第10回:歯のホワイトニング

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歯のホワイトニングは、社会的にも関心を集めるようになり、徐々に普及しつつある。そのホワイトニングの主流となっているのは、過酸化水素を利用する漂白法(ブリーチング)である。歯質を削除することなく、安全、簡便、迅速に“歯を白くできる”とされているが、臨床応用がずっと先行し、漂白のメカニズムや処置後の歯の変化に関する詳細な研究はかなり遅れているように思われ、筆者は漂白法に若干疑問を抱いている。 漂白により歯が白くなるのは、「過酸化水素により、歯の着色物が酸化されて脱色される化学的な漂白効果と、エナメル質表面が脱灰されて微細な凹凸ができ、それによって起る光の乱反射により下層の着色が見えにくくなる物理的な効果(いわゆるマスキング効果)による」とだいたい説明されている。この漂白およびホワイトニングについて筆者の考えていることを以下に述べたい。 表面が白くなるのは、過酸化水素による漂白効果もさることながら、表面エッチングの効果、すなわち、着色した表層が剥ぎ取られることと粗造化の影響がかなり大きいように思われる。しかし、そのような表面の変化だけで色調が大幅に改善されるとも思われず、後述するような漂白剤によるエナメル質内部の変質が色調に影響すると考えられる。象牙質については、象牙質に到達する漂白剤の濃度は低いと推定され、象牙質の変化、脱色は起りにくく、その影響は少ないであろう。なお、表面の粗造化およびエナメル質内部の変質により白くなったとしても、再石灰化で表面が平滑になるとマスキング効果は失われ、またエナメル質内部で再石灰化などが起きると見かけの白さは低下し、後戻りすることになる。 漂白の問題点の一つに知覚過敏がある。その発生のメカニズムははっきりしていないようであるが、過酸化水素によりエナメル小柱間質に含まれるエナメルたんぱく質が変化し、歯の表面と歯髄の間に刺激を伝える通路ができるためではないかと想像している。過酸化水素は、意外と速くエナメル質を透過して象牙質、歯髄に達するとされているが、そのおもな経路は小柱間質であろう。その透過過程で小柱間質に着色物があれば一部脱色するとともに、たんぱく質を変化あるいは分解させ、また無機質の一部も脱灰する可能性がある。このような過酸化水素の作用により、小柱間質が変質して通路ができ、それが知覚過敏につながると考えられる。 さらに、小柱間質の変質により間質の屈折率あるいは光の散乱性が変化し、それが歯を白く見せることに役立つと考えられる。これは、エナメル小柱とエナメル小柱間質の屈折率の差が歯の白さと関係しているという報告を参考にしての推測である。すなわち、その屈折率差がほとんどないと黄ばんだ象牙質の色が透けて見えやすいのに対し、小柱間質の屈折率が低いと光が散乱し、象牙質の色は見えにくくなって白く見えるというのである。 エナメル質に含まれるたんぱく質は、エナメル質形成期に構造形成を助けるのが一つの機能とされているが、完成したエナメル質における役割は明確にはされていない。エナメル質に1〜2%含まれる有機質が歯やエナメル質にとって全く無用な成分であるとは考えにくく、何らかの機能を果たしているはずである。したがって、有機質もできる限り保存すべきであり、それを変質するような漂白法は歯にやさしいとは思えないのである。 筆者が漂白法より歯にやさしいと考えているのは、歯に白いレジン材料をコーティングすることにより色調を改善する、いわゆる歯のマニキュアである。歯のマニキュアは、セルフエッチングプライマーで処理した後、白いレジンペーストを塗布して光重合、あるいはさらに表面コート材を塗布して光重合するシステムである。1回の治療で簡単に色調を改善できるこの方法は、歯に対する侵襲は少なく、また知覚過敏を防ぐことはあっても、起こすことはほとんど考えられない。 歯のマニキュアは始まったばかりであり、残念ながらまだ満足しうる水準には達していない。マニキュア材の改良、とくに耐久性を向上させる必要がある。漂白法では1年に1〜2回程度の追加ホワイトニングが勧められていることを考慮すると、半年から1年以上効果を維持できるような材料が望まれる。レジン表面を確実に硬化させ、耐摩耗性のある表面を形成して、コーティング材がはげ落ちることなく、また着色や変色することなく色調を維持できる材料が必要である。歯のマニキュアは我が国が得意とする歯の接着技術がベースとなっており、さらに改良されたマニキュア材が開発されることを期待している。
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