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2013/10/24

第35回:セルフエッチングシステムについて考える

セルフエッチングシステム(SE)を利用したオールインワンアドヒーシブ製品が引き続き登場しているが、筆者はSEに疑問を感じており、このタイプのアドヒーシブには三つほど問題があると思う。すなわち、1)保存中に成分が変化すること(モノマーの加水分解)、2)接着界面に欠陥(水の小滴の存在、ナノリーケージなど)を生じやすいこと(溶媒の問題)、3)象牙質にくらべエナメル質への接着性が劣ること(エッチング作用の不足)。近年我が国で発売されたボンドフォース、ビューティボンド、EasyBond、あるいは発売近いと思われるものにXenoIV、Optibond All-in-one、AdheSE、G-ボンド改良品がある。これらでは、上記問題に対し部分的に何らかの対処をしているようではあるが、大部分の製品では依然として問題が残されているように思われる。

まず1)である。水を含むプライマー中の酸性モノマーによる加水分解は、共存するHEMAやGDMAのような水溶性モノマーおよびTEGDMAのようなモノマーで起りやすく、その結果メタクリル酸その他が生成する。酸性モノマーが分解しても、酸としての機能は保たれるのでエッチング作用はそれほど変化しない。リン酸エステル系メタクリレートでは、まずメタクリル酸エステル基が分解し、その後リン酸エステル基が分解してリン酸も生成する。酸性モノマーによる加水分解は、共存する水の割合、水に溶けにくいモノマーを溶かすための有機溶媒の種類・割合によって影響を受ける。酸性モノマーは水があると解離して水素イオンを生じ、これがモノマーのエステル基の加水分解を促進し、プライマーの変質が進む。保存温度が高く、保存時間が長くなるほど加水分解は進み、接着強さや接着耐久性が低下する。プライマー中の水素イオン濃度が高い(pHが低い)ほどエッチング作用は強いが、プライマーの変質も速く進む。有機溶媒(エタノール、アセトン)/水の比率が増加すると水素イオンへの解離が抑えられ、エッチング作用は低下、保存安定性は向上すると考えられる。

保存安定性に関しては、以前にくらべ水の割合を減らす傾向が現れているように思われるが、この件についてほとんどのメーカーが触れていない。現在のSEの中で最も耐加水分解性があるのは、2ステップ型のAdheSEのアクリルエーテルホスホン酸(MAEPA)、ビスアクリルアミド(DEBAAP)、水からなるプライマーである。これらのモノマーは従来使われているモノマーとはまったく構造が異なっており、加水分解に対してかなり安定、長期保存しても接着性が低下しないことが示されている。

2)の溶媒については、アセトン、エタノールの利用をめぐって各メーカーの立場が揺れている。アセトンは無難なのであるが、低沸点のため揮発性が高く、水分のコントロールが難しいところがある。一方、エタノールは、共存成分に影響を与えることがなければ、揮発性は低く、水と共沸するので水分の除去にはアセトンより好都合である。しかし、これら溶媒以外に適当なものはないのかという疑問から、沸点、水との共沸、安全性の面から探索したところイソプロピルアルコール(IPA)が浮かんだ。消毒にも使われているIPAの沸点はエタノールより4℃高い82℃であるが、水との共沸の点ですぐれ、共沸混合物中の水の割合はエタノールでの4%にくらべIPAでは13%であり、IPAのほうが効果的に水を除去できる。水は塗布直後のエッチング時には必要であるが、その後の接着にとってはマイナスであり、できるだけ除去することが望ましく、これにはIPAが有利である。このIPAがなぜこれまで利用されなかったのか、と思って調べてみると、ある公開特許に記されていた。ボンドフォースの成分にはアルコールを含むとの記載があるが、特許から推測するとこのアルコールはIPAであるといってよかろう。特許ではIPAの共沸性について特には触れていないが、これは重要なポイントであると思っており、IPAをメーカーが積極的にアピールしない理由が筆者には理解できない。特に新規性もないのに、Optibondでアセトン/エタノール/水の三元系溶媒、EasyBondでエタノール/水溶媒を積極的にアピールしているのとは対照的である。

3)に関しては、リン酸エステル系モノマーの種類の変更や増量によりpHを下げてエッチング不足を改良しているようである。酸性モノマーの酸としての強さのおよその序列は、カルボン酸系<ホスホン酸系<二水素リン酸系<一水素リン酸系であり、プライマーでのpHは大体1〜2である。なお、いずれの酸性モノマーでもその化学構造によって酸としての強さは変化する。

水とエステル系モノマーの混合物に低pHの酸性モノマーを加えた商品は、製造直後から徐々に変質するという点で商品として明らかに欠陥品である。化学的組成、物性、毒性などが経時的に変化するわけであるが、臨床的にはその影響が明確に認められることはないであろう。しかし、これはやはりメーカーの良心にかかわる問題であり、一定期間は品質が安定しているものを供給するのがスジである。さらにいえば、品質不安定なものを認可することにも疑問がある。

いずれのSEでも、象牙質にくらべエナメル質での接着性は劣る傾向にあり、これはトータルエッチングシステム(TE)の場合とは逆の傾向である。TEではエッチングがよくなされ、脱灰物は水洗で除去される。ところが、SEではエッチングが不足しやすくなることに加え、脱灰で生成する水不溶性の酸性モノマーのカルシウム塩が歯質上に残存したままである。このカルシウム塩はマイナスに働くことはあってもプラスになることは考えにくく、接着界面では邪魔ないわばゴミである。このようなゴミと一緒にボンディング材を固めるという発想は、接着面はきれいにしてからという接着の常識とは合わないものがある。筆者は、得体の知れないSEより、素性が比較的明らかなTEのほうが好ましいと思っている。もちろん、TEも完成されたものではないと考えており、さらに改良が必要ではある。

略号などは次図をご参照くださ い


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(2008年12月25日)

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