安定した義歯の咬合採得を行うには

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義歯の咬合採得を効率よく行う
今月は、義歯の咬合採得について考えみたいと思います。義歯の咬合採得では、一般的には仮床の上に蠟堤を製作します。蠟堤を垂直的、水平的に咬合を試行錯誤しながら決定することとなります。この蠟堤の調整をする際には、熱したワックススパチュラを用いて行います。この調整時にジュっと蠟が溶けて煙が上がることを経験された先生も多いことと思います。診療室内に蠟の溶けて焼けた異臭は、患者さんへ不快感を与えることは間違いありません。診療室での異臭と共に、煙を上げて溶ける際に蠟の組成が大きく変わり、硬化時に大きく収縮します。蠟の組成をできるだけ変えないように、蠟の融点に近い温度で作業することが、蠟堤の収縮を少なくするポイントとなります。
蠟の温度管理の重要性
当院では、『なんちゃん2』((株)モリタ)を使用することで、蠟堤の調整時間を短縮しています。『なんちゃん2』の良いところは、火炎とワックススパチュラでの調整と違い、電熱線とサーモスタットによる温度調整により、一定の温度管理が可能となります。また、咬合採得の予約が入った際には、先に『なんちゃん2』の電源を入れて温度が一定になった後に患者さんをユニットへ導入すれば、大きく時間短縮になります。また、咬合採得後の人工歯配列の際にも焦げて収縮した蠟を交換する必要がなくなるので、この技工サイドでも時間短縮となります。咬合を挙上する場合や蠟を添加する際には、同じく火炎を用いず、湯煎によって蠟の軟化を行います。火炎を用いると、保持している側の蠟の軟化が不足し、不均一になるからです。湯煎により軟化を一定にすることが、蠟を添加する際のポイントとなります。湯煎も電気ポットのお湯でなく、温度管理のできる理化学実験用のウォーターバスを使用します。
  • アルクスフェイスボウ
    『なんちゃん2 DT-200』(株)モリタ
  • アルクスフェイスボウ
    『なんちゃん2』で蠟堤を軟化。煙も出ず、診療室内へ異臭もない。
  • アルクスフェイスボウ
    『なんちゃん2』で軟化した蠟堤。全体が均一に軟化されている。
  • アルクスフェイスボウ
    『なんちゃん2』による部分床義歯での調整の様子。電熱部分のエッジを使用すると簡単に調整できる。
『なんちゃん2』のメリット
歯科医師が採得した蠟堤のワックスのほとんどの症例で、歯科技工士により新しいワックスに交換されていることを先生はご存知ですか?これは、咬合採得時のワックスの扱いが大変粗雑なために、人工歯配列の際の収縮による誤差が大きいからです。温度を一定にすることにより、蠟を軟化し過ぎることもなく、煙もでません。10秒程度の短時間で均一な軟化状態が得られことにより、安定した咬合採得を行うことができます。また、ハニカム構造のため、任意の深さまで均一に軟化することができるので対顎歯がある場合にも簡単に調整することができます。この時には、電熱部のエッジ部分を利用すると簡単に調整することができます。
保険診療では、咬合床は、材料費用を含めた点数になっています。オストロンといったレジン材料費を削減して、ワックスのみで蠟堤を製作される先生もいらっしゃいますが、作業時の変形や、咬合採得時の咬合による変形を考えると結局時間がかかってしまいます。変形により口腔内での再現性も低くなり、試適時にまた、咬合採得に戻るという苦い経験のある先生も多いと思います。 結局のところ温度管理を徹底的にしても口腔内での再現ができなければ、またもとのステップに戻るというのが義歯の難しさです。
内田昌德

プロフィール

内田 昌德(うちだ よしのり)
医療法人鶴翔会 内田歯科医院
長崎大学大学院歯学研究科(口腔生理学専攻)卒業
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