第115回:ハイブリッドレジン、ジルコニアの接着

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前回の114回で、適切なCAD/CAM冠レジンブロックとセメントを選択しないと脱離の可能性が高まることを指摘したうえで、現時点では、エナミックとスーパーボンドを利用するのが、取りあえず無難であると筆者は考えていると記した。しかし、スーパーボンドによるレジンブロックと象牙質の接着に関するデータはこれまで皆無であった。そこで、サンメディカルにこの件について照会し、データの提供を受けたので先ずそれを紹介したい。 レジンブロックとしてKZR-CAD HRブロック2(山金)とエナミック(カボ)を用い、その表面をサンドブラスト処理した後、スーパーボンドでレジンブロックとステンレス棒、あるいは象牙質ではレジンブロックと接着後ステンレス棒を接着し、37℃水中に一夜放置後引張試験を行った。結果を表1に示す。象牙質との接着では、KZR-CAD HRブロック2、エナミックともに接着強さは17 MPaであり、この値は象牙質とステンレスの接着で得られたものと同等であった。破壊様式をみると、象牙質/エナミックは象牙質/ステンレスでの接着とほぼ同じように凝集破壊が多かったが、HRブロック2では混合破壊が多かった。レジンブロックの接着では、いずれのブロックとも、象牙質との接着にくらべ接着強さは大きく、セメントの凝集破壊100%であったが、接着強さはエナミックのほうが低かった。 メーカーの自社データは信憑性が疑われることもあるが、その懸念を検証する一助として、114回で紹介した歯科理工学会発表での加藤ら(山金)の、サンメディカルの接着試験と同じような条件で得られたデータ(抄録にある棒グラフから筆者が求めた概数値)も表1に加えた。両者の接着強さを比較すると、象牙質では同等、レジンブロックでは加藤らの方がやや大きかった。こうしたことから、筆者としては表1は参考データになり得ると考えている。スーパーボンドでレジンブロックを象牙質に接着した場合、レジンブロック/セメント界面で剥離が起きることはなく、基本的にセメント層の凝集破壊であるが、象牙質界面の一部で剥離が起きる可能性はあると考えられる。

今回のスーパーボンドでの接着試験結果は、114回で紹介した、加藤らおよび木下らの結果とかなり異なるように思われる。スーパーボンドは、ほかの5種のセメントにくらべレジンブロック、象牙質での接着強さが大きく(114回の図2と比較)、ほかの3種のセメントにくらべセメントの凝集破壊が多く、象牙質/セメント界面での破壊は少なかった(114回の図1と比較)。 114回で、ジルコニアのインプラント支台にレジンブロックのクラウンを装着したところ、1年で極めて高率でジルコニア/セメント界面からの剥離が起きたという臨床報告を紹介した。それは、ジルコニアとセメントの接着強さが不足していることを示唆していた。その実情を知るため、ジルコニアと象牙質の接着について少し調べたことを記す。 ジルコニアをアルミナサンドブラスト処理後、象牙質と接着したデータの例として、セメント名(せん断接着強さ/象牙質とセメント界面の剥離率)を次に示す(Oper Dent36巻3号、2011)。パナビア F2.0(15.0MPa/88%)、リライエックスユニセム(13.2MPa/75%)、マックスセム(4.2MPa/100%)。なお、サンドブラスト処理なしに接着した場合のせん断接着強さの例として、パナビア F2.0/7.0 MPa、クリアフィルSA/5.1MPa、マックスセムエリート/5.0MPaがある(Int J Prosthodont28巻3号、2015)。ジルコニアの接着ではサンドブラスト処理が必須であることを示しているが、そうした処理をして象牙質と接着すると、ジルコニア/セメント界面で剥離することはほとんどなく、象牙質/セメント界面で剥離が起きる。 ジルコニアと象牙質の接着における、シリカコーティング処理の影響を調べた論文の例を挙げる(Oper Dent 印刷中、2015)。用いた材料は、セメントとして、通常タイプのリン酸エッチング/アダパー シングルボンド プラス/リライエックスARC(CC, conventional cement)およびセルフアドヒーシブタイプのリライエックスU200(SA)、プライマーとしてスコッチボンド ユニバーサル。ジルコニア表面は、ロカテック(110μmのアルミナ表面にシリカを付着させた粉末を高圧噴射)およびコジェット(30μmのアルミナ表面にシリカを付着させた粉末を高圧噴射)方式でシリカコーティング処理+シラン系モノマー処理あるいは研磨紙での研磨面をユニバーサルプライマー処理を行い、象牙質と接着し、せん断接着強さを測定した。接着強さのセメントの比較では、CC18~24MPa、SA16~18 MPaで前者のほうが大きかった。ロカテック、コジェット処理は、サンドブラスト処理してない面でのユニバーサルプライマー処理にくらべ、接着強さはやや低い傾向にあったが、有意差はなかった。破壊様式は、CCでは、シリカコーティング処理ではジルコニア/セメント界面剥離50%、混合破壊40%(残りは象牙質/セメント界面剥離とセメント凝集破壊)であったが、プライマー処理ではそれらの値がそれぞれ40%と60%であった。一方、SAでは、シリカコーティング処理では象牙質/セメント界面剥離が50%と100%、混合破壊40%、ジルコニア/セメント界面剥離10%であった。こうしてみると、セルフアドヒーシブタイプはジルコニアにくらべ象牙質との接着強さが弱く、これとは逆に、通常タイプは象牙質にくらべジルコニアとの接着が弱いという結果になっている。プライマー処理前にサンドブラスト処理すれば、接着強さは当然大きくなることから、ジルコニア表面でのシリカコーティング処理は効果的ではないといえる。 機械的維持力はほとんどなく、接着力のみが維持力となるようなタイプのブリッジに関し、長期の臨床研究をまとめたレビューがある(Dent Mater31巻1号、2015)。それによると、12~64か月追跡した報告として6論文があり、脱離率は次のようであった。シリカコーティング処理した1論文で46.2%(追跡12か月)ととくに高く、すべてジルコニア/セメント界面で剥離していた。次いでは、加工しただけでとくに機械的表面処理を施さなかった1論文の13.3%(53か月)であり、アルミナサンドブラスト処理をした4論文ではで4.3~7.1%(20~64か月)と低かった。こうした結果およびこれまでの多数の実験室的データから、ジルコニアセラミックに対する推奨できる接着法は次のようになるとしている。
  • 50μmのアルミナで0.1~0.25 MPaでサンドブラスト処理
  • MDP含有レジンで合着
  • または、MDPあるいはリン酸系メタクリレート含有プライマー処理後に合着用レジンで合着
ジルコニア修復物が脱離しやすいという声が一部にあるようであるが、その脱離がどこで起きるのか明確にする必要がある。上記の推奨する方法によればジルコニア/セメント界面で剥離することは考えにくく、象牙質/セメント界面での剥離の可能性が大きいように思われる。これは、レジンブロックの場合におけると同様のことであり、修復物の象牙質への接着では、象牙質接着性に優れたセメントを選択することが脱離を防ぐのに役立つであろう。

(2015年12月15日)

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