第46回 リバスキュラリゼーションを再考する

カテゴリー
記事提供

© Dentwave.com

夏はAll Dentalの季節です。学生時代アーチェリー部に所属していたこともあり、現在、愛学のアーチェリー部のコーチをしています。今年も8月5日に新人戦、6-7日に団体戦と個人戦が静岡県掛川の「つま恋」で行われました。このコラムを読まれている方でどれぐらいの方が学生時代、アーチェリー部に所属されていましたでしょうかね。 愛知学院大学歯学部の成績は、新人戦で男子が2位、団体戦では男子3位、女子2位、個人戦で男子4位、女子2位という好成績となりました。暑い夏の行事が一つおわりました。しかし、残念な話として、デンタルでこれまでお世話になっていた「つま恋」の営業が中止されるというニュースが入ってきました。学生の頃からお世話になっていただけに、残念でなりません。

今回のコラムは、下野先生の講演会の後半に話されました「再生歯内療法」についてです。下野先生は冒頭で、2011年から2015年にJournal of Endodonticsに掲載された1654編の論文中Citationのtop20の約半数は再生歯内療法に関する論文であったことを述べて、現在、歯内治療学における再生歯内療法への興味が高いことを示しました。リバスキュラリゼーション(revascularization)の定義は「根未完成歯で、歯髄が失活している(歯髄壊死)場合に、抗菌剤による滅菌と意図的出血で根尖に硬組織を形成させる方法」だそうです。 下野先生がこれまでのリバスキュラリゼーションに関する論文からリバスキュラリゼーション後のレントゲン写真の提示がありました。そのレントゲン写真を見せていただくと、歯根象牙質の長さも厚みも増加していました。次に、イヌの根未完成歯の小臼歯を感染させて、リバスキュラリゼーション後に組織標本にて観察すると、レントゲン写真で見たように、歯根の長さと厚さは増加していましたが、その増加の要因はセメント質だったようです。つまり、セメント質が象牙質上に再生されて、歯根の歯根長と歯根象牙質の厚みを増したように見えていたことになります。 他の報告では、根管内に骨組織や歯根膜組織も観察されたようです。しかし、一つとして、歯髄組織の再生が観察されたという報告はなかったようです。これらの現象は、病理学的には、「再生」とは言わずに「治癒」とよびます。結論として、リバスキュラリゼーション法では、「歯根内に象牙質は再生されないがセメント質の形成は観察される」ことになります。では、どうして、象牙質が再生されずに、セメント質が再生したのでしょうか。その原因について、これから考えていきたいと思います。そこで、リバスキュラリゼーション法の定義から結論までを組織・細胞学から紐解いていきましょう。

1.歯髄が失活している根未完成歯とは、どんな状態か?
歯髄組織が死滅しているものの、上皮のヘルトヴィッヒの上皮鞘とその周囲の歯小嚢は残存している状況です。図1の正常組織像で、ヘルトヴィッヒの上皮鞘とその周囲の歯小嚢の位置を確認しましょう。歯髄組織中の象牙芽細胞が象牙質を形成し、線維芽細胞が歯髄組織を形成します。これらの象牙芽細胞と線維芽細胞は歯髄組織中の間葉系幹細胞から分化します。したがって、象牙芽細胞や線維芽細胞を作り出す細胞がいない状況です。図3に、間葉系幹細胞と象牙芽細胞と線維芽細胞を追加しました。
1011_image01
2.歯根の形成機序とは?
歯冠が完成した後に、歯根の形成が始まります。歯根の象牙質は、歯髄に要る象牙芽細胞とヘルトヴィッヒ上皮鞘との相互作用によって歯根象牙質が形成されます。象牙質の表層にセメント質が形成されますが、その機序は、歯根象牙質が形成されるとヘルトヴィッヒ上皮鞘は歯根象牙質の表面から剥離・断裂します。その断裂した部分を通って歯小嚢にいる間葉系幹細胞が露出した象牙質へ遊走します。間葉系幹細胞が、歯根象牙質上にてセメント芽細胞に分化して、象牙質上にセメント基質を分泌し、セメント質が形成されます。これが、歯根形成の機序です。
1011_image03
3.意図的出血で起きることとは?
意図的出血の操作は、歯根尖を貫通させることで出血させることと考えますが、出血させることで、根幹内に血液が流入します。この血液の中には、間葉系幹細胞が含まれていることが知られています。下野先生の講演では、周囲にいる歯小嚢の間葉系幹細胞が根幹内に流入してくるという説明もありました。つまり、どちらにしても、歯髄がすでに失われているので、象牙芽細胞に分化できる歯髄の幹細胞はいないので、象牙質はできにくいということになります。しかしながら、動物実験では、歯小嚢の細胞が象牙芽細胞に分化する報告も散見されるので、環境が整えば、象牙質の形成も可能になるかもしれません。 最後に、リバスキュラリゼーションで再生された組織が歯髄と象牙質でないことから、長期的に予後に不安が残ります。なぜなら、歯根がすべてセメント質で形成され、根管内にもセメント質が形成されると周囲の歯槽骨と骨製癒着する可能性があるからです。 今後は長期的な予後の観察とリバスキュラリゼーション法で歯髄と象牙質を再生させる環境をどのように整えるかが課題となるでしょう。
記事提供

© Dentwave.com

新着ピックアップ