第12回:デュアルキュア

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コンポジットレジンやボンディング材などのレジン系モノマーを重合・硬化させる方式には光重合と化学重合がある。デュアルキュアは、それらを組み合わせてレジン系材料を硬化させる方式である。これは、光重合だけでは光の透過不足や光が届きにくい場所があると硬化不十分となるため、それを補うために光がなくても硬化が進む化学重合を組み合わせて十分に硬化させようと意図したものである。しかし、これまでに報告されているところによれば、意図したようにはデュアルキュアはうまく機能しないようである。光照射を十分に行わずに化学重合に期待していると、全体として重合・硬化が不十分となり、期待したような結果が得られないことになる。 デュアルキュア方式は、光を透過するセラミックスやコンポジットレジンを使用したインレー、アンレー、ラミネートベニア、ジャケットクラウンなどの修復物の合着材としてのレジンセメント、さらには支台築造用コンポジットレジンに利用されている。デュアルキュアとはいっても、実際には光重合の寄与が極めて大きい。光を照射した場合と遮光して化学重合のみで硬化させた場合の物性を比較すると、化学重合のほうが劣っているという報告が多い。コンポジットレジンやセラミックスの修復物の厚さが厚くなると、光照射時間を延長しても硬化は不十分となり、また時間が経過しても化学重合は十分には進まず、接着強さや機械的性質は低下する。 デュアルキュアでは、光重合の寄与は大きく、化学重合の寄与は小さいのはどうしてであろうか?光重合では、光照射時のみ重合が進むわけではなく、照射後でも後重合によりかなり長時間重合が継続する。そのため、化学重合の寄与は小さくなってしまうと考えられる。光重合型ボンディング材に60秒間光照射した後、重合するラジカル量を電子スピン共鳴法(ESR法)で20分間にわたり測定したデータが報告されている。それによると、20分間でのラジカルの減少はわずかであり、その減少傾向から推測すると重合はかなり長時間継続すると推定される。また、光重合型ボンディング材を硬化させ、硬化直後と24時間後の強度を比較すると、強度が1.3〜1.7倍(製品により異なる)になるという報告がある。これらはいずれも光重合における大きな後重合効果を示唆している。 アクリルレジン[(メチルメタクリレート(MMA)とポリMMA(PMMA)]を光重合と化学重合で重合・硬化させ、残留モノマーが経時的にどのように変化するかを調べたことがある。それによると、光重合では24時間までは減少したが1週間後では減少しなかった。化学重合では1週間後でも減少した。これらのことは、光重合では24時間程度で重合が大体終わるのに対して、化学重合では1週間後でも重合が継続していることを示している。この結果からすると、デュアルキュアでも化学重合が効いてもよさそうな気がしてくるのだが、光重合の影響が大きく、そうはいかないのである。 デュアルキュア型レジンセメントの上に厚さの異なるセラミックスを置き、40秒間光照射した後のセメントの硬さを0〜120分間測定した報告がある。セラミックスの厚さに関係なく、24時間までは硬さが増加するが、それ以後120時間まで硬さはほとんど変化していない。すなわち、24時間まで光重合による後重合効果により硬化は進むが、それ以後化学重合による硬化はほとんど進まないことを示唆している。セラミックスが厚くなると、光重合は不十分となり、120分後でも硬さは不十分のままである。 以上のように、光重合でできたラジカルはかなり長時間活性を保っているのであるが、これはラジカルが硬化したレジンの中に閉じ込められているためである。このようなラジカルは酸素に会うとすぐ失活するため、酸素が溶け込んだ水を吸収すると影響を受ける。したがって、歯質界面でのラジカル寿命は短いと考えた方がよい。 デュアルキュアで化学重合が効かないことについて、筆者は次のように解釈している。 (1) 光重合、化学重合方式ともに、それぞれ基本となる触媒(ラジカル発生剤)とそれを補助するアミンの組み合わせから成っているが、化学重合用のアミンは光重合でも使われてしまう。(2) 光重合でできたラジカルにより化学重合用の触媒が分解される。(3) 光重合でまず硬化が進んでしまうと、化学重合の触媒、アミンは動きにくくなって両者間の反応が減少し、発生するラジカルも減少する。 以上のようなわけで、デュアルキュアにおいては、光が到達しない場所では化学重合に頼らざるを得ないが、光照射が可能なところは光重合を最大限に活用するのが望ましいといえよう。なお、光重合と化学重合する部分が隣接していると、光重合する方に化学重合する部分が引っ張られて収縮する可能性があることも一応念頭に置いておいたほうがよい。
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