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2015/09/01

第112回:光線力学的治療(Photodynamic therapy, PDT)の医療における利用

前回の111回で歯周炎治療に対しスケーリング・ルートプレーニングの補助療法としてPDTが有効であることを記した。PDTはかなり興味ある治療法のようであったが、残念ながら、筆者はPDTについてほとんど知識がなかった。そこで、それについて少し調べてみた。その結果、PDTは歯周炎治療のみならず、医科や歯科の治療において、まだ一般的ではないものの、一つの選択肢として利用され、侵襲の少ない治療法として今後さらに利用が拡大すると考えられていることがわかった。調べたことの一端を今回紹介することにした。

PDTは、一言でいえば光増感剤(光感受性物質)と光を利用する治療法である。PDTの利用は、歯科では比較的最近のことであるが、医科ではがん治療にかなり前から採り入れられていた。1998年のJ Natl Cancer InstにはPhotodynamic Therapyというレビューが掲載されている。それによれば、前臨床および臨床試験が25年以上にわたり世界的に行われ、いくつかの癌に対する有効な治療法であることが確認された。そして、1993年以後、ヘマトポルフィリン誘導体(フォトフリン)を用いた、肺、消化管、泌尿生殖路の早期および進行がん患者の治療がカナダ、オランダ、フランス、ドイツ、日本、米国で公的に認められた。フォトフリンは、その後、通常治療では治療不可能あるいは難治性の進行性腫瘍の治療、あるいは、前の治療が失敗し、放射線治療、外科的治療、化学療法が不適当な進行性頭頸部癌の緩和治療などにも試みられるようになった。

PDTによる癌治療は、腫瘍組織や新生血管に特異的に集まる性質を有する光増感剤を静脈投与後に石英ファイバーをとおして病巣に特定波長の光線を照射すると、光増感剤は活性化され、それは酸素が存在すると活性酸素を生じさせ、それが腫瘍細胞を選択的に破壊するものであり、正常組織に大きな障害を与えることなく、病変部を選択的に治療できるとされている。非腫瘍性疾患へのPDTの応用は、乾癬、尋常性ざ瘡(にきび)、光線性角化症、関節リウマチ、加齢黄斑変性症などで行われている。歯科領域では、口腔癌、口腔白板症、口腔扁平苔癬、頭頸部癌(咽頭、喉頭などの扁平上皮癌)などの治療が試みられ、有効性が確認されている。さらに、光線力学的抗菌化学療法(Photodynamic antimicrobial chemotherapy, PACT)として、細菌、真菌、寄生虫およびウィルス感染症の治療、口腔バイオフィルムの処置に利用され、その有用性が認められている。抗菌薬による治療では耐性菌の問題を生ずるが、PDTではその懸念はない。

従来医科的にかなり使われている光増感剤のおもなものは、フォトフリン、フォスキャン、レザフィリン、レブラン5-ALA(体内でポルフィリンに変化し光増感剤となる)などであるが、そのほかにも様々な光増感剤が臨床試験中あるいは開発中である。光増感剤の使用では、光源(従来型レーザー、半導体レーザー、LED)、有効治療深さ、病巣への集積性、静脈投与(レブラン5-ALAは対象疾患により局所塗布も可能)から光照射までの待機時間、照射終了後の光線過敏症予防のための遮光時間などで違いがある。

現在我が国でのPDTの利用状況は、PDT用に3種の光増感剤が保険収載となっている。フォトフリン(ポルフィマーナトリウム)は早期肺癌、表在型食道癌、表在型早期胃癌、子宮頸部初期癌及び異形成に、レザフィリン(タラポルフィンナトリウム、)は早期肺癌、原発性悪性脳腫瘍(腫瘍摘出手術を施行する場合に限る)、化学放射線療法又は放射線療法後の局所遺残再発食道癌に利用されている。癌以外では、ビスダイン(ベルテポルフィン)が脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性症治療が保険適応となっている。

これら保険収載の3種の光増感剤は、性質、使用方法がかなり異なっている。フォトフリンは、静脈投与48~72時間後にPDT専用のエキシマ・ダイ・レーザーあるいはYAG-OPOレーザー装置で治療の目的、部位別にそれぞれ適した照射エネルギー、時間で波長630 nmの赤色光を照射する。腫瘍組織には、正常組織のおよそ4倍取り込まれ、かつ48時間以上停滞する特性があるとされる。フォトフリン投与後は、光線過敏症の可能性があり、少なくとも1カ月間は直射日光を避けるのが望ましいという。レザフィリンでは、静脈投与4~6時間後(ただし、脳腫瘍の場合には22~26時間後)に専用の半導体レーザー装置で波長664 nmの赤色光を病巣部位に照射する。フォトフリン以上に腫瘍集積性にすぐれ、また光線過敏症の可能性がより軽度とされるが、投与後2週間は直射日光などを避けることになっている。ビスダインでは、10分間かけて静脈内投与し、投与開始から15分後に眼科用PDT用レーザー(非発熱性ダイオードレーザー)で波長689 nmのレーザー光を治療スポットに照射する。投与後48時間は皮膚や眼に直射日光や強い室内光に当らないようにする。

我が国の歯科領域でのPDTの利用は、もちろん保険適用外治療ではあるが、インターネット上の情報からすると、光線力学的抗菌化学療法(PACT)として、歯周治療、根管治療で行われ、カナダ製のペリオウェーブとデンマーク製のフォトサン630が使われているようである。ペリオウェーブでは、光増感剤がメチレンブルー(MB)、光源がダイオードレーザー(650-675 nm)であり、スケーリング・ルートプレーニング(SRP)後に歯周ポケットをMB液で満たし、60秒光照射する。これを歯の各面で繰り返す。フォトサン630では、光増感剤がトルイジンブルー(TB)、光源がLED(620-640 nm)であり、歯周炎治療や根管治療に使える。歯周治療では、SRP後に歯周ポケットにTBジェルを満たし、歯周ポケットの深さにより10、20、30秒光照射し、根尖性歯周炎がある場合には根尖位置の歯肉上から10秒追加照射する。根管治療での手順は、根管を次亜塩素酸ナトリウム液、クエン酸その他を用いて清掃、形成後、TB液を満たしてエンド光チップを抵抗感があるまで挿入し、深さが根管2/3なら30秒、1/2なら30秒2回、根尖では30秒2回とbluntチップで根尖レベルの歯肉を10秒光照射、水洗、乾燥である。なお、メーカー説明によれば、上記治療以外にも歯肉炎、インプラント周囲炎、深在性う蝕にも利用できるという。

このようにMBやTBが歯科領域では利用されているが、今のところ医科領域でほとんど使われていない。PACTを歯科領域で補助療法として利用するとしても、その効果は完全なものではない。例えば、根管治療では、殺菌抵抗性があるとされるE. faecalisのような細菌の数を大幅に減らすことはできても100%の除去は困難である。PACTは、グラム陽性菌には有効であるが、グラム陰性菌やC. albicansなどには効果は限定的と考えられている。

PDTは、機能温存を考慮にいれた、侵襲の少ない癌治療法であり、とくに高齢者の癌治療では大いに期待される治療法とされている。しかし、今のところその適応となる癌はかなり限定されており、適応拡大のためには、光増感剤として、癌に対し選択性、標的性のあるもの、より深部まで治療可能なものなどが必要とされている。そうした光増感剤の実現に向けて、現在様々な試みが広く行われているようであり、その中からいずれ臨床使用されるものが現われることを期待したい。

(2015年8月31日)

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