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2014/09/18

第103回:MTAをめぐる動き

1998年に米国で発売されたMTA (Mineral Trioxide Aggregate)は、今でこそ我が国でもかなり知られた存在になっていると思われるが、高価すぎる、使いにくいというのが大方の理解であったであろうと思う。しかし,ここにきてMTAを巡る状況が変わりつつある.MTAは、TorabinejadとWhiteが発明、1993年にLoma Linda大学から出願され、1995年に特許化された。このMTAのことを初めて知ったのは1996年のJADAの論文であったが、MTAの成分・組成などがまったく記載されておらず、釈然としなかった(1993~1995年にMTAに関する論文が多数発表されていたが、同様な状態であった)。その後MTAについてとくに関心は持たなかったが、2006年5月の日本歯科保存学会でのTorabinejad教授の「MTAの臨床応用」という特別講演をきき、初めてどのようなものかを知った。MTAは、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、鉄の酸化物などからできており、水と混ぜると硬化する。特徴として、緊密な封鎖、生体適合性、高pHを挙げ、覆髄、アペキソゲネシス、アペキシフィケーション、根管穿孔、根管充填などへ適用可能ということであった(第5回コラム)。

このようなMTAであるが、1995年の特許に記載されているのは、建物・道路などの建設で使うポルトランドセメントそのもの、1998年に上市されたDentsplyのProRoot MTA Grayは、タイプIポルトランドセメント、酸化ビスマス(造影材)、硫酸カルシウム二水和物から成るものであった。ポルトランドセメントのおよその成分は、トリカルシウムシリケート、ジカルシウムシリケート、トリカルシウムアルミネート、テトラカルシウムアルミノフェライト、酸化マグネシウム、硫酸塩である。Gray MTAは着色、審美性の観点から歓迎されない場合もあり、2002年には着色原因であるテトラカルシウムアルミノフェライトを除いたMTA Whiteも上市された。

MTAの臨床応用が進み、その効果は従来標準的とされてきた水酸化カルシウム系材料と同等以上という評価が得られるようになっている。このような評価となるのはかなりの程度当然である。それというのも、MTAと水の混和物の硬化が進む過程で、MTA中のカルシウムシリケートと水が反応し、水酸化カルシウムを生成するためである。
カルシウムシリケート + 水 → カルシウムシリケート水和物 + 水酸化カルシウム

MTAは一定の評価を受ける一方で、高価すぎるは別として、硬化時間が長い、使いにくい、と指摘されている。そこでこれら問題を何とかすべく、新たな添加物を加えたり、粉を微細化する、などの工夫をした製品が出てきた。例を挙げると次のようなものがある。硫酸カルシウム除去・酸化カルシウム添加(Angelus MTA、ブラジル)、炭酸カルシウム添加(MM-MTA、フランス)、塩化カルシウム・モンモリロナイト添加(Tech BioSeal MTA、イタリー)、非晶質シリカ添加(Retro MTA、韓国;MTA+product、ポーランド)、炭酸カルシウム添加・粉末微細化(MTA Plus、米国)、炭酸カルシウム・塩化カルシウム添加(MTA Caps、フランス)。

MTAは、基本的に、天然の鉱物を原料にして製造されるポルトランドセメントをベースにしており、鉱物に含まれるヒ素、ベリリウム、クロムなどの不純物が微量混入しているとの報告がある。そこで、ポルトランドセメントを用いずに化学的に合成されたカルシウムシリケートを利用した製品がある。それは、本質的には、カルシウムシリケートと水の反応で生成する水酸化カルシウムの効果を期待している。このようなMTA類似製品といえるものが3製品上市されている。

2006年登場したBioAggregate(Innovative BioCeramix、カナダ)は、トリおよびジカルシウムシリケート、酸化タンタル、リン酸二水素カルシウムおよび非晶質シリカを含み、硫酸カルシウムは添加されていない。リン酸カルシウムはカルシウムシリケートの硬化反応で生ずる水酸化カルシウムと反応し、ハイドロキシアパタイトと水ができる。 このようにして生じた水はカルシウムシリケートの水和反応の速さに寄与する。シリカも水酸化カルシウムと反応して硬化時間を短縮する。

2009年に上市されたBiodentine(Septodont、フランス)は、トリカルシウムシリケート、炭酸カルシウム、酸化ジルコニウム(造影材)から成る粉末を、水ではなくポリカルボキシレートを添加した塩化カルシウム水溶液と混ぜて使用する。粉の炭酸カルシウム、液の塩化カルシウムおよび微細な粉末は硬化時間の短縮に、ポリカルボキシレートは適当な稠度を与えて使いやすくするのに寄与している。

2009年に発売されたEndoSequence (Brasseler、米国)は、多くが採用している粉液混和タイプではなく、プリミックスを謳った新タイプのものである。液成分はなく次のような粉のみから成っている。トリおよびジカルシウムシリケート、酸化タンタル・酸化ジルコニウム(造影材)、リン酸二水素カルシウム、増粘剤、水酸化カルシウム(無添加製品もある)。シリンジに充填したペーストあるいはパテとして水を混和することなく使用し、カルシウムシリケートの水和に必要な水は象牙質の水分に依る。この材料では、カルシウムシリケートが水和してその水和物と水酸化カルシウムができるが、その水酸化カルシウムはリン酸二水素カルシウムと反応してハイドロキシアパタイトと水ができ、さらにこの水はまたカルシウムシリケートと反応すると説明されている。粉だけでペーストというのは何となくわかりにくいが、バイオ・セラミック・ナノテクノロジーの集積技術から生まれたという。プリミックスとハイドロキシアパタイトが売りらしいこの材料は、前者については、普通のMTAでの使いにくさを考えると、臨床家にとっては魅力的とも思われるが、必要な水を象牙質からの供給のみに頼るのは問題を含んでいる。硬化時間は2時間以上、完全硬化12時間とされているが、完全硬化に168時間などという報告も見られる。
さらに、材料に1~9%の水を混ぜて硬化時間を調べた報告によれば、水の添加量が増加すると初期硬化時間は延長、最終硬化時間は短縮する傾向にあり、9%添加で初期硬化108時間、最終硬化168時間であったという。うまく使いこなせばよいのかもしれないが、臨床家から今後どのような評価を受けるか注目したい。

MTA系とはやや言い難いが、カルシウムシリケートの水和や水酸化カルシウムの効果を期待したレジン系材料としてTheraCal LC(Bisco、米国)がある。これは、タイプIIIポルトランドセメント、親水性微粉シリカ、バリウムジルコネート(造影材)、ポリエチレングリコールジメタクリレート、Bis-GMA、カンファーキノン、光重合促進剤から成り、光重合により硬化させる。“ケイ酸カルシウムから、カルシウムイオンと水酸化物イオンを放出し、アルカリ環境をつくり、デンティンブリッジの形成を促進する”ということになっているが、これまでのところ、水酸化カルシウムの生成とその溶け出し、カルシウムシリケートの水和、石灰化の促進、細胞毒性、炎症反応などの点で、他のMTAにくらべ劣っているようである。これは、レジン成分を組み合わせた故にやむを得ないことかもしれないと思う。

以上のような改良されたMTAやMTA類似セメントに加え、2013年以後には従来型MTA製品もドイツ、フランス、米国、日本(追記参照)などで新たに上市されている。それはMTAの20年の特許期限が切れたことと関連しているであろう。多様化するMTAであるが、多くのものは臨床評価はあまり進んでいない。しかし、ProRoot MTAとほとんど同様な臨床成績を示すものと推測される。価格、使いやすさ、硬化時間により選別されていくことになろう。MTAについて複数の臨床家のコメントをお聞きすると、MMA-TBB系レジン(スーパーボンド)があるから使う気はしないとのことであった。MTAは象牙質への接着性はなく、封鎖性のことを考えると、このコメントはよく理解できるものであった。

(2014年9月17日)

追記: 現在我が国ではMTA系材料として4製品が販売されている。発売時期と価格は次のようになっている。
・モリムラ:セラカルLC(米国Bisco社製)、2013年、¥15,000/1gx4
・ジーシー:NEX MTAセメント、2013年、¥9,000/0.3gx3(¥21,000/0.3gx10)
・ペントロン:エンドセムMTA(韓国Maruchi社製)、2014年、¥2,100/0.3g(¥8,500/0.3gx5)

MTAに関する単行本がごく最近相次いで刊行されている。
・Josette Camilleri編:Mineral Trioxide Aggregate in Dentistry From Preparation to Application、206頁、2014、Springer
・Mahmoud Torabinejad編:Mineral Trioxide Aggregate: Properties and Clinical Applications 360頁、2014、John Wiley & Sons

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