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2014/08/12

第102回:EPAとDHA神話の行方

血液をサラサラにする、コレステロール・中性脂肪を下げる、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、高血圧、高脂血症などの生活習慣病の予防あるいは改善、脳の活性化、視力の低下予防、抗炎症作用、アレルギーの予防…などと謳った広告があふれ、神話化されているように見えるのが表題のモノであり、総称してオメガ-3脂肪酸(脂肪酸の末端から3番目の炭素に二重結合が付いていることを示す)と呼ばれている。EPA(Eicosapentaenoic acid、エイコサペンタエン酸、5つのシス型二重結合を含む20個の炭素鎖を有するカルボン酸)やDHA(Docosahexaenoic acid、ドコサヘキサエン酸、6つのシス型二重結合を含む22個の炭素鎖を有するカルボン酸)の神話化の始まりは、1972年のグリーンランドのイヌイットの調査であった。その結果、イヌイットの血中の脂質、コレステロール、トリグリセリドが低く、冠動脈心疾患などの循環器系疾患の罹患率が低いということが判明し、それはアザラシ、鯨、魚などをおもに食べているためと考えられた。それら食料にはEPAやDHAが多く含まれており、それらが血中脂質を減らし、冠動脈心疾患などの循環器系疾患を予防している可能性があることが推察され、一躍注目を浴びることとなった。しかし、検証が進むと、どうやらEPA、DHA神話も先行きに陰りが見えつつあるようである。

先ずは、神話はまだ健在を示唆している歯科での論文を紹介する。J Dent Res 2014年8月号に「成人におけるDHAと歯周炎:無作為化比較試験」が掲載されている。DHAは動物では歯周炎を減らすことが知られている。ヒトでは、DHAを含む食品を多く摂取する人は歯周炎が少ないという調査報告、DHAと低用量アスピリンの投与は、脱灰凍結同種骨を用いた再生外科治療、非外科的治療(スケーリングとルートプレーニング)において外科的および非外科的治療のみにくらべ、効果が高まるという報告がある。本研究では、DHAと低用量アスピリンの投与が中等度の歯周炎におよぼす効果を3か月の二重盲検無作為化プラセボ比較試験により検討した。

対照群の28名には950 mgのオイル(50%コーン油/50%大豆油)を含むプラセボカプセル4カプセル、試験群の27名には950 mgのオイル(53.6%DHA)を含むDHAカプセルを4カプセル(合計約2,000 mgのDHA)および両群に81 mgのアスピリンをそれぞれ毎日、3か月間投与した。その後に歯周診査、歯肉溝滲出液・血液・尿を採取・分析、食事の質問等を行った。試験群のポケット深さは対照群にくらべ有意に減少した。平均の歯肉指数は有意に減少したが、プラーク指数、プロービング時の出血は変わらなかった。歯肉の炎症マーカーとして歯肉溝滲出液のC-反応性たんぱく(CRP)、インターロイキン6と1β(IL-6、IL-1β)および全身の炎症マーカーとして血清のCRPを測定した。対照群にくらべ試験群では歯肉溝滲出液のCRPとIL-1βは有意に減少したが、IL-6では有意差はなく、全身のCRPも両群で有意差はなかった。要約すると、2 gのDHAと81 mgのアスピリンを毎日3か月間摂ると、歯周炎、歯肉炎が対照群にくらべ有意に改善された。なお、試験群7名、対照群8名で有害事象が認められたが、重篤なものではなかったとしている。これについての考察はないが、アスピリンの影響が疑われる(筆者、後出のFaizuddin論文参照)。

本研究ではDHAとアスピリンを併用しているが、それはアスピリンが炎症抑制、炎症消散促進作用があるとされるレゾルビンの生成を促進するのを期待してのことである。レゾルビンは人体内でDHAやEPAからアスピリンの存在下でシクロオキシゲナーゼ-2により生成する。両者を併用しない場合の歯周炎への効果も知りたいところであるが、DHA単独投与については今後の検討課題と著者らは述べている。DHAではないが、同類のオメガ-3脂肪酸であるEPAについて2003年のRosensteinらの報告がある。

試験群ではEPAあるいはγリノレン酸(GLA)を含む魚油あるいはボリジオイル、対照群ではオリーブ油/コーン油の500 mgカプセルをそれぞれ1日2カプセルを3回(合計3 g)、12週間投与した。プラーク指数はボリジ油で改善傾向あるも、有意ではなかった。プロービング深さはボリジ油、魚油ともに改善するも、有意差はボリジ油と対照群間でのみ認められた。歯肉溝滲出液のβ-グルコニダーゼ活性から見た歯肉の炎症評価では、ボリジ油のほうが魚油よりも効果があった。こうした結果から、歯肉の炎症の改善、プロービング深さの減少からみてGLA含有のボリジ油は歯周の炎症に好ましい効果があると考えられるとしているが、EPA含有の魚油についてはそうした考察はされていない。

次にアスピリンについては、2012年の Faizuddinらの報告がある。アスピリンを6か月以上75あるいは150 mg投与する試験群と投与しない対照群について歯肉付着ロス、出血指数を調べた。投与量は結果に影響しなかった。付着ロスは対照群にくらべ試験群で有意に減少し、投与期間が延びると付着ロスが減少する関係が認められた。プロービング時の出血指数は対照群にくらべ試験群で有意に増加した。低用量のアスピリン投与は歯肉付着ロスのリスクを軽減できる可能性があるとしている。

こうしてみると、EPAあるいは多分DHAの単独投与では歯周炎への効果はあまり期待できそうもないように思われる。アスピリン併用が必須とすると、プロービング時の出血傾向の増加や有害事象の発生などからすると、アスピリンの副作用が懸念される。

ところで、医科でのオメガ-3脂肪酸の評価はどのようになっているだろうか?最新のデータとして、N Engl J Medの2013年368巻19号にはオメガ-3脂肪酸の効果について否定的な論文が載っている。複数の心臓血管リスク因子あるいは動脈硬化疾患を有して心筋梗塞のない被験者を1日1 gのオメガ-3脂肪酸投与の6,244名の試験群群とオリーブ油投与の6,269名の対照群に分け、860名の開業医のネットワークで平均5年追跡した。その結果、対照群とくらべ、オメガ-3脂肪酸治療群は心臓血管疾患での死亡率、罹患率を低下させることはなかった。

JAMAの2012年308巻10号にはオメガ-3脂肪酸投与と心血管疾患リスクとの関係についてのシスティマティックレビューとそれをさらに統合したメタ分析の論文がある。3,635編の論文から20論文を厳選し(メタ分析)、それに含まれる合計68,680名の患者を対象に、死亡、心臓死、突然死、心筋梗塞、脳卒中の相対リスク(RR、対照群に対して試験群でこれら事象が起きる割合)を計算した。その結果、これら事象におけるRRはそれぞれ、0.96、0.91、0.87、0.89、1.05であり、統計的に有意な関係は認められなかった。こうした結果から、オメガ-3脂肪酸投与はこれら事象のリスクを下げることにはなっておらず、日常の臨床治療でそれを投与することをよしとはしないとしている。論文中には2012年までに報告されているメタ分析の結果であるRRが17件まとめられている。対象者数は年代の経過ととも1995年の59名から2012年の63,279に増加し、RRは1995年の0.30から2006年の0.87、2007年~2012年の0.94~0.96などと推移しており、検証が進むにつれてオメガ-3脂肪酸投与の有効性に疑問のあること示唆している。

1972年に始まったオメガ-3脂肪酸の神話は、もっとも検証が進んだ循環器系疾患でその有効性に疑問符が付けられ、陰りが見えているように思われる。循環器系疾患以外でのオメガ-3脂肪酸の効果の検証は十分進んでいないことを付け加えておこう。

(2014年8月12日)

 

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