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2016/06/03

第120回:最近のう蝕治療の考え方

6月は「歯と口の健康週間」である。この名称は2013年に「歯の衛生週間」から変更になり、さらにそれ以前の1928~1958年は「むし歯予防デー」(6月4日)であった。筆者が育ったころは「むし歯予防デー」であり、いまでも何となくつい「むし歯予防週間」といいたくなってしまう。う蝕の減少および歯周病などの増加を考えると、「むし歯予防デー」が「歯と口の健康週間」になったことは当然のことのように思われる。永久歯のう蝕罹患状態を知るための指標として、12歳児のDMFT(Decayed/Missing/Filled Tooth)指数が広く使われているが、文部(科学)省の学校保健統計調査からDMFT指数の推移を大まかに記すと次のようになっている。調査を始めた1984年4.75、1995年3.72、2005年1.82、2011年1.20、2012年1.10、2013年1.05、2014年1.00、2015年0.90であり、近年は大体年々0.1ずつ低下している。

このように減っているう蝕であるが、最近のう蝕治療について何か論文がないか探したところ、2015年2月、ベルギーに北米、南米、欧州、豪州の12か国から21人のう蝕の専門家が集まり開催された、国際う蝕コンセンサスコラボレーション会議の報告がAdvances in Dental Research 28巻2号(2016)に掲載されていた。「う蝕病変の管理:用語に関する推奨コンセンサス」と「う蝕病変の管理:う蝕組織除去に関する推奨コンセンサス」というかなり長い2論文がある。それらの中から一部抜粋して紹介する。

臨床的推奨として、強い推奨と弱い推奨がそれぞれ7項目挙げられている。

強い推奨

  • う蝕病変の発生を防ぐことは、う蝕疾患を管理することを意味している。既存のう蝕病変については、歯科医は患者とともにそれを管理し、病変の活動性をコントロールするよう努めるべきである。これは、病変を停止/不活性化して歯の硬組織を守り、修復サイクルの開始を回避し、可能な限り長期間歯を維持することを意図している。
  • う窩のあるう蝕病変が清掃不可であり、シールもできない場合には、修復介入が適応である。
  • 修復治療は、バイオフィルムのコントロールを助け、歯髄-象牙質コンプレックスを保護し、歯の機能、形態、審美性を修復するために行う。う蝕組織の除去は、長持ちする修復の条件をつくり、健康で再石灰化可能な組織を保存し、十分なシールをし、歯髄の健康を維持し、修復の成功を最大化するのがねらいである。歯髄に近い場合には細菌で汚染されたあるいは脱灰した組織はすべて除去する必要がある。
  • バイタルな歯髄のある歯の深い病変では、修復の成功より歯髄の健康を保つことを優先させるべきである。一方、浅いあるいはやや深い病変では修復の寿命がより重要な要素である。
  • 乳歯および永久歯の深い病変(X線的に象牙質の歯髄側の1/3あるいは1/4の深さ)では、ソフト象牙質まで除去すべきである。
  • 永久歯の深い病変では、段階的除去も選択肢となる。
  • 修復物の再処置は、できるだけ、再シール、再補修、あるいは再研磨で行い、再修復は最後の手段とすべきである。

弱い推奨

  • 浅いあるいはやや深い病変のある歯では、かたい象牙質までの選択的除去を行うべきである。
  • 象牙質の硬さ(ソフト、革状、かたいあるいは引っかかる、ハード)は、う蝕組織の評価、記述、報告およびその除去の第一の基準とすべきである。
  • 湿潤状態(濡れた、湿った、乾いた)、色(薄い/黄、濃い茶/黒)、および象牙質の付加的光学特性、あるいは異なる細菌の代謝産物の測定は付加的な指標として役立つかもしれない。
  • う蝕除去に関して一つの方法を推奨できるようなエビデンスはない。手用あるいは化学機械的エキスカは治療中の痛みと不快感をへらし、とくに子供の治療では不安に対し良い影響を与えるだろう。
  • 窩洞の消毒は患者の利益になるというエビデンスはない。
  • 窩洞の裏層はシールされた病変のコントロールに必要ではない。
  • 窩洞の修復に使う材料の選択は、病変の位置と程度、う蝕リスク、う蝕病変の活動性、患者の特別な事情により行う。ソフトからかたい象牙質までの選択的う蝕組織の除去後の歯の修復に対して、他にくらべより適当な特定の材料があるという決定的なエビデンスはない。
    なお、従来のう蝕組織を完全に除去することは推奨されないとしている。

以上が臨床的推奨として記されていることであるが、全体を読んで強く感じたのは、できるだけ歯に侵襲を加えずにう蝕を管理し、歯を長持ちさせようとする考え方である。我が国ではあまりお馴染みではない、切削を伴わない非侵襲的治療について少し紹介する。

う窩のない(すなわち清掃可能)病変は、バイオフィルムの除去(歯みがき)ないしは再石灰化、あるいは病変部のシーリングにより管理できる。咬合面病変ではフィッシャーシーラントの充填でできる。しかし、小窩のある隣接面あるいは平滑面では、ほかのシーリング法あるいはレジン浸透法(90回参照)の選択肢もある。

視診、触診しやすいう窩のある象牙質病変は、清掃できる病変の可能性がある。これらは不活性化でき、さらなる治療は必要としない。すなわち、その進行は考えにくく、非侵襲的に管理(フッ化物入りの歯磨剤を用いての歯みがきによるプラーク除去あるいは再石灰化またはフッ化物バーニッシュの塗布)できるからである。清掃できない病変は活動性で進行する可能性があるが、う窩を清掃可能にするため、窩縁を広げることによりう窩の形を変え、患者に効果的な口腔衛生習慣(フッ化物入りの歯磨剤での歯みがきと健康的な食習慣)を奨励することによって清掃可能な病変に転換できるだろう(非侵襲性う窩コントロール)。

咬合面病変は臨床的にはう窩の形成がないように見えても、X線的には象牙質にかなり深く広がっているかもしれない。そのような病変をバイオフォルムコントロールのみで止めることができない場合、裂溝シーリングを行う。しかし、シーラントの完全性を観察する必要がある。弱くなったエナメル質の下にかなりの量の柔らかい象牙質がある場合、咬合力にシーラントが耐えられるか不安があり、シーラントが失敗に終わる可能性があり、修復を必要とするであろう。

象牙質う蝕組織の無除去処置では、小窩裂溝シーラント材料(レジンあるいは高粘度グラスアイオノマーセメント)をエナメル質および象牙質のう蝕病変の上に充填する。しかしながら、とくにフィラーを含んでいないレジンにあっては、充填およびエナメル質の微小う窩をカバーするには機械的性質に限界があり、これらの材料が使える病変の範囲は、X線的に象牙質外側1/3の病変に限られるであろう。

乳臼歯に対してはHall法(71回参照)もある。象牙質う蝕病変をシールするため、既製の金属クラウン(ステンレススチール)を歯に被せる特殊な方法である。クラウンは、歯の形成あるいはう蝕病変の除去なしに、乳臼歯とう蝕病変の上にグラスアイオノマーセメントで合着される。これは隣接病変が通常適応である。クラウンは象牙質う蝕病変を効果的にシールし、その病変が歯髄に進むのを遅くするかあるいは防止し、痛みあるいは感染を起こすことなく乳臼歯を脱落させる。

非侵襲的修復処置では、手用器具のみを用いて、硬い抵抗感があるまで完全に脱灰したエナメル質と象牙質を除去する。次いで、修復に移り小窩裂溝を接着性歯科材料、通常は高粘度グラスアイオノマーセメントでシールする。深い病変(X線的に象牙質の歯髄側1/3の深さに達する)に対しては、露髄を避けるために歯髄壁上に柔らかいう蝕組織を少し残すべきである。

う蝕病変は、できるかぎり、フッ化物入りの歯磨剤での歯みがき、再石灰化、フッ化物バーニッシュ、シーラントなどでの非侵襲的方法で対応し、切削を伴う侵襲的修復はできるだけ避けようという意図がかなり明確にされている。大筋において筆者も共感できるものであった。しかし、う窩を清掃可能にするため、窩縁を削ることもあり得るという点には、ここまでやるのかというのが偽らざる感想である。

ところで、我が国の歯科医のう蝕治療に対する対応はどのようであろうか?それについて示唆する調査報告がJ Dent Resの2012年12月号に掲載されていた。それによると、高リスク患者で74%、低リスク患者で47%の歯科医がエナメル病変に対して外科的介入を選択するという。これは、日本全国から選んだ187人の歯科医からのモデル症例に対する回答結果である。この数字を見ると、我が国でのう蝕治療に対する考え方は、残念ながら、今回紹介した論文とはかなりずれているように思われる。

(2016年5月31日)

付記:

DentWaveの歯科ニュース2016/05/10に「“虫歯治療が根本的に変わる可能性”外国の研究グループが指摘」にオーストラリアでの非侵襲的う蝕治療が紹介されている。これは昨年12月のシドニー モーニング ヘラルドの掲載記事の引用であるが、この詳細はCommunity Dent Oral Epidemiol 2016; 44:188–197に掲載されている。

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