第104回:非う蝕性歯頸部欠損の修復

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非う蝕性歯頸部欠損の修復における接着材の臨床効果に関するシステマティックレビューが最近のDental Materials30巻10号(2014)に掲載されている。近年、非う蝕性歯頸部欠損が増加しているようであるが、このレビューはその修復を行う際の参考になると思われ、紹介することにした。本レビューは、非う蝕性歯頸部欠損修復の臨床試験に関する1950~2013年の論文およびIADRのアブストラクトを検索し、その中から二つ以上の接着材について18月以上追跡したランダム化比較臨床試験および比較臨床試験の報告のみを取り上げレビューした。厳しい基準により厳選した結果、論文72、アブストラクト15、合計87報告が対象となった。

接着材は、3ステップ・エッチ&リンス(3E&R)、2ステップ・エッチ&リンス(2E&R)、2ステップ・セルフエッチ(2SE)、1ステップ・セルフエッチ(1SE)、グラスアイオノマー(GI)、セルフアドヒーシブコンポジット(SAC)の6タイプに分類した。セルフエッチタイプはエッチング力のめやすとなる液のpHにより、pH 1.5以上(マイルド、m)(2SEm、1SEm)とpH 1.5以下(ストロング、s)(2SEs、1SEs)に分けた。タイプ別の接着材の報告数は、2E&R 65、1SE 63、3E&R 37、2SE 34、GI 32であり、SACは該当する報告はなかった。追跡期間は、短期18月~3年(78)、中期3~5年(18)、長期5年以上(10)に分けた(カッコ内は報告数)。また、接着材の上市時期は、最初に報告された時期とし、次のように区分した:新製品2000~2013年、中間期製品1994~1999年、旧製品1985~1993年。各数値は次のように算出した。

年あたり脱落率(%)=(脱落率)/(追跡年数)(以後、ここでは脱落率と略記する)

平均値=(各報告の脱落率の合計)/(報告数)

全体のおもな結果を記すと次のようである(表1参照)。脱落率(%)の低いものから順に並べると(カッコ内は標準偏差)、GI 2.0 (1.4)、2SEm 2.5 (1.5)、3E&R 3.1 (2)、1SEm 3.6 (4.3)、1SE 4.4 (4.6)、2SE 4.7 (5.7)、1SEs 5.4 (4.8)、2E&R 5.8 (4.9)、2SEs 8.4 (7.9)。旧製品から新製品になるにつれて脱落率は低下傾向にあり、改良が進んでいるようである。このことはとくに1SEsと2E&Rで顕著である。2ESsの脱落率が突出しているが、それはTyrian SPEプライマー/One-Step Plusボンディング材 (Bisco)のためである。このプライマーには酸性モノマーとして2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が添加され、pH 0.5という強酸性であることも影響していると思われる。同じタイプの接着システムでもGIと2SEmを除き製品間で有意差が認められた。短期、中期、長期の追跡期間をとおして、GI、3E&R、2SEm、2E&Rの平均脱落率は安定していた。1SEm、1SE、2SEは追跡期間が延びると脱落率は低下した。GIは脱落率は低く、標準偏差が小さいことからテクニックセンシティビティが低いと考えられる長所はあるが、中~長期的には、表面のあれ、色安定性や耐摩耗性の低さ、辺縁適合性、辺縁着色などでの問題があると指摘されている。

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表1 接着システムと脱落率まとめ

2SEmでのエナメル質のリン酸エッチングの効果を見ると、脱落率は1.43(1.77)から0.43(0.49)となったが、有意な低下ではなかったとしている。それぞれの接着材でリン酸エッチングの効果がどの程度あるのか興味があり、レビューに記された7報告を検証してみると表2のようになった。レビューには7報告すべて2SEmについてと記載されているが、必ずしもそうではなかった。これを見ると、エッチングは接着材の性能がやや劣る製品では効果があるらしいと思われる。リン酸系モノマーMDP(メタクリロイルオキシデシルリン酸)を使用している4種のクリアフィル系接着材は好成績を示している。それに比し、最近発売されたMDP添加のスコッチボンドユニバーサルの成績は必ずしも良好ではなく、MDPの性能が十分発揮できていないようである。

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表2 エナメル質のリン酸エッチングの効果

個別の接着材について少し記しておく(付表1参照、レビューから報告数5以上のデータを抜粋)。クラレのクリアフィル系ボンディング材は脱落率が2.2~2.6%と低く、標準偏差は小さく(テクニックセンシティビティが低い傾向を示すと考えてよい)全体的に好成績であった。脱落率(%)(標準偏差)[報告数]を示すと次のようである。3E&Rのライナーボンド2.2(0.37)[3]、2SEmのSEボンド2.2(1.2) [12]、ライナーボンドII 2.3(0.07) [2]、プロテクトボンド2.6(1)、ライナーボンド2V 0(1)、1SEmのトライエスボンド2.6(1.3) [7]。このような結果は、接着性モノマーであるMDPの効果と考えられるが、それはMDPは4-MET(4-META)やフェニル-Pにくらべアパタイトへの結合性とその耐水性がすぐれていることと関連している。MDPはGボンド(ジーシー)や最近導入されたスコッチボンドユニバーサル(3M)にも添加されている。3E&RのScotchbond Multi-Purpose (3M)は13報告があり、脱落率3.9%、標準偏差2となり、これらの数値は同種グループのほかの接着システムにくらべ高かった。1SEmグループでは、HEMAを含まず、MDP、4-METを含むG-ボンドが7報告で1.3(0.6)という低い脱落率と標準偏差を示し、その一方、4-METAを含むiBond(Hereaus Kulzer)は5(5.7)の高い脱落率、標準偏差を示した。付表1からみると、接着材性能はメーカー間でかなり差があるように見受けられるが、クラレ、ジーシーの接着材はかなりの優位にあるといえそうである。コンポジットレジンの脱落率について、レビューから報告数5以上のデータを抜粋したものを付表2に示したが、ここでも接着材におけると同様の傾向が認められる。

本レビューの結果を大まかにまとめると次のようである。最も良好な結果はGIとマイルドなタイプのセルフエッチングシステムSEmで得られた。オールインワンタイプのマイルドなセルフエッチング接着材1SEmの接着性は明らかに向上していることが認められ、最近のそれらの製品はこれまで実績が評価されている複数ステップの製品とほぼ同等になっている。3ステップのエッチ&リンス接着システムも依然として好成績を示しているが、2ステップのエッチ&リンスと酸性の強いセルフエッチングの接着システムはそうではなかった。

脱落率のほかに辺縁適合性、辺縁着色、二次う蝕についてもデータベースに記録したが、これらについては今後解析する予定であると記されており、それについては報告され次第また紹介したいと思っている。

終りに3Mの接着材について筆者のコメントを加えておきたい(表3参照)。3MとしてはMDPを添加した初めての接着材・スコッチボンドユニバーサルが最新の接着材であるが、どうもMDPの効果が十分に現われていないようなので気になったのである。3M製品の中ではビトレマーの成績が最もよく、SEは最も劣っている。表3に示した3Mの接着材ではSEを除き、すべてビトレマーの成分であるアクリル酸/イタコン酸共重合体、水、HEMAを共通成分として含んでいる。3Mがこれまでに利用した接着性モノマーはメタクリロイルオキシエチルリン酸(MEP)、メタクリロイルオキシヘキシルリン酸(MHP)、それとMDPである。MEPはSEに、MHPはSEとEasy bondに添加されているが、MEPやMHPにはやや問題があると考えられ、やはりMDPに変えざるを得なかったであろうと思われる。ビトレマーと同等の成績示したのは1XTであるが、それはビトレマー成分以外にエタノール、UDMA、Bis-GMA、グリセロールジメタクリレートを含み、接着性モノマーは含んでいない。3Mの多くの接着材はGI成分を含んでいるのになぜGI並みの成績とならないのだろうか。筆者の推測では、GI成分がレジン系接着材の障害になっており、GI成分がなければ、ユニバーサルもMDPの効果が現われるような気がする。逆にGIはなぜ好成績か、なのであるが、それはフルオロアルミノシリケートガラスから溶出するフッ化物イオンによる再石灰化機能が寄与している可能性を勝手に想像している。こうしたメカニズムはGI以外では機能しない。どうも3Mは、レジン系接着材においてもGI 成分に固執し過ぎているのではないかという気がしてならないのである。 ▼ 表3 (クリックで拡大。ブラウザの「戻る」でこのページに戻ります。) 3Mの接着剤の脱落率比較

▼ 付表1 (クリックで拡大。ブラウザの「戻る」でこのページに戻ります。)

付表1 接着剤の脱落率比較

▼ 付表2 (クリックで拡大。ブラウザの「戻る」でこのページに戻ります。)

付表2 コンポジットレジン脱落率

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