第20回:歯を失う原因

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第16回コラムで“むし歯予防週間によせて”と題して書いたが、そのとき気になったことがあった。むし歯でどれだけ歯が失われているのだろうか?ということである。歯科の臨床家であればおよそのことはご存知であろう。しかし、そういう立場にはない筆者にとっては様子がまったくわからない。そこでインターネットで少し探したところ、8020推進財団のホームページに「永久歯の抜歯原因調査報告書」(平成17年3月)というのが公表されていた。詳細は次のURLを見ていただくとして、ご参考までに内容の一部をご紹介したい。 http://www.8020zaidan.or.jp/pdf/jigyo/bassi.pdf この調査は、日本歯科医師会等の協力のもとに、2005 年2月1日(火)〜 2 月7日(月)の1週間に限って行われたものである。日本歯科医師会一般会員57,989名のうちから5,131名にアンケート用紙を送り、2,001名から回答を得ての報告である。抜歯を受けた患者数7,499名(8〜96歳、平均53.7歳、50〜74歳が多く全体の55%近くを占める)、抜歯総数9,350歯(60〜64歳が最多)のデータがまとめられている。 抜歯の主原因は、歯周病42%、う蝕32%、その他13%、破折11%、矯正1%であった。歯周病による抜歯の割合は、30 歳代から50歳代にかけて多くなって横ばいとなり、それ以上の50〜79歳では大体同じの50%以上であった。う蝕による抜歯の割合は、40歳までは年齢とともに多くなる傾向にあって約50%となり,その後は減少に転じ、50歳以上では約30%弱で概ね同じ割合であった。破折は20 歳代から40 歳代にかけて多くなり、50〜79歳では12〜15%とやや増加した。矯正とその他は若い年齢層で多かった。 抜歯の主原因で最も多かったのは歯周病であり、これは近年いくつかの県で行われた調査結果と一致していたという。1980 年代はう蝕による抜歯が最も多く、その後は歯周病による抜歯の割合が最も多くなってきたとされている。このことについて、抜歯数全体が減少する中で、治療内容の変化等の理由により、う蝕による抜歯が減少してきた影響が最も大きいのではないかと推察している。ここでの“治療内容の変化”が何を意味しているのか不明であるが、接着材を用いたレジン充填がう蝕による抜歯の減少に関係しているであろうと筆者は推測している。 抜去歯の状態は、う蝕38%で最も多く、次いで冠33%、健全21%、充填7%であった。抜去歯の状態を年齢別にみると、う蝕はどの年齢層ともに多く、冠は年齢とともに多くなる傾向があり(50〜79歳では38〜49%)、健全歯は若い年齢層で多かった。抜去歯の歯髄の状態については、最多は「無髄・根充あり」43%、次いで「有髄」38%、「無髄・根充なし」17%であった。高年齢になるほど、「無髄・根充あり」が多くなり(50〜79歳で48〜61%)、「有髄」が少なくなる傾向があり、「無髄・根充なし」はどの年齢層ともにほぼ同じ割合であった。 本調査で得られた結果をもとに、1 年間で失われる歯の総数と一人当たりの平均年間喪失歯数の粗推計値を算出したところ、それぞれ1,460 万本、0.11 歯/人・年であったという。最も喪失歯数の多かった年齢階級は60 〜 64 歳で191 万本喪失、また、一人平均年間喪失歯数の最大は70 〜 74歳で約0.24 本と推計されている。 算出された一人平均年間喪失歯数の粗推計値と1999 年の厚生省歯科疾患実態調査で得られた年齢階級別一人平均現在歯数のデータを用い、一人当たり現在歯数の将来予測も行っている。その結果、現在歯数の増加傾向は今後も続き、2040 年には“8020”の達成が予測されたという。この調査では1999 年の厚生省の調査データを用いているが、2005年の厚生労働省歯科疾患実態調査データも公表されている。そこで、そのデータを用いて筆者が同様の計算を行ってみたところ、2040 年には“8020”の達成が予測されるという同じ結果となった。しかし、1999年のデータをもとにして推定した2005年の一人当たり現在歯数と2005年公表の現在歯数をくらべると、年齢層により−1.03〜+0.98の差がある。推定値にくらべ、65歳以上では0.48〜1.03本減り(ただし、80〜84歳のみ0.76本多い)、64歳以下では0〜0.98本増えている(ただし、45〜49歳のみ0.07本少ない)。こうした傾向からすると、“8020”の達成は2040年より少し早まる可能性も考えられる。 この報告を見てやや驚いたのは、破折が意外と多いということである。破折歯は抜去することが多いようであるが、接着技術を応用しての保存治療も一部で行われている。筆者の知っている歯科医も、接着性レジン(スーパーボンド)を用い、スクリューピンなどを併用しながら、垂直破折した臼歯などの治療を口腔内で行い、好成績をあげている。長いものでは20年経過後も良好に機能し、咬合力にも耐えているという。このような口腔内接着法の試みにくらべ、破折歯をいったん抜去し、口腔外で接着してから再植する口腔外接着法は比較的多く試みられているであろう。しかし、全体としてはやはり抜歯が大部分を占めていると思われるが、接着技術を活用すれば破折歯もより多く保存でき、そうなることを願っている。 本調査の締めくくりの言葉として、「今後定期的に継続実施していくことにより、より価値の高い情報を得ることができるので、今後、継続実施が望まれる」と書かれているが、これには筆者も全く同感である。
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