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2016/06/02

第43回 イモリの再生 ―第一話 肢の再生メカニズムについて―

愛知学院大学歯学部では,歯学会のご支援により,年に一度,各学年の講義として,外来講師をお呼びでして講演をしていただく「学生のための講演会」の企画があります。今年は,筑波大学生命環境系脳神経情報学分野・再生生理学研究室准教授の千葉親文先生にお越しいただき,「イモリが再生できる理由・人が再生できなくなった理由」という内容で講演をしていただきましたので,イモリ(有尾両生類イモリ科Salamandridaeの一群)の最先端研究のお話を2話に分けて,イモリの肢が切断された後の再生方法についてと網膜の再生の話をさせていただきます。今回は,イモリの肢の再生のお話となります。

みなさんは,イモリの肢を切っても再生することを知っていますよね。面白いことに同じ両生類のカエルは幼生期(オタマジャクシ)は四肢を再生できるようなのですが,変態すると再生できなくなるようです。もちろん,ヒトの手も切断されても,再生できないですよね。多細胞生物の中で,もっとも高い再生能力を持つものは,たったひとつの細胞から全身をつくりだすことがでる植物でしょう。その次に考えられるものとして,プラナリアがあります。プラナリアは体を二つに切ってもそれぞれから個体が再生できます。このプラナリアの再生能力とイモリの再生能力は異なるようですが,イモリは,歳をとっても,変態しても,再生できる力を持っています。したがって,ヒトとイモリの再生メカニズム違いが明らかになれば,ヒトの手を再生させるきっかけを見つけることができるのでは,と考えて千葉先生は研究をされています。

アカハライモリは2006年に環境省によって,準絶滅危惧種のカテゴリーになっています。講義の初めに,「この中でイモリを見たことがある人?」と尋ねると7名ぐらいの学生が手を挙げましたが多くは,ペットショップで見たことがあるようです。

18世紀のイタリアの博物学者Lazzaro Spallanzani(実験動物学の祖)はイモリの肢が切断されるとのその切断端に再生芽と呼ばれる「未分化な細胞が集合したこぶ状の構造体」ができて,そこから新しい肢が再生することを見出し1769年に報告しました。しかし、「どうしてイモリだけがこのような再生能力をもつのか?」という問いには,誰も答えることができていませんでした。そして,ついに千葉先生のグループがその再生能力の謎に答えることができる研究成果を今年になってNature Communicationsに発表されました。では,その能力とはなんでしょうか?変態後のイモリが再生能力を持った理由として,二つのことが考えられます。
ひとつは,両生類が一般にもつ幼生期の再生能力を変態後まで延長させることができるようになったことです。ふたつ目は,変態後のイモリが独自に新規な再生能力を獲得したという考え方です。実際に,肢の再生過程における衛星細胞(筋組織を作り出す筋芽細胞の前駆細胞)の挙動を調べてみると筋線維および筋線維由来細胞を追跡した結果、幼生イモリでは切断された肢を再生するために筋線維を必要せずに,筋前駆細胞(衛星細胞)によって再生肢中の新しい筋線維がつくられることが分かりました。さらに,肢再生の後期では線維芽細胞と思われる細胞も筋線維の再生に関わることが分かりました。

イモリ 肢再生のメカニズム

一方で,変態後のイモリは肢の切断端に存在する筋線維が断片化し、単核化した細胞が再生芽中に集合して、それらの細胞から再生肢中の筋線維がつくられることが分かりました。一方、筋幹細胞 /筋前駆細胞(衛星細胞)は全く筋線維の再生に関係ないことも分かりました。これらをまとめるとイモリが変態して成長するのに伴い、肢再生の細胞メカニズムが「内在性の前駆細胞による再生メカニズム」から「体細胞(成熟した細胞)の脱分化のメカニズムを利用した再生メカニズム」に変化したことになります。言い換えると,幼生イモリの肢の筋の再生では、筋に内在する衛生細胞筋が新たな筋線維をつくりますが、変態したイモリでは、これらの細胞は関与せず、切断部の分化した多核の細胞が、脱分化して単核の細胞(筋線維由来の再生芽細胞)となり、新たな筋線維をつくるようです。つまり,イモリは変態後に新たな能力を持ったことになります(図1)。しかし,どのようにしてこの脱分化する能力を持ったのかは未知なのですが,成熟した細胞を再生のために脱分化させる能力は、加齢に伴って幹細胞/前駆細胞の数や機能が低下する動物にとって有利な機能と言えます。ヒトにも欲しい機能ですよね。

千葉先生は,一般に,両生類の幼生期では,肢を完全に再生することができますので,両生類がもつ幼生期の肢再生メカニズムは、両生類の共通祖先において獲得されたものであるという仮説を立てています。一方で,イモリは、他の両生類とは違い変態後は筋線維を脱分化させる能力を獲得したことで肢を完璧に再生できるようになりましたので,この能力はイモリ固有の再生能力として進化したと解釈されています。この千葉先生の仮説が、250年近く明らかにされてこなかったSpallanzaniの問いへの答えになることでしょう。

図1.イモリは変態して成長すると、肢再生のメカニズムを、幹細胞システム(前駆細胞から分化する)から、分化した細胞を利用する脱分化システム(成熟細胞を脱分化)に切り替える。再生肢中の筋線維に着目すると、幼生期には衛星細胞のような筋に内在する幹細胞/前駆細胞を用いて新たな筋線維をつくりだすが、変態後は、分化した筋線維(収縮する多核の骨格筋細胞)を単核の細胞に脱分化し、これを材料にして新たな筋線維がつくられる。(筑波大学のプレスリリースより引用)

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