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2014/07/22

第101回:深在性う蝕の治療―銅セメントはよみがえるか?

一部歯科医の間でドックベストセメント(Doc’s Best Cement、DBC))が注目を浴びているが、71回Hall法79回深在性う蝕の治療―窩底軟化象牙質をどうするか、をまとめた時に気になっていたのがこのセメントである。かなり時間が経ってしまったが、これがどのようなものか調べてみた。これに関しては学術文献は皆無に近く、インターネット情報を基にするしかなかった。その情報がすべて正しいかは別にしても、このセメントは筆者が思っていた以上のモノらしく、機会があれば、露髄はご免こうむりたいので、筆者の治療でも使ってみてほしいという気になった。

銅含有セメントは19世紀および20世紀初めには広く使われ、セメントは2%~97%の銅を含んでいた。1916年のあるテストによれば、銅97%含有のセメントでは完全な殺菌効果が得られ、銅2~25%では殺菌効果は完全ではないが、効果に大差はなかった。いくつかのセメントには、殺菌力を高める可能性のある銀、鉄などが添加されていた。DBCは基本的にリン酸亜鉛セメントである。通常のリン酸亜鉛セメントでは、粉末成分は主成分の酸化亜鉛(約90%)、それに補助成分としての酸化マグネシウム、酸化ビスマス、シリカなどであり、液は正リン酸の約30~40%水溶液である。さらに反応速度を調節(遅くする)ためのリン酸アルミニウムやリン酸亜鉛が用いられている。リン酸亜鉛セメントは、別種類のセメント類が登場するまでは、我が国でも長年にわたり合着材として広く利用されてきている。しかし、その長期予後のデータは意外と少ないらしいが、2004年のJ Esthet Rest Dent 3号にDonovanらによるデータが載っている。114名の患者の1,314歯にリン酸亜鉛セメントで鋳造金クラウンを合着した結果、全体の生存率95.4%(失敗率4.6%)であり、生存率は9年で97%、19年90.3%、24年94.9%、29年98%、39年96.9%、40年以上で94.1%であったという。これからは、リン酸亜鉛セメントの臨床成績はかなりすぐれているように思われるが、その理由は何であったのだろうか?

リン酸亜鉛セメントの利用は1892年のHarvard cement(酸化亜鉛、酸化マグネシウム含有)に始まり、現在に至るまでの長い歴史があり、一部の熱心な歯科医は現在でも用いている。その後の改変版リン酸亜鉛セメントでは殺菌力付与のため、銅、銀、鉄の化合物も添加された。歯科材料メーカーは“多いほど良い”との考えからセメントの銅濃度を高め、有毒という評判となった。セメントに使う銅の種類が毒性に影響し、溶解性が大きいほど銅イオン放出速度は高まり、毒性が強くなる。酸化第二銅(黒色)は最も溶解しやすく、次いで酸化第一銅(赤色)、ヨウ化第一銅(白色)。97%の酸化第二銅含有のAmesのブラック銅セメントは殺菌力、毒性ともに強いが、2%の酸化第一銅やヨウ化第一銅含有セメントの殺菌力はAmesセメントよりやや落ちる程度でありながら毒性は低い。

1931年Rayは銅含有セメントを使えば完全な窩洞形成は不必要であるとした。1954年にはDumasとBlushは、殺菌性セメントの反対理由と明確な利点を考えると、とくにう蝕象牙質除去が露髄の可能性がある場合、銅含有セメントのさらなる検証と再評価をすべきとしている。こうした一方、印象技術の向上と改良された鋳造技術により無菌域を守る完全な辺縁封鎖ができそうであるという考え方もあった。歯科材料の標準的教科書ともいうべきSkinnerの“The Science of Dental Materials””には次のような記述があるという:“セメントを適用する前に窩洞が適切に殺菌され、また緊密なセメント充填ができれば、殺菌性セメントが必要な理由がわからない”(このような記述があるのかどうか、残念ながら筆者は確認していない)。このような考え方(神話)の影響や97%銅含有のAmesブラック銅セメントの毒性に対する評判から、多くの歯科医からは銅セメントは見捨てられることとなった。しかし、現在の歯科医でも赤色の銅セメントで合着された、なぜか二次う蝕のない古い適合のよくない金クラウンを見つけることがあろうし、6歳の少女の臼歯に金クラウンをレッド銅セメントで合着したところ、1967年に102歳で亡くなるまでそのまま残っていたという話もある。

以下は、電気的活性化銅セメント(cement with galvanic activated copper)を謳ったメーカーCopalite社(http://www.copalite.com)の資料からの抜粋である。DBCは活性化の原理によりバイオフィルムに効果的な低濃度の銅イオンを放出するように設計されている。銅をイオン的に活性化して抗バイオフィルム性を高めるため、酸化銀あるいは酸化鉄および酸化ビスマスも添加されている。DBCの使用により、分散状態の細菌は破壊され、バイオフィルムも消失することが臨床的研究から示唆されている。銅、鉄、マグネシウム、亜鉛は、生体組織の健康を促進、炎症を抑制、免疫応答を高める。DBCにはレッドとホワイトの銅セメントおよび根管シーラーの4種類があり、合着、裏層、間接覆髄、長期の暫間充填、歯内ポストの合着に使用できる。ホワイトセメントは、前歯の修復物、5級の前歯病変へ使用推奨、べニアには推奨しない。ポーセレンのインレー、アンレーに使用できる。レッドセメントは、臼歯のコンポジット、セラミック、金修復物へ使用推奨。殺菌性裏層には粉末をCopaliteバーニッシュと混ぜたものをう蝕の上に塗布してから合着セメント混合物をのせ、うすいピンクになるまで乾燥。その後適当なコンポジットで修復する。

深在性う蝕の治療については、間接覆髄治療として次のような手順が示されている。まず窩壁をきれいにし、窩底には露髄を避けるため2 mmのう蝕象牙質を残す。次いでCopaliteバーニッシュ4~8滴と銅セメント粉末1/4さじの混合物を5回塗布してから、ホワイトあるいはレッド銅セメントで裏層する。セメントは5分で硬化する。エナメル質をエッチング、水洗後、ボンディング材を塗布し、コンポジット、グラスアイオノマー、金、ポーセレン、アマルガムなどでの修復を施す。なお、ここでのバーニッシュはセメントの酸による刺激から歯髄を保護するため使われている。これは植物の樹液から抽出した天然レジンのエーテル溶液であり、1929年以来使用されているものである。

DBCでは銅および銀は単独ではバイオフィルムを破壊・殺菌できないが、両者が共存するとそれらイオンが活性化されてそれが可能になるという説明がされているが、この説明に筆者は何となく胡散臭さを感じている。細菌に対する最小殺菌濃度(MBC)および最小阻止濃度(MIC)からみた二価の銅および亜鉛イオン、一価の銀イオンの殺菌力および静菌力の比較データに次のよう例がある。銅イオンを基準すると、殺菌力は大腸菌に対し銀83万倍、亜鉛500倍、黄色ブドウ球菌には銀6万倍、亜鉛8倍。静菌力は大腸菌に対し銀39倍、亜鉛3倍、黄色ブドウ球菌には銀39倍、亜鉛5倍。こうしてみると、静菌力では3種イオンであまり大差はないが、殺菌力では銀が圧倒的に強く、亜鉛でも銅よりは強い傾向となっている。このようなデータを見ると、銀イオンの寄与が大きいのではないだろうかと思う。

歴史的に新しいレジン系セメントは基本的に殺菌性に乏しく、その長期成績がリン酸亜鉛セメントと比肩できるようになるだろうか?という気がしてきた。アマルガム、金パラなども銀や銅を含んでおり、それら合金からは微量のそれらイオンが放出されていると思われ、多少なりとも殺菌効果を有しているものと考えられる。それにくらべ、レジン系セメントやコンポジットレジンにはそうした機能は期待しにくい。バイオフィルムが付着しやすいレジン系材料にも殺菌作用あるいはバイオフィルム形成抑制作用を付与することが考えられてもよいであろう。

 (2014年7月18日)

 

 

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