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2013/10/24

第39回:インパクトファクター

インパクトファクター(Impact Factor、 IFと略)は、研究者、大学関係者などにとっては業績評価に使われることもあり、無関心では済まされないものとなっているが、一般の人にはあまり馴染みのないものであろう。じつは、4月11〜12日に開催された日本歯科理工学会で、IFを公表しているトムソン・ロイター サイエンティフィック社の宮入暢子氏による特別講演「インパクトファクターの仕組みー学術ジャーナル指標と論文評価についてー」を拝聴し、この話題を取り上げる気になった。理工学会にしては内容的に珍しい企画だと思っていたところ、それには訳があったのである。

まずIFについて少し説明しよう。ある学術雑誌のある連続2年間に掲載された全論文数を分母、それら論文がその2年間に引続く次の1年間に引用された全引用回数を分子とし、それを割算したものがIFである。IFは、ある雑誌の論文あたりの平均被引用数であり、雑誌の影響度を表わす一つの尺度となっている。(例: 2005、2006年の掲載論文総数が100、2007年の総引用回数が250であれば、IFは2.5。なお、2009年2月から5年IFという新しい指標が追加されている。)世界のおもな7,500誌以上の学術雑誌のIFがJournal Citation Reports(JCR)(トムソン社)で毎年公表され、最新版は2007年である。それによると、トップ10のIFは69.0〜28.8、その多くは総合的雑誌、総説論文誌であり、原著論文を主体とする雑誌は少ない。歯科関係は49誌、そのIFは3.58〜0.52となっている。

歯科理工学会の機関誌であるDental Materials Journal(DMJ)は、1982年に創刊された我が国歯科界における唯一の英文誌であるばかりでなく、世界的に見ても歯科材料専門誌としては1984年創刊のDental Materialsがあるのみというように、非常に貴重な雑誌となっている。このようなDMJではあるが、国際的に認知されているとはいい難いところがある。そこで理工学会が取り組んだのはトムソン社の引用索引データベース(Web of Science, WoS)への収録とそれに基づき算出されるIFの取得であった。幸いなことに2002年に収録が開始され、2004年に2.51、2005年に2.22という予想外に高いIFが付与された。ところが2006年以降JCRへの収録が取り止めとなり、IFは公表されていない。これについては、トムソン社によれば自誌引用率の高さが原因であることが2007年8月に学会から会員に説明されていたが、このことは今回の宮入氏の講演でも確認された。

DMJのIFは2004、2005年の歯科分野ではそれぞれ3位、6位にランクされていた。しかし、その自誌引用率をみると、それぞれ81%、92%にも達しており、自誌引用を除いてIFを計算するとそれぞれ0.46、0.17となる。最上位にランクされることの多いJournal of Dental Research(IF, 3〜3.5)の自誌引用率は10%以下、Dental Materials(IF, 2〜3)で約15%であることを考えると、DMJの自誌引用率は明らかに異常であった。IFは、ある特定雑誌の論文をその雑誌へ多く引用したり(自誌引用)、多くの関心が集まる注目論文や論議を多く呼ぶような問題論文があると大きくなる。宮入氏も指摘されていたように、IFは学術雑誌を選択する際の目安であったはずのものが、論文・研究の質や雑誌の格を示すものと錯覚されているような面がある。そのため自誌引用の誘惑に駆られやすいことにもなるが、その行き過ぎは適当でないことは確かである。DMJだけでなく、自誌引用率が原因でIFが付与されなくなった例や、IFをめぐる不正行為の疑いでライバル誌の間でもめたことも過去に起きている。宮入氏によれば、DMJの自誌引用率は2006年以降かなり低下しているとのことであり(WoSへの収録は継続されている)、近い将来再びJCRに収録され、IFが公表されるものと思われる。

DMJのこれまでの読者は国内が圧倒的であり、海外の人は文献データベースでアブストラクトを見ることはできても全文を見ることはほとんど不可能であったはずである。国際的な認知度を上げ、IF算出の対象となっている雑誌での引用を増やすための方策が必要であった。そこで、理工学会では全論文をWeb公開することとし、それは2009年2月、J-STAGEでの公開により実現した。(J-STAGE:Japan Science and Technology Information Aggregator, Electronic、科学技術振興機構が運用している、科学技術情報発信・流通総合システム。学会誌などを電子化するためのシステムの提供や電子化した資料の公開を行っている。)

この全論文のWeb公開とIFの再取得と相まって、DMJの国際誌としての地位が今後高まるものと期待されるが、それには学会の努力だけではなく、国の支援も必要となっている。IFの取得とともに国内のみならず外国からの投稿も増加したが、会員数約2,000名の学会にとってはかなりの負担となり、学会内ではDMJへの風当たりも強いとも聞いている。以前には文科省科学研究費補助金(学術定期刊行物への補助)を受けた時期もあったが、現在は打切りとなっているという。歯科材料のもう一つの有力誌であるDental Materialsはオランダの大出版社・エルゼビアが刊行しているのにくらべ、学会が刊行しているDMJはかなり苦しい立場にある。

このように記してくると、なぜIFについての特別講演であったのか、およそ理解していただけたと思う。会員にIFについての理解を深めてもらう必要があったのである。

(2009年4月25日)

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