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2013/10/24

第21回:アマルガムはどうなっているか

歯科におけるアマルガムの安全性については長年にわたり論議が続いてきたが、最近米国で再び論議が盛んとなっているようである。それは、2007年からアマルガムを禁止しようとする法案が2002年に下院に提出されていたことと無縁ではないように感じている(なお、法案自体はその後小委員会に付託され、棚上げとなっている)。米食品医薬品局(FDA)は安全性に問題はないとする報告書を取りまとめ、その審査・評価をFDAの合同諮問委員会に委ねた。2006年秋に開催された委員会での投票の結果、その報告書は認められないとされ、安全性に関する結論は先延ばしとなり、アマルガムの安全性に関する科学的根拠の有無をめぐって論争が続いている状態にある。

こうした状況下で、アマルガムに関する論文が最近相次いで発表された。アマルガム(以下Amと略)とコンポジットレジン(以下CRと略)の生体への影響を比較した研究2報がまず米国医師会誌(JAMA)2006年4月19日号に掲載された。それらの無作為化比較臨床試験では、6〜10歳の子供534人あるいは8〜10歳の子供507人にAmとCRを充填し、知能指数(IQ)、腎機能、記憶力、注意力、視覚運動能、神経伝導速度などについて、5年あるいは7年間の追跡調査を行っている。その結果、Am充填群では尿から高レベルの水銀が検出されたが、いずれの評価指標においてもCR充填群との間に有意差は認められなかったという。

米国歯科医師会誌(JADA)の2007年138巻6号には子供の臼歯をAmとCRで修復したときの修復物の寿命について二つの報告が載っている。一つは、8〜12歳の472名の臼歯にAmとCRで1,748例の修復を行い、7年間にわたり追跡調査した結果である。全体の再治療率(失敗率)は10.1%であり、生存率はAmで94.4%、CRで85.5%となっている。再治療の最大の原因は再発う蝕であるが、再発う蝕のリスクはCRのほうがAmにくらべて3.5倍大きい結果となっている。もう一つは、6〜10歳の534名の臼歯にAmとコンポマー(グラスアイオノマー系CR)(乳歯)あるいはCR(永久歯)で修復を行い5年間調査した結果である。乳歯での再治療率は、Am4.0%、コンポマー5.8%、再発う蝕による再治療率はそれぞれ0.5%と3.0%であり、コンポマーでは再発う蝕による再治療率が有意に大きかった。永久歯での再治療率は、Am10.8%、CR14.9%、補修率はそれぞれ0.4%と2.8%であり、CRではAmにくらべ7倍も補修率が大きかった。こうした報告に接すると、耐久性やう蝕の再発に関してCR修復のさらなる改善を望みたくなる。

欧州の一部の国やカナダでは妊婦、小児へのAmの使用を避けるよう勧告しているが、世界的に見てAmを禁止している国はない。米国では勧告も出されていないが、Amは減少傾向にある。しかし、Amを禁止すると治療費が上がり、そのため低所得者層ではう蝕治療の機会が失われるという懸念も出されている。実際に、Amの使用を規制するとどのような経済的影響があるかを試算した論文が最近発表されている(Public Health Reports、 2007年122巻9-10月号)。全米最大の歯科保険会社デルタデンタルの保険請求のデータをもとに行った試算である。米国における2005年の総修復数は1.66億件、その内訳は、Am修復31.6%、CR修復46.6%、鋳造修復21.8%と推定されている。1992〜2004年の12年間のデータによると、Am修復は3.7%/年の割合で減少し、その減少分はCR修復81%、鋳造修復19%で置換わっている。その結果、修復にかかる費用は4.5%/年で上昇してきている。2005年にAmを禁止すると、修復にかかる費用は52ドル上がって330ドルとなり、全体として35億ドル増えて497億ドルになると推計している。なお、Am禁止による治療費の上昇により治療を受けられない患者が増加し、修復数は1,544万件減少するという。

我が国でのAm修復の状況はどうであろうか?その動向を薬事工業生産動態統計年報(厚生労働省編)の歯科用水銀の出荷量(水銀の統計があるのは1984〜2004年)から見てみると、およそ次のようになる。1984年に5,064kgであったものが、その後ほぼ直線的に減少して1995年には1,012kgとなった。その後の減少は緩やかであったが、2002年からは横ばい状態で2004年に314kgとなっている。米国では1992〜2004年で44.4%Am修復が減少したと推計されるが、その期間での我が国での水銀出荷量は3,041kgから314kgへ減少、すなわち約90%の減少となっている。これは、我が国では米国の倍以上の速さでAm修復が減ってきたことを示しているといえよう。こうしたAm修復の減少を補ったのは、米国ではおもにCRであったと推計されているが、我が国はどうであったのだろうか?

一つの興味ある報告が、11月に岡山で開催予定の日本歯科保存学会の講演抄録集に載っている。ある女子短期大学歯科衛生学科入学者(18〜19歳)の1997年〜2006年の歯科検診結果から得た、臼歯咬合面におけるCR修復率とAm修復率を比較した結果である(調査対象総数1,159名)。1997〜1999年では両修復とも1割前後、2000年以降はCR修復率は経年的に増加して2006年には17.8%、その一方でAm修復率は1.5%に減少していた。18〜19歳が対象者であり、修復時期は第一大臼歯萌出時期以降、すなわち調査前12〜13年間に限定される。したがって、2000年入学生の第一大臼歯萌出時期である1988年以降に修復されたと推定される臼歯咬合面では、経年的に、CR修復は増加、Am修復は減少し、2006年ではCR修復率はAm修復率の約10倍であったことを示している。ここで示された傾向は、水銀の出荷量が急激に減少してきた時期(1984〜1995年)と重なっているように思われる。

(2007年10月25日)

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