第113回:歯周病にまつわる最近の論文から

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我が国の歯周病の罹患率は、2011年の歯科疾患実態調査によれば、調査対象者のうち30歳以上3,394人では77.4%、プロービング後の出血、歯石の沈着などの軽度の歯周病を除いた、中等度(歯周ポケット4~6 mm)から重度(歯周ポケット6 mm以上)の歯周炎は39.5%となっている。一方、米国の30歳以上の3,742人を対象にした2009~2010年の調査によれば、歯周炎の罹患率47.2%、中等度から重度は38.5%となっており、日米両国とも似たような罹患状況となっている。こうしてみると国民の約40%が歯周炎の治療を要していると考えられる。歯周病対策には患者および国民一般への啓発活動が重要と思われるが、それに多少なりとも役立つと思われる論文が最近報告されているので紹介することにした。 一つ目の論文は、歯周病の治療に欠かせないサポーティブ ペリオドンタル セラピー(Supportive Periodontal Therapy、SPTと略)注1における患者のコンプライアンスの重要性を取り上げた、「サポーティブ ペリオドンタル セラピー中の歯の喪失に及ぼす患者のコンプライアンスの影響:システマティック レビューとメタ分析」(J Dent Res94巻6号、2015)である。歯周病治療は積極的治療とSPTから成り立っており、歯周病の発生を防ぎコントロールするため、積極的治療後の定期的なSPTが推奨されているが、長期の歯周状態に影響を及ぼす最も重要な因子は、患者のSPTでのコンプライアンス(患者の診療予約の順守)であると考えられている。本論文は、歯周炎の最終結末とみなされている歯の喪失と定期的なSPTでの患者のコンプライアンスの関係を、5年以上の追跡があり、定期通院コンプライアンス群(定期群と略)と不定期通院コンプライアンス群(不定期群と略)のある8論文を選びメタ分析した。 SPTでの通院間隔はほとんどの場合3か月あるいは6か月であるが、定期群、不定期群の取扱いは各論文でそれぞれ異なっている。定期群は、患者が通院予約を、完全に順守(3論文)(厳しいコンプライアンス基準)と80%以上、70%以上順守(5論文)(緩いコンプライアンス基準)などの幅がある。不定期群はそれらの残りである。論文では次のようなパラメーターを算出している。 ・歯喪失リスク=喪失総歯数/SPT開始時の総歯数 ・歯喪失リスク比=定期群の歯喪失リスク/不定期群の歯喪失リスク ・歯喪失リスク差=(定期群の歯喪失リスク-不定期群の歯喪失リスク) ・治療必要数=1/歯喪失リスク差) ・歯喪失率=喪失総歯数/患者数・追跡期間 ・歯喪失率差=(定期群の歯喪失率-不定期群の歯喪失率) 歯喪失リスクは、定期群は不定期群にくらべ有意に低く(歯喪失リスク比:0.56;歯喪失リスク差:-0.05)、コンプライアンスの厳しい基準群(歯喪失リスク比:0.30)は緩い基準群(歯喪失リスク比:0.83)にくらべ低かった。SPT期間中の定期群の歯喪失率0.12は不定期群にくらべ有意に低かった(歯喪失率差:-0.12)。治療必要数は20で、1歯喪失しないためにはSPTを順守した患者の20歯を5年以上の追跡期間中維持せねばならないことになる。要するに、患者が定期的通院を守るほど歯の喪失リスクは低下する。 二つ目は「喪失歯は心血管疾患、糖尿病、死の発生を予測する」(J Dent Res 94卷8号、2015)という論文である。世界的に、歯周炎は40歳以上の人における抜歯の最大の原因とされ、また、歯周炎は動脈硬化性血管疾患のリスクと関係しているとされている。そこで、本論文では、1997年のフィンランドの国民FINRISK調査(25~74歳の8,446人の13年の追跡調査)を基に、喪失歯数が心血管疾患(冠動脈性心疾患、急性心筋梗塞、脳卒中)、糖尿病、全死亡の発生を予測できるかを検討した。 13年の追跡期間中に、調査した9.9%に心血管疾患が発症した。糖尿病は心血管疾患のある者では3.5倍となった。5~8歯喪失者は冠動脈性心疾患と急性心筋梗塞発症のリスクが増加し、9歯以上の歯喪失者は心血管疾患、糖尿病、全死因と関連していた。無歯顎者では9歯以上の歯喪失者にくらべ、心血管疾患および冠動脈性心疾患発症のリスクが小さくなった。歯の喪失と脳卒中との関連性はなかった。2~4歯の喪失でも、心血管疾患、糖尿病のリスクが増加する傾向も認められている。各個人の慢性疾患に対するリスク因子を評価する際には、喪失歯数も一般開業医にとって有用な追加的指標になり得るであろうとしている。 三つ目の論文は、「エッセンシャルオイル含有洗口液の歯肉炎およびプラークに及ぼす効果のメタ分析」(JADA146巻8号、2015)。歯肉炎の治療と予防はそれがさらに進んだ歯周病にならぬようにするのに重要である。そのためには毎日の歯みがきと歯間清掃を含む機械的清掃が通常推奨されている。その一方、それら方法だけでなく洗口液も使用すると効果的ということが報告されている。そこで、そのことを検証したのが本論文である。これは、1980~2012年の29論文をレビューしメタ分析を行ったものである。 機械的清掃単独群(単独群と略)に対する機械的清掃と洗口液の併用群(併用群と略)の6か月(定期的通院期間)でのオッズ比注2は、健康な歯肉(歯肉炎指数が0か1)5.0、プラークなし(プラーク指数が0か1)7.8であった。個人ベースの口腔内で併用群と単独群をくらべると、50%以上健康な歯肉部位であった患者はそれぞれ44.8%と14.4%、歯肉炎指数の20%低下はそれぞれ66%、24%、50%以上プラークなしの部位であった患者はそれぞれ36.9%、5.5%、プラーク指数の20%低下はそれぞれ83%、25%であった。これらのことから、機械的清掃に加えて洗口液を利用することはとくにプラークの抑制に効果的な傾向が認められた。 本論文で対象としている洗口液は、有効成分としてエッセンシャルオイル(1,8-シネオール、チモール、サリチル酸メチル、メントール)を含むことを特徴とするエタノール含有「リステリン」である(2013年発売された「リステリン ナチュラルケア」ではエタノールの代わりにプロピレングリコールが添加されている)。この成分中、殺菌剤はフェノール類のチモールである。我が国で洗口液として販売されている製品は、分類上、医薬部外品と化粧品があり、医薬部外品としての洗口液には薬用成分として殺菌剤が添加されている。主要な洗口液中の殺菌剤は、塩化セチルピリジニウム(ガム・デンタルリンス/サンスター;薬⽤ピュオーラ洗⼝液/花王;モンダミンメディカルケア/アース製薬)、イソプロピルメチルフェノール(システマ EXデンタルリンス/ライオン)であり、サンスターと花王の製品にはトリクロサンも添加されている。これらの製品が、長年の使用実績と多くの検証結果のある「リステリン」と同等の効果を示すかは不明である。塩化セチルピリジニウムと「リステリン」の効果を比較した数報の論文があり、同等という論文もあるが、「リステリン」より劣るという論文の方が多い。イソプロピルメチルフェノール(3-メチル-4-イソプロピルフェノール)はチモール(2-イソプロピル-5-メチルフェノール)の異性体であり、両者には似たような効果があると考えられる。医薬部外品の洗口液には「リステリン」に近い効果は期待できるように思われるが、殺菌剤を含まない化粧品の洗口液にそれを望むのは難しい。 以上の3論文を読んで学んだことは、①歯科医師の指示に従って真面目に通院しないと抜歯のリスクが増える、②抜歯数が増えると心血管病や糖尿病発症のリスクが増える、③洗口液も、適切に受診し、毎日の歯みがき等も真面目にやらないと効果が上がりにくい。我が国では国民のほぼ4割が治療を要する歯周病に罹患していると推定されるが、①~③について国民はどの程度理解しているだろうか。かなりの人は歯周病のリスクについて十分には理解しておらず、受診もしていないのではないかと想像している。歯科界には国民への歯周病に関するさらなる啓発活動が望まれる。

(2015年10月7日)

注1:サポーティブ ペリオドンタル セラピー 歯周基本治療、歯周外科治療、口腔機能回復治療により病状安定となった歯周組織を維持するための治療であり、口腔衛生指導、専門的機械的歯面清掃(PMTC、スケーリング、ルートプレーニング、咬合調整、ポケット内抗菌薬投与(LDDS)などからなる包括的治療である(「歯周病の検査・診断・治療計画の指針 2008」(日本歯周病学会)

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注2:オッズ比 ・健康な歯肉のオッズ比=併用群の[(健康な歯肉の割合/不健康な歯肉の割合)]/機械的清掃群の[(健康な歯肉の割合/不健康な歯肉の割合)] ・プラークなしのオッズ比=併用群の[(プラークなしの割合/プラークありの割合)]/機械的清掃群の[(プラークなしの割合/プラークありの割合)]

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