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2015/11/10

第114回:ハイブリッドレジン製CAD/CAM冠の脱離

2014年、ハイブリッドレジン(以下HRと略)をCAD/CAM法で作製するクラウン(以下HR-CAD/CAM冠)が保険適用となったが、予想外にその脱離が起きやすいという話を耳にしていた。それを裏付けるようなことが起きた。3Mは2012年から他社に先駆けて我が国でCAD/CAM 用のHRとしてラヴァアルティメットを販売していたが、クラウンの脱離率が高いという理由で、本年6月その販売を中止したのである。3Mでは全世界でクラウン用途を適用外とし、インレー、アンレー、べニアは適用としているが、日本の3Mはとりあえずすべて用途での販売を中止としている。さらに、かなり前に、懇意にしている歯科医から「スーパーボンドでHR-CAD/CAM冠を合着すると象牙質とスーパーボンドの界面で脱離することがあるが、どうしてですか?」という質問を受けていた。彼はスーパーボンドの長い使用歴があるが、そうした脱離はほかの材料での補綴物の合着では経験したことがないとのことであった。そこで、HRの接着に関する報告を探してみたが、論文はなく、すべて学会発表であり、抄録から得られる情報は限られていた。

HRと象牙質との接着は、10月開催された歯科理工学会での木下氏ら(東歯大)の発表のみであった。掲示されたポスターには抄録に載っていない多くのデータが追加されており、以下に詳しく紹介する。写真撮影したポスターのデータをもとに筆者がそれを編集して図1としてまとめた。

図1

図1にあるようなHRおよびセメントで牛歯象牙質と接着し、37℃水中24時間保管後にせん断接着強さを測定した。図1を見て気づいたことを記すと次のようである。①HR/セメント界面破壊はほとんど起こらず、象牙質/セメント界面破壊が非常に多く、混合破壊(この詳細は不明) は少ない、②HRおよびセメントにより接着強さ、破壊様式に差がある、③HRの接着強さ、破壊様式をくらべると、セラスマート、アベンシア、ラヴァアルティメットはほぼ同じ、この3種に比してKZR-CADはそれらに近く、エナミックはやや異なり、松風ブロックはかなり異なっている、④セメントを比較すると、RLXは接着強さが大きく象牙質/セメント界面破壊が比較的少なく、PV5の接着性はRLXにくらべ全体的に劣り、SALは接着強さが小さくすべて象牙質/セメント界面破壊である。

こうしてみると、セメントとHRとの接着はかなり強く、象牙質との接着は弱いといえ、そうすると当然象牙質/セメント界面破壊が起きることになる。このデータを基にしてHRを選択するとすれば、RLXおよびPV5に対して大きな接着強さを示し、また象牙質/セメント界面破壊が比較的少ないエナミックを挙げるのが順当と思われるが、エナミックとほかのHRとの大きな違いは無機質成分の形、構造にあり、それが影響している可能性があると思われる。ほかのHRはコンポジットレジンで使われているような無機質フィラーとレジンモノマーの混合物を加圧・加熱重合させたものである。それに対し、エナミックはシリカ/アルミナガラス系ハイブリッドセラミック粉末(Vitablocs Mark IIと同様成分)を加圧、焼結した多孔質体にレジンモノマーを含浸・重合させたものであり、結果的に無機質成分が86重量%、75体積%と多くなっている。

「セメントとHRとの接着はかなり強く、象牙質との接着は弱い」と記したが、それを理解するのに役立つと思われる加藤氏ら(山金)の発表があった。HRとしてKZR- CAD HRブロック2(山金、新規開発品)、銀合金、象牙質(牛歯)を被着体とし、6種のセメントでステンレス棒を接着、37℃水中浸漬24時間後に引張試験を行った(図2)。どの被着体に対しても最も高い接着強さを示したのはスーパーボンドであった。

図2

このセメントは、象牙質に対する接着性がすぐれ、最も信頼できる象牙質接着材として臨床で長年にわたり使われている。しかし、このデータからは、象牙質との接着強さはHRのほぼ半分であり、HRと象牙質との接着では、ほかのセメントにくらべ接着強さは大きいとはいえ、破壊が起きるとすれば象牙質/セメント界面で起きやすいことが示唆されている。この発表では破壊様式に関してまったく触れられていないので推測するしかないが、すべてのセメントで接着強さが最も大きいステンレス/銀合金の接着データからすると、セメントで凝集破壊するとすれば、少なくともエステセムの18M Pa以上にはなるはずである。ところが、いずれのセメントでも象牙質との接着強さはそれを下回っており、セメントでの凝集破壊は起きにくく、象牙質/セメント界面あるいは象牙質界面を含む混合破壊となる可能性が考えられる。パナビアV5ではHRでの接着強さが象牙質の1/3近いが、これだとHR/象牙質の接着ではHR/セメント界面破壊が予想される。しかし、このようなことは図1からすると理解しがたいが、せん断試験と引張試験という試験法が影響しているのかもしれない。

図3

HRとステンレスの引張接着試験に関してもう1件、山口氏ら(神歯大)の発表があった。ポスターに破壊様式についての図があり、それを筆者が編集したのが図3である。図3に示したHRとセメントで接着後、室温1日保管、37℃水中で14日と28日間保管、5℃/55℃の熱サイクル負荷1万回の各条件で得られた試料を引張試験した。この発表では接着強さの数値は示されておらず、次のようなことが記されている:接着強さは、室温1日保管後と比較すると、CERAは水中保管後の接着強さの低下はなく、VEは水中28日保管と熱サイクル負荷で低下、NIは他の全ての群で増加した。KZRとKABではいずれの条件でも有意差は認められなかった。なお、HCについては言及されていない。破壊様式についての説明がないので推測するしかないが、図2から想像すると、界面破壊はHR/セメント間、凝集破壊はセメント層、混合破壊は界面破壊+セメントの凝集破壊と考えられる。この発表での接着強さの傾向と破壊様式、さらに図1および図2も合わせ考慮し、脱離しやすい順に並べると、KZR、KAB<CERA、VE<HC<NIになりそうである。このような順になるのはおもにセメントの影響である。

HRとステンレスの接着に関しては、2015年の補綴歯科学会でも報告がある。4種のセメントでセラスマート、松風HC、KZR-CAD HR、ラヴァアルティメットとステンレス棒を接着、37℃水中浸漬24時間後に引張試験した結果によれば、接着強さは、スーパーボンド17~22、ジーセムセラスマート11~16、SAルーティングプラス11~15、リライエックスアルティメット14~23 MPaとなっている。いずれのHRに対してもスーパーボンドの値が大きくなっている(ただし、3MのHRとセメントの組合せとはほぼ同等)。破壊様式については触れられていない。

HRとレジンコアの接着について新妻ら(日歯大)の報告がある。セラスマートセラミックプライマーII/セラスマートを用いた接着において、37℃水中24 時間浸漬後にせん断試験を行うと、サンドブラスト条件変えると接着強さ4~6MPa、破壊様式はセメント-HR間の界面破壊ないしはそれを含む混合破壊が最多であった。なお、HRとレジンコアの接着に関しては、EDプライマーII/パナビアF2.0で接着した報告もある。36℃恒温器中24時間保管後にせん断試験を行った結果によると、セラスマート、松風HC、ラヴァアルティメットのせん断接着強さはそれぞれ9.2、5.6、5.9 MPa、いずれもHR/セメント界面破壊、エナミックは30.9 MPaで凝集破壊となっている(2014年接着歯学会抄録)。このようにレジンコアとの接着ではほとんどのHRでHR/セメント界面破壊が起きやすくなっている。このような界面破壊の起きやすさは、松風HC、セラスマート、エナミックにリライエックスユニセム2を接着、37℃水中24時間保管後のせん断接着試験でも認められている。HR面のサンドブラスト処理のみでは界面破壊、シラン処理すると混合破壊(界面破壊+HRの凝集破壊)が多く観察された(2015年日本デジタル歯科学会抄録)。

以上のような諸報告をもとに、HRと象牙質、ステンレス、レジンコアとの接着試験における破壊についてまとめると、象牙質では象牙質/セメント界面破壊、ステンレスおよびレジンコアではHR/セメント界面破壊、と要約できそうである。このことは、セメントの象牙質に対する接着強さがステンレスやコアレジンにくらべ相対的に低いことを示唆している。

以上は実験室的接着試験についてであるが、終りにClin Implant Dent Relat Res電子版(12382, 2015)からSchepkeらの最新の臨床試験結果の概要を紹介する。シングルインプラント治療の患者50名において、ラヴァアルティメット製CAD/CAM冠を口腔外でインプラント用ジルコニア製支台歯にスコッチボンドユニバーサル/リライエックス アルティメットで接着し、インプラントにスクリュー固定し、12か月間追跡した。インプラントの喪失はなかったが、CAD/CAM冠の成功率はわずか14%であった。クラウンの垂直破折6%、クラウンと支台歯間の初回の脱離80%、そのうち44%は患者が脱離に気づいて再修復。再修復した症例でも脱離し、12か月間で100症例の脱離を認めたが、その脱離症例のすべてにおいて、セメントのほとんどが支台歯ではなくクラウンに付着していた。すなわち、ジルコニア/セメント界面破壊である。著者らは、咬合による弾性変形はHRクラウンの中で起き、それがセメント層での応力集中となり、最も弱いジルコニア/セメント界面で脱離が起きると考え、さらにそれは使用したHRの曲げ弾性率(12 GPa)の低さによると推論し、現在は高弾性率(95 GPa)のe.max Pressに替えているという。しかしそれにしても、脱離率は高すぎると思う。その原因としてジルコニアとセメントの接着強さの不足を疑って調べてみると、2008年の接着歯学に入江、鈴木氏の論文があった。それによれば、ジルコニア(Lava)と5種のセメントの1日水中浸漬後のせん断接着強さは11~15 MPa、破壊様式は、各セメントでの試料数10、全体50試料のうち、界面破壊3、混合破壊38、凝集破壊9で圧倒的に混合破壊が多かった。ジルコニアに対する接着強さは、図1の象牙質とHRとの接着強さにくらべ低いように思われる。なお、セメント硬化物の曲げ強さ66~147 MPa、曲げ弾性率6~10 GPaも測定されている。

Schepkeらが重要性を示唆したHRの曲げ弾性率であるが、理工学会でもHRの弾性率や曲げ強さの測定結果が報告されていた。それによると、ほとんどの製品のHRの曲げ弾性率は7~10 GPa、曲げ強さは150~200 MPa(メーカーカタログ値では155~240 MPa)であり、製品間に大差はなかったが、弾性率はエナミックのみ30 GPaと大きかった。HR-CAD/CAM冠の脱離抑制には、HR、被着体、セメントの弾性率が近似しているのが望ましいのではないかと考えているが、このような観点からは、弾性率210 GPaのジルコニアへのHR-CAD/CAM冠の適用は接着強さの低さも含め、脱離しやすいように思われる。その一方、HRのインレー、アンレー、べニアへの適用では、被着体がエナメル質を含む弾性率15~30 GPaの象牙質であるとすると、弾性率の差は小さく、接着強さが大きければ、脱離は少なくて済むはずではないかという気がする。

冒頭部に記した「スーパーボンドでHR-CAD/CAM冠を合着すると象牙質とスーパーボンドの界面で脱離することがあるが、どうしてですか?」という質問には相変わらず答えられずにいる。スーパーボンドによるHRと象牙質の接着データがいまだに発表されていないのがその主たる理由である。しかし、HR-CAD/CAM冠の脱離に悩まされたある臨床家によれば、様々なレジンセメントを試したが⼀向に改善されなかったが、スーパーボンドでそれは解消されたという。図1は、適切なHRとセメントを選択しないと脱離の可能性が高まることを示唆している。現時点では、弾性率が象牙質に近いエナミックとスーパーボンドを利用するのが、取りあえず無難であると筆者は考えている。HRと象牙質の接着に関するデータは今のところ1件しかなく、今後さらにデータの積み重ねが必要である。また、脱離の原因の解明と対策は今後の課題として残されている。

(2015年11月9日)

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