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2013/10/24

第40回:修復物からのフッ素放出の効果

6月はむし歯予防週間の月であり、むし歯に係わる話題を取り上げることにしよう。むし歯予防といえばまずフッ素が頭に浮かぶ。そのフッ素の役割は“歯の耐酸性を高める”とされてきたが、現在では“歯の再石灰化を促進するのがおもな効果”と考えられている。むし歯予防では、フッ素配合歯磨剤が大きな役割を果たしてきたことはこれまでの調査で明らかにされているが、歯科治療で使われているフッ素放出性材料の効果はどのように評価されているだろうか。

フッ素(正確にはフッ化物イオンであるが、通称を用いる)を放出する、グラスアイノマーセメント(GIC)、レジン強化GIC(RMGIC)、グラスアイオノマー系コンポジットレジン(コンポマー、GICR)、コンポジットレジン(CR)の水中へのフッ素放出量をおよそ比較すると、CR<GICR≪RMGIC≦GICとなっている。GIC系では初期“バースト”と呼ばれるように初期の短期間のうちに大量のフッ素が放出され、その量はCR系にくらべ1桁以上多くなっている。CR系では“バースト”は起らず、長期間にわたって微量のFが放出され、水中へは5年後でも放出が認められている。

CR系ではナトリウム、ストロンチウム、イッテリビウムなどのフッ化物がフッ素源として利用されているが、3種類のグラスアイオノマー系材料ではフッ素を含むガラスである。このガラスでは、酸性物質(ポリアクリル酸などのポリマーの酸あるいは酸性モノマー)と反応してはじめてフッ素が放出される。この反応は水がないと酸がイオン化できないために進まず、フッ素も放出されない。GI系でありながら、GICRでフッ素放出が抑えられているのは、CR硬化後の吸水が起きにくいことと関連している。いずれの場合にもフッ素の放出あるいは再取り込み(リチャージ)には吸水が大きく関係しており、吸水が多いほどそれらの現象はより顕著となるが、口腔内での修復物の物性変化、寿命の観点からは好ましいとはいえないところもある。

さて、以上のように4種類のフッ素放出性材料があり、in vitroではフッ素の放出とそれに伴うう蝕抑制効果があることは認められているが、臨床的にはどうであろうか?Dental Materials 23巻343-362頁(2007)にフッ素放出性修復材料についてのレビューが載っている。そこには、その時点までの臨床研究のまとめとして、フッ素放出性修復材料が二次う蝕予防に効果があるとの一致した結果は得られておらず、さらに、高濃度のフッ素が放出されるGIC修復での失敗は二次う蝕がおもな原因であるとも記されている。

フッ素放出性修復物のう蝕予防効果について、これまで十分な臨床評価はほとんど行われてきていないようであるが、最近コンポマーとアマルガムの無作為化比較試験結果が報告されている。それは、6〜10歳の小児534名を対象に1997年〜2005年における5年間の追跡調査であり、その結果がJADA 138巻763-772頁(2007)およびJournal of Dental Research 88巻276-279頁(2009)に載っている。2歯以上の咬合面にう蝕のある小児に対し、乳歯にコンポマーであるDyract (Dentsply) 1,088例、アマルガム959例、永久歯にCRのZ100 (3M)を753例、アマルガム509例の修復を行った。なお、すべてに共通する充填前の処置として、リン酸処理、接着材Optibond (Kerr)の塗布・光硬化を行っている。アマルガム修復での接着材は必ずしも一般的ではないが、修復物の比較が目的であることから使用している。修復後6ヶ月ごとに診査し、脱落、抜歯、最後の来院までの5年間にわたり追跡した。

乳歯での両修復における再修復率はDyract5.8%、アマルガム4.0%であり、再修復の主たる原因とその比率は、前者では二次う蝕52%、後者では新しいう蝕47%となっているが、二次う蝕が原因の再修復率はDyract3%、アマルガム0.5%であり、前者は6倍にもなっている。このDyractでの二次う蝕(おもに微小漏洩に基因するとされている)による再修復は修復1年後から直線的に増加している。一方、永久歯でのZ100およびアマルガムでの再修復率はそれぞれ14.9%、10.8%であり、その原因は両材料で差はなく、新しいう蝕(33と40%)および二次う蝕(52と44%)であった。なお、Z100とアマルガムの補修率はそれぞれ2.8%、0.4%であり、Z100では7倍多く、この補修は2年半後から急増していた。

Dyractではフッ素が放出されるにもかかわらず二次う蝕が多く発生したが、乳歯の同じ歯での新しいう蝕の発生はアマルガムと差はなかった。異なる歯についてはDyractのほうがやや早期に発生する傾向があったが、5年後では、同じ歯の異なる部位あるいは異なる歯での新しいう蝕の発生はアマルガムのほうがやや多かった。論文の結論は、コンポマーがアマルガムにくらべてう蝕予防に役立つとは思われないというものである。なお、今回の試験ではフッ素放出性の接着材Optibondをアマルガムでも使用しているので、条件付であるとは述べている。コンポマーやCRとくらべてアマルガムでのう蝕発生が多いわけではなく、再修復、補修、さらには治療コストを考えると、アマルガムでよいというのが結論のようである。我が国とは歯科医療事情がかなり異なる米英などでは、今後もアマルガムの利用は続かざるを得ないように思われるが、今回紹介した論文はそのための一つのお墨付きを与えることになろう。

筆者はこれまで、修復物からのフッ素放出はう蝕予防に一定の効果を上げているものだと何となく思っていた。しかし今回、これまでの報告を改めてながめてみると、フッ素放出もある条件下では有効なこともあろうが、どうやらその効果を単純に信じすぎていたような気がする。修復物からのフッ素放出によるう蝕予防効果に過大な期待を抱くことなく、口腔内環境に耐えられるようにしっかりと充填・修復することが必要であり、また材料的には、フッ素放出性はさておき、修復材料としての臨床的要求をまず満たしていることが必要であるように思われる。多くのメーカーでは修復材料にフッ素放出性を持たせる方向で来ているようであるが、フロアブルレジンのフィラーをフッ素放出性ガラスからフッ素非放出性ガラスに転換した製品も現れている(MIフロー、ジーシー)。これはフッ素放出性より材料そのものの性質を重視せざるを得なかったための選択であろうと筆者は理解している。

(2009年5月27日)

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