第109回:グラスファイバーポストを利用した支台築造
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近年、鋳造メタルポストよりも既製ファイバーポストの利用が進んでいるようである。その理由として、審美的観点や治療時間の短縮だけでなく、象牙質の弾性率とくらべ、高弾性率のメタルポストより低弾性率のファイバーポストでは歯根破折を起こしにくいことがあげられている。本当にファイバーポストのほうが歯根破折を起こしにくいのか、これについてこれまで必ずしも十分には検証されていない。これに応えるような論文「メタルポスト保持の修復物はファイバーポスト保持の修復物より歯根破折を起こしやすいか?―システマティックレビューとメタ分析」がJ Endod41巻3号(2015)に載っており、5年以上の追跡結果のある2014年1月までの14論文を厳選、分析したものである。これを先ず紹介する。
14論文で取り上げたポストのタイプは、メタルポスト8論文(既製メタルポスト8、鋳造メタルポスト4)、ファイバーポスト8論文(グラスファイバーポスト4、カーボンファイバーポスト4)であった。抜歯に至るような歯根破折を致命的失敗、歯内療法的失敗(根管治療に関連した失敗で修復物に問題はない)、クラウンの脱離、ポストの脱離、ポスト/コアの破折などを非致命的失敗とした。
1991~2012年の14論文の全体として、患者3,202名、ポスト4,752本、追跡期間41,721ポスト・年であり、歯根破折62、非致命的失敗467であった。生存率は、メタルポスト90%、ファイバーポスト83.9%。1,000ポスト・年当たりの歯根破折率は、全体としてはメタルポストとファイバーポスト同等であったが、ポストのタイプ別では違いがあり、既製メタルポストとカーボンファイバーポストは鋳造メタルポストおよびグラスファイバーポストにくらべ歯根破折率は1.6倍であった。1,000ポスト・年当たりの非致命的失敗率は、全体としてはメタルポストとくらべファイバーポストで高く、また、鋳造メタルポストおよびカーボンファイバーポストは既製メタルポストおよびグラスファイバーポストにくらべ1.6倍となった(表1)。このような結果からは、グラスファイバーポストは、(1)鋳造メタルポストとくらべ歯根破折率は同等、非致命的失敗率は低い、(2)既製メタルポストとくらべ歯根破折率はやや低く、非致命的失敗率はほぼ同等である、ことが示唆されているように思われる。したがって、“ファイバーポストはメタルポストより歯根破折を起こしにくい”とは必ずしもいえないようである。しかし、歯根破折、ポストの脱離、ポスト/コアの破折、歯内療法的失敗など、失敗の総合的観点からは、グラスファイバーポストは、既製メタルポストと同等、鋳造メタルポストにくらべ好ましい予後が期待できるように思われる。
メタルポスト | ファイバーポスト | |||||
1,000ポスト・年当たり | 全体 | 鋳造 | 既製 | 全体 | グラス | カーボン |
歯根破折率 | 5.13 | 3.39 | 5.52 | 4.78 | 3.58 | 5.69 |
非致命的失敗率 | 12.69 | 22.09 | 12.80 | 19.39 | 14.17 | 22.56 |
レビューの中ではグラスファイバーポストについては4論文が取り上げられている。そこで、それら論文からデータを集めて比較したのが表2である(データがない場合は空欄、あるいは筆者が推測して追加した部分もある)。多くの場合、失敗しても再修復治療が行われているので、成功率にくらべ生存率は高くなっている。Naumann論文での低成功率、Signore論文での高成功率が目立っているが、様々な条件を詳しく比較検討しないとその原因をはっきりさせることは難しい。全体として、失敗はポスト脱離が圧倒的に多いが、Sterzenbach論文ではこの件についてまったく記載がない。ポスト脱離に次いでは、ポストやポスト/コアの破折が多く、歯根破折はかなり稀にしか起こしていない。このような結果は、ポストの離脱を抑えられれば、グラスファイバーポストを利用した支台築造の成功率を大幅に改善できることを示唆している。
文献 | Ferrari J Dent Res 2012 |
Naumann J Endod 2012 |
Sterzenbach J Endod 2012 |
Signore J Dent 2009 |
真坂 接着歯学 2015 |
||
ポスト数 | 107 | 149 | 41 | 526 | 38 | 17 | |
術前 根尖病巣 | 無 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
有 | ○ | ||||||
観察期間(年) | ~6 | ~10(平均 6.2) | 2~7(平均 5.9) | ~8(平均 5.3) | 5~13 | 5~13 | |
生存率(%) | 99.1 | 93.3 | 100 | 100 | 94.1 | ||
成功率(%) | 76.6 | 63.1 | 90.2 | 98.7 | 100 | 70.6 | |
失敗総数 | 25 | 55 | 4 | 7 | 0 | 5 | |
ポスト脱離 | 12 | 17 | 5 | 0 | 0 | ||
ポスト破折 | 2 | 17 | 1 | 0 | 0 | ||
ポスト/コア破折 | 3 | 1 | 1 | 0 | 0 | ||
歯根破折 | 1 | 5 | 3 | 0 | 0 | 0 | |
歯内療法的失敗 | 7 | 7 | 0 | 3 | |||
その他失敗 | 5 | 0 | 2 | ||||
抜歯 | 1 | 10 | 0 | 0 | 1 |
この課題をどうするか?その解決策ともいえる報告が接着歯学33巻1号(2015)に載っている。「根築一回法の臨床成績」と題する真坂信夫博士らの症例報告である。2007年に提案された根築一回法は、従来のガッタパーチャポイントとメタルポストを使用した失活歯治療法とは異なり、グラスファイバー製のポストおよび補強用スリーブ(i-TFCファイバー、サンメディカル)を用い、MMA-TBB系レジン(スーパーボンド)を根管充填シーラーとして使用することで、根管充填とコア築造を同時に行うシステムである。根管充填-築造を一回で済ますことができ、治療時間の短縮や治療回数の削減が可能である。本報告は、2002年~2010年に治療した55症例の臨床成績をまとめたものである。55症例のうち、術前に根尖病巣を認めたもの17症例、認めなかったもの38症例であった。結果を表2に示す。5~13年の観察期間で、術前に根尖病巣を認めなかった全症例で失敗は皆無であった。また、根尖病巣を認めた症例でも、歯内療法的失敗などが5症例あったものの、ポスト脱離その他の補綴学的失敗は皆無であった。ポストの脱離などは真坂報告以外では必ず認められ、しかもそれらはすべて術前に根尖病巣を認めない症例でのことである。症例数が少ないとはいえ、成績のよさは際立っているといってよいであろう。
真坂報告の好成績は、MMA-TBB系レジンの利用抜きには考えられない。上市されているi-TFCシステムでは、i-TFCファイバー、i-TFCボンド(接着材)、ポストレジンがセットとなっているが、このシステムでは、メーカーも「根管への接着は信頼性の高い「スーパーボンド」がおすすめです。」としているように、真坂報告のような好成績を望むのは難しいと思われる。その理由は重合開始剤とモノマーの違いにある。スーパーボンドではTBBとMMAであるのに対し、i-TFCボンド/ポストレジンはスルフィン酸とジメタクリレート系モノマーという決定的な違いがある。なお、根管接着性レジンとしてスーパーボンド根充シーラーも上市されているが、それは操作性が劣り、その使用は失敗につながる可能性がある。
根築一回法については5年前の第52回で初めて触れ、「今のところ、理にかなったすぐれた根管充填システムである」、「今後どのような評価を受けるか楽しみである」と記していたが、今回ようやくすばらしい成績を確認することができた。表2の海外の4論文では、様々なジメタクリレート系の根管接着材/レジンが使われているが、海外でもMMA-TBBレジンが使用できれば、ポスト脱離による失敗は大幅に減少するであろう。
4年ほど前の第60回で支台築造を話題とした。そのまとめとして、「支台築造はメタルからファイバーポストを利用したものに移行せざるを得ないであろう」、「ポストの脱離問題は依然として課題として残っており、今後の一層の研究・開発が望まれるが、当面は合着材の適切な選択が重要となろう」などと記したが、i-TFCファイバーとスーパーボンドによる支台築造でほぼ満足できるようになったのではないかと思っている。
(2015年5月17日)
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