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2013/10/24

第11回:改正薬事法と歯科器材

2005年4月、45年ぶりに薬事法が大改正され施行された。歯科器材は従前の「医療用具」が「医療機器」と名称変更された範疇で規制されることとなった。市販後の安全対策の充実と承認・許可制度の見直しに重点を置いて大幅改正を目指したものとされ、よりよい方向への改善が期待されていた。ところが、その後明らかにされた実施の細目は関係者を落胆させるものであった。

2006年12月夜放送されたNHKのテレビ番組・クローズアップ現代で「なぜ高い?医療機器の値段」が取り上げられていた。心臓ペースメーカーやカテーテルなどを米国から輸入・販売すると、米国での値段にくらべて大幅に高くなっているという例が紹介された。国産品のないことが高価格を招いている主たる原因とされるが、技術はあっても、国産品の開発、製造は薬事法の改正で以前にも増してさらに難しい事態となっている。

医療機器をめぐる問題について、少し旧聞に属するが、2006年2月の朝日新聞に7回にわたり「ニッポンの医療機器 七不思議」が連載された。それには次のような見出しが並んでいる。“日本が開発しても、海外で先に使われる”、“進む開発、足りぬ審査員”、“改良したら使用禁止”、 “欧米より軒並み高い”、 “優れもの、使えば大赤字”、 “輸入が輸出の倍以上”、 “規制強まり試作困難に”、 “薬事法改正で経費急増”。これらの見出しは、我が国の医療機器のおかれている現状を端的によく表している。

2006年7月と12月、「歯科器材の開発・改良における諸問題」に関するシンポジウムがあり、そこで改正薬事法に対する歯科器材の製造・販売業者による問題点の指摘や不満の声をきく機会があった。これは、最近東京医科歯科大学に歯科器材の開発を促進・支援すべく歯科器材・薬品開発センターが設立されたが、その主催で行われたものである。承認・認証にかかわる費用の大幅増加、審査時間の長期化、過剰な資料提出要求などをはじめとして数々の問題が指摘された。これらのことと関連して、取り扱い数が少ない、 取扱額が小さい、新規原材料を含む、一貫製造されていない、などの器材は今後申請が困難になるのではないかという指摘もあった。

薬事法冒頭の第1条には、「この法律は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質、有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに、医療上特にその必要性が高い医薬品及び医療機器の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的とする。」と掲げられているが、「研究開発の促進のために必要な措置を講ずる」こととは逆行するような改正になっていると思わざるを得ない。研究開発意欲を低下させ、製品価格の上昇、さらには医療費の増加を招くようなことが進行しつつある。これは誰にとっても不幸な事態である。

「医療機器の品質、有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行う」ことに関していえば、“市販後の安全対策を充実させた”ことは一応評価するとしても、新しい医療機器を市場に送り出しにくくさせるような、行き過ぎとも思える内容を含んでいる。さらに、“承認・許可制度の見直し”については、歯科器材に関する限り従前どおりの規制で差し支えなく、見直す必要性の根拠が薄弱に思えてならない。これまでに、不適切な使用は別として、安全性にかかわる重大な不具合が歯科器材自体にあっただろうかと思う。あえて挙げるとすれば、稀に起る歯科用金属によるアレルギーである。もちろん、国際的な規制・基準との整合性の観点からの見直しは必要であるが、それ以上に厳しくする必要は全くないであろう。

厚生労働省は、国内の医療機器産業を活性化し、国際競争力を高めるための「医療機器産業ビジョン」を2003年に策定し、「国際競争力強化のためのアクションプラン」を進めている。そのプランでは種々の施策を打ち出しているが、最終的には改正薬事法が大きな障壁として立ちはだかり、今のままでは所期の目的を達成することは困難となろう。医薬品については、「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」が10月に発足し、承認審査のあり方や実施体制、安全対策等に係る事項等について検討するとされており、関係者等からのヒアリングも既に実施されている。医療機器についても、同様な検討会を早急に発足させ、製造・販売業者、医療関係者、研究者などの声をよく聴いたうえ、薬事法の枠内で可能な限り弾力的な運用を工夫することを厚生行政に望みたい。

厚生労働省は、2006年10月承認審査等推進室を設置し、新薬の審査期間の短縮をめざす態勢を整えるとともに、安全性がある程度認められ、医師や患者の要望の多い新薬については早期に承認し、市場に出た後、副作用や有効性のデータを収集する「市販後臨床試験」も実施していくという。これが確実に実施されれば、多くの人にとって朗報である。新薬に限らず、医療機器についても同様の対応策が講じられることを強く要望したい。

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