数値)は、26〜30歳の咬合面では10(3) →33(8)%、クサビ状欠損11(1) →24(3)%、46〜50歳の咬合面では17(8) →48(26)%、クサビ状欠損26(4) →46(10)%などとなり、年齢、年月とともに増加している。経時的な歯耗量については、5.6〜18.3μm/月、3.7μm/6月、15μm/年などデータはさまざまであるが、1989年Journal of Dental Researchに発表されたものが信頼性が高そうである。これはベルギーで18〜23歳の21名を対象に半年ごとに4回、その1年後に1回、咬合面の歯耗深さを継続して測定したものであるが、4年間の歯耗は小臼歯88μm、大臼歯153μmであったという。4年の間に歯耗速度(年当たりの歯耗深さ)は少しずつ低下したが、小臼歯15μm/年、大臼歯29μm/年としている。

歯耗がう蝕、歯周病に次ぐ第三の歯科疾患ということになれば、治療基準が問題となろうが、利害関係者の立場により考え方が異なると思われ、かなり慎重な検討が必要と思われる。これまでの文献全体としては2〜10%の人で歯耗がかなり進んでいるとされ、これらは一応病的歯耗、要治療となる可能性がある。生理的な咬耗は年齢に依存するが、高度の歯耗は年齢とは無関係とされている。いくつかの文献をまとめた統計によると、高度の歯耗は20歳での3%から70歳での17%まで年齢とともに増加し、60〜70歳以降やや急増する傾向にある。我が国では残存歯を多く持つ高齢者が確実に増えており、その歯耗をどうするかは重要な課題となろう。歯科での接着技術とコンポジットレジンの進歩により、歯耗の治療も比較的手軽、確実に行えるようになっており、歯の崩壊・喪失前に歯耗を治療しておくことは、歯の寿命を延ばすうえで有意義なことである。

Tooth Wearを第三の歯科疾患として社会一般にも訴えようとするのであれば、いつまでもTooth Wearとするには無理がある。これをトゥース・ウェアとしても、“どんなウェア(衣料)?)と言われかねず、多くの人にはピンと来ないであろう。できるだけ早い時期に、Tooth Wearを日本語化するよう関係者に望みたい。

(2009年8月25日)

追記:2008年夏のTooth WearにかかわるGSKオーラルケアシンポジウムの様子は、本ウェブサイトにあるDentWebinarで公開されている。歯耗に関心をお持ちの方はぜひ一度閲覧されることをお勧めする。

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