▶新規会員登録

記事

2013/10/24

第7回:HEMAのはなし

表題のHEMAはhydroxyethyl methacrylate(ヒドロキシエチルメタクリレート)の略。関係者の間では、エイチ・イー・エム・エイではなく、日本で「ヘマ」、外国で「ヒーマ」ということで大体通用する略語である。ヘマは、ソフトコンタクトレンズ、歯の象牙質の接着においてなくてはならない物質、モノマーである。

ヘマは、チェコの化学者により60年以上前に合成され、50年前頃からコンタクトレンズへの応用が始まった。それから現在に至るまで、角膜とのなじみのよい水分を含むソフトコンタクトレンズの重要な原料となっている。一方歯科では、第1回コラムで記した増原先生グループが歯質の接着に関する研究の中で、1968年にヘマの優れた接着性を見いだし報告した。その10年後に発売されたリン酸エステル系モノマーを含む歯質の接着剤にヘマも配合された。その流れは現在に至るも続いており、ヘマはプライマー、ボンディング剤の重要な成分となっている。

各社の歯質接着システムには、4-META、MDP、MAC-10などのような、水に溶けにくい接着性モノマーが含まれている。これらは、水分の少ないエナメル質でアパタイトと反応するが、水分・有機質が多くアパタイトは少ない象牙質には取り込まれにくい。したがって、これら接着性モノマーだけでは象牙質においては強い接着は得られない。そのため、ほとんどの場合、ヘマがかなり多量併用されている。

ヘマは水に溶けやすい一方で、水に溶けにくい物質、モノマーも溶かすことができる。この特性により、ヘマは、水分の多い象牙質に侵入するとともに、接着性モノマー、ボンディング剤やコンポジットレジンのモノマーなど、水に溶けにくいモノマーを象牙質に取り込むことができ、象牙質の接着において大きな力を発揮する。接着性モノマーはエナメル質に有効、象牙質にはあまり役立たず、逆に、ヘマは象牙質に有効、エナメル質にはほとんど無効という関係にある。両者相まって歯質の接着が達成されているといえる。

ヘマは便利で有用な象牙質接着用モノマーであるが、多少留意しておいた方がよいことがある。象牙質表面近くにヘマが多すぎると、ヘマを含んで固まった部分の強度が低下するので、適量である必要がある。プライマーやボンディング剤には、水、エタノール、アセトンなどを含んでいる場合が多いが、それらをエアブローでよく飛ばした後、適量のヘマを残すようにすることが大切である。また、酸性の接着性モノマーとヘマを含むプライマー等では、保管条件によってはヘマが分解してその含有量が低下し、象牙質接着強さが低下するという最近の報告もある。このことは、象牙質においては接着性モノマーよりもヘマの重要性を示唆しているともいえる。

ヘマは、象牙質接着用モノマーとしてだけでなく、水となじみ水があっても硬化する性質があるため、レジン強化型グラスアイオノマーセメントの重要成分として利用されている。さらに、象牙質知覚過敏処置材としてグルタルアルデヒドとの混合水溶液(グルーマ)がある。ただしこの場合、グルタルアルデヒドが有効成分であり、ヘマは本質的に重要な役割を果たしているとはいえない。グルーマは、以前海外では象牙質接着用プライマーとして本来使用されていたものである。このプライマーでは、ヘマが最も重要な役割を担っているが、グルタルアルデヒドも殺菌や象牙質コラーゲンの強化に有効である。グルーマは、現在ではプライマーとしての利用は制限されているようであるが、象牙質に対するプライマーとして今でも最も優れていると思っている。

ヘマは、ほとんど無臭、低揮発性、低価格、重合性(硬化性)良好、比較的低毒性という特長がある。これがなかったら、ソフトコンタクトレンズや象牙質の接着はどうなっていたであろうか?という気がする。

 

記事一覧
プロフィール 第122回:清涼飲料の酸蝕性と酸蝕症(2016/08/01)第121回:セラミックインレー/アンレーの寿命(2016/07/12)第120回:最近のう蝕治療の考え方(2016/06/03)第119回:患者の望む歯科医療(2016/05/10)第118回:根管治療に関する記事へのコメント(2016/03/31)第117回:レジン修復と二次う蝕(2016/03/01)第116回:歯科インプラントは万能かそれとも歯の保存に努力すべきか(2016/02/01)第115回:ハイブリッドレジン、ジルコニアの接着(2015/12/16)第114回:ハイブリッドレジン製CAD/CAM冠の脱離(2015/11/10)第113回:歯周病にまつわる最近の論文から(2015/10/08)第112回:光線力学的治療(Photodynamic therapy, PDT)の医療における利用(2015/09/01)第111回:慢性歯周炎治療におけるスケーリング・ルートプレーニングと補助療法の効果(2015/08/03)第110回:破折歯の診断と処置(2015/06/29)第109回:グラスファイバーポストを利用した支台築造(2015/05/18)第108回:バルクフィルレジンについて考える(2015/04/07)第107回:う蝕乳臼歯の治療の見直し(2015/03/03)第106回:臼歯のコンポジットレジン修復物の寿命(2015/01/19)第105回:CAD/CAMの保険導入と今後(2014/12/02)第104回:非う蝕性歯頸部欠損の修復(2014/10/27)第103回:MTAをめぐる動き(2014/09/18)第102回:EPAとDHA神話の行方(2014/08/12)第101回:深在性う蝕の治療―銅セメントはよみがえるか?(2014/07/22)第100回:歯科における接着―その源流(2014/06/11)第99回:インプラントの不具合と医療機関の対応(2014/05/02)第98回:歯科のかかわりが疑われる医原性疾患(2014/04/09)第97回:ノンクラスプデンチャーについて考える(2014/03/07)第96回:知覚過敏抑制材料(2014/02/10)第95回:根管治療の新しい試み(2014/01/06)第94回:根尖性歯周炎の全身への影響と治療(2013/12/03)第93回:歯の保存かインプラントか(2013/11/14)第92回:歯耗(Tooth Wear)の発生状況とそのリスク因子(2013/10/24)第91回:予防指向の歯科医療(2013/10/24)第90回:初期う蝕の革命的処置法(2013/10/24)第89回:う蝕治療の再考を!(2013/10/24)第88回:国民の医療・保健への歯科界の貢献に期待する(2013/10/24)第87回:修復物のリペア(2013/10/24)第86回:英国版歯科疾患実態調査と歯周診査のありかた(2013/10/24)第85回:早急に"代用合金"から脱皮を!(2013/10/24)第84回:根管治療歯は時限爆弾?(2013/10/24)第83回:歯質接着システムは進化している?(2013/10/24)第82回:生活歯髄治療の成績(2013/10/24)第81回:薬事工業生産動態調査から見た歯科材料の動き(2013/10/24)第80回:平成23年歯科疾患実態調査について(2013/10/24)第79回:深在性う蝕の治療―窩底軟化象牙質をどうするか(2013/10/24)第78回:根管治療成績について考える(2013/10/24)第77回:歯みがき後のうがい ―フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果を高めるには―(2013/10/24)第76回:成人のう蝕予防(2013/10/24)第75回:メタルボンドか、オールセラミッククラウンか(2013/10/24)第74回:糖尿病対策と歯科への期待(2013/10/24)第73回:インプラント義歯の保険導入(2013/10/24)第72回:不況は米国の歯科界にどのような影響を及ぼしているか(2013/10/24)第71回:う蝕乳臼歯処置の新たな選択肢(2013/10/24)第70回:根管治療の見直しと新しい試みを!(2013/10/24)第69回:垂直歯根破折の処置(2013/10/24)第68回:コンポジットレジンのリペア(2013/10/24)第67回:Siloraneモノマーをベースとする画期的コンポジットレジン(2013/10/24)第66回:歯科金属アレルギーと慢性疲労症候群(2013/10/24)第65回:根管の化学的清掃(2013/10/24)第64回:インプラントをめぐるせめぎあい(2013/10/24)第63回:メタボリックシンドロームと歯周病(2013/10/24)第62回:東日本大震災によせて(2013/10/24)第61回:象牙質知覚過敏の治療(2013/10/24)第60回:支台築造をめぐって(2013/10/24)第59回:短縮歯列(2013/10/24)第58回:インプラント歯科の教育をどうするか(2013/10/24)第57回:くさび状欠損の原因は歯のくいしばり?(2013/10/24)第56回:英国における最近の欠損補綴治療(2013/10/24)第55回:う蝕治療にどう対応するか?(2013/10/24)第54回:根管充填をめぐる話―日本歯内療法学会から(2013/10/24)第53回:う蝕が減るとどうなる?(2013/10/24)第52回:接着性レジンシーラーの前途はどうなる?(2013/10/24)第51回:ビスフェノールA(BPA)をめぐる最近の動き(2013/10/24)第50回:総義歯の将来(2013/10/24)第49回:インプラントブームについて考える(2013/10/24)第48回:ミニマルインターベンションに基づく修復(2013/10/24)第47回:金パラ(2013/10/24)第46回:東京デンタルショー2009(2013/10/24)第45回:歯と全身の病気の関係(2013/10/24)第44回:増原英一先生のご逝去を悼んで(2013/10/24)第43回:歯耗 -Tooth Wearー(2013/10/24)第42回:ジルコニアはフッ酸でエッチングできる?(2013/10/24)第41回:ポリフェノールと歯科における効用(2013/10/24)第40回:修復物からのフッ素放出の効果(2013/10/24)第39回:インパクトファクター(2013/10/24)第38回:英国の歯科治療(2013/10/24)第37回:ホルムクレゾールをめぐる論争(2013/10/24)第36回:ファイバーポストについて(2013/10/24)第35回:セルフエッチングシステムについて考える(2013/10/24)第34回:日本デンタルショー2008から(2013/10/24)第33回:義歯と義歯安定剤(2013/10/24)第32回:歯頸部欠損の修復(2013/10/24)第31回:セルフアドヒーシブ・ルーティングセメント(2013/10/24)第30回:接着ブリッジ(2013/10/24)第29回:日本歯科保存学会春季学術大会講演抄録集を見て(2013/10/24)第28回:日本歯科理工学会学術講演会から(2013/10/24)第27回:根管治療結果の大規模調査(2013/10/24)第26回:光重合について考える(2013/10/24)第24回:アマルガムは何で代替されたか(2013/10/24)第23回:歯科におけるミニマル・インターベンション(2013/10/24)第22回:日本歯科保存学会講演抄録集を見て(2013/10/24)第21回:アマルガムはどうなっているか(2013/10/24)第20回:歯を失う原因(2013/10/24)第19回:5月の学会学術講演会の講演集から(2013/10/24)第18回:レジンの硬化や接着に好ましくない影響を及ぼすもの(2013/10/24)第17回:日本歯科保存学会に出席して(2013/10/24)第16回:むし歯予防週間によせて(2013/10/24)第15回:水酸化カルシウムとFC(続)(2013/10/24)第14回:水酸化カルシウムとFC(2013/10/24)第13回「納豆でダイエット」と食育(2013/10/24)第12回:デュアルキュア(2013/10/24)第11回:改正薬事法と歯科器材(2013/10/24)第10回:歯のホワイトニング(2013/10/24)第9回:最近のコンポジットレジン(2013/10/24)第8回:ファイバーポスト(2013/10/24)第7回:HEMAのはなし(2013/10/24)第6回:根管治療かインプラントか(2013/10/24)第4回:金属アレルギーと歯科治療(2013/10/24)第3回:接着歯内療法(2013/10/24)第2回:合着と接着(2013/10/24)第1回:歯科における接着の話(2013/10/24)

新着ピックアップ


第112回歯科医師国家試験の総評と今後の展望

難易度高過ぎ!?現役歯科医師らが歯科医師国家試験に物申す

医療広告ガイドライン対策