中外製薬 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)のマネジメント「予防法編」

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ビスホスホネート(BP)製剤、抗RANKL抗体製剤などの骨吸収抑制薬による重大な副作用の一つとして、顎骨壊死が知られており、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ:Anti-resorptive agents-related ONJ)と呼ばれています。顎骨壊死が初めて報告されてから10年以上が経過し、症例の検討、解析により徐々に顎骨壊死の病態に対する理解が深まり、新たな知見も集積されてきました。そこで、松本歯科大学歯学部 歯科放射線学講座 教授 田口 明先生に、前回の顎骨壊死の病態編に続き、予防法編と題して、BP製剤の投与管理と医療歯科連携の実態を中心に解説していただきました。
松本歯科大学歯学部 歯科放射線学講座 教授 田口 明 先生による動画解説
【監修】松本歯科大学歯学部 歯科放射線学講座 教授 田口 明 先生

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BP製剤投与中の骨粗鬆症患者に対して侵襲的歯科治療を行う場合、BP製剤を休薬するかどうかについてはさまざまな見解があります(表16)。否定的な見解としては、BP製剤を予防的に休薬しても顎骨壊死の発生が減るわけではなく、むしろ、休薬により骨密度の低下や骨折の発生リスクが高まることなどが示されています7-11)。一方、米国口腔顎顔面外科学会(AAOMS)では、BP製剤を4年以上投与している場合や顎骨壊死のリスク因子がある場合は、2ヵ月前後の休薬について、主治医と協議することを提唱しています12)。ただし、これは後ろ向き研究の結果に基づいており、判断基準を明らかにするには前向き研究が必要だと考えられます。このように、BP製剤の予防的休薬については統一した見解が得られていません。
 なお、予防的休薬以外のBRONJ対策としては、歯科治療前の感染予防がきわめて重要であるとされています13)
*BRONJ:Bisphosphonate-related Osteonecrosis of the Jaw
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 骨吸収抑制薬の治療を受けている患者に対して歯科治療を行う際に、骨吸収抑制薬投与をそのまま継続するか、あるいは休薬するかについては様々な議論がある。それらを整理すると、

①骨吸収抑制薬の休薬がONJ発生を予防するか否かは不明である。
②骨に長期間残留するBPの物理化学的性質から推測すると、短期間のBP休薬がBRONJ 発生予防に効果を示すか 否かは不明である。
③日本骨粗鬆症学会が行った調査結果では、骨粗鬆症患者においてBPを予防的に休薬してもONJ発生の減少は 認められていない。
④BPの休薬により骨粗鬆症患者での症状悪化、骨密度低下および骨折の発生が増加する。
⑤発生頻度に基づいた場合にBRONJ発生のリスクよりも骨折予防のベネフィット(有益な効果)がまさっている。
⑥BRONJ発生は感染が引き金となっており、歯科治療前に感染予防を十分に行えばBRONJ発生は減少するとの結果が示されている。この報告で注目されるのは、口腔の他の部位に以前にBRONJが発生したことがあり、ONJ発生のリスクがきわめて高いがん患者においても、感染を予防すれば新たなBRONJは発生しなかったという結果である。したがってBRONJ発生予防には感染予防がきわめて効果的、重要であることが示唆される。
⑦米国歯科医師会は、骨粗鬆症患者におけるARONJの発生頻度は最大に見積もっても0.1%程度であり、骨吸収抑制薬治療による骨折予防のベネフィット(有益な効果)は、ARONJ発生のリスクを上回っており、また骨吸収抑制薬の休薬はARONJ発生リスクを減少させる可能性は少なく、むしろ骨折リスクを高め負の効果をもたらすとの見解を示している。

 これらの背景をEvidence-based Medicine(EBM)の観点に基づいて論理的に判断すると、侵襲的歯科治療前のBP休薬を積極的に支持する根拠に欠ける。
 しかしながら、一方において米国Food and Drug Administration(FDA)のアドバイザリーボード
(http://www.fda.gov/downloads/AdvisoryCommittees/CommitteesMeetingMaterials/Drugs/DrugSafetyandRiskManagementAdvisoryCommittee/UCM270958.pdf)、AAOMSおよびその他のいくつかのグループは骨粗鬆症患者においてBP治療が4年以上にわたる場合にはBRONJ発生率が増加するとのデータを示している。これらの報告はいずれも後ろ向き研究の結果であり、症例数も少ないため慎重に解釈されなければならないが、AAOMSは骨吸収抑制薬投与を4年以上受けている場合、あるいはONJのリスク因子を有する骨粗鬆症患者に侵襲的歯科治療を行う場合には、骨折リスクを含めた全身状態が許容すれば2カ月前後の骨吸収抑制薬の休薬について主治医と協議、検討することを提唱している。日本口腔外科学会、あるいは韓国骨代謝学会/口腔顎顔面外科学会はAAOMSの提唱に賛同しており、さらに国際口腔顎顔面外科学会(IAOMS)もAAOMSの提唱を支持している。
 このように侵襲的歯科治療前の休薬の可否に関しては統一した見解は得られていない。
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 最近報告された口腔外科多施設共同後ろ向き研究の結果からは、抜歯前のBP製剤の休薬が顎骨壊死発生を低減させるというエビデンスは得られなかったとしています(表214)。また、BP製剤の投与期間と顎骨壊死発生との間にも、関連性は 認められませんでした(表314)
 休薬の是非にかかわらず、顎骨壊死の発生予防には徹底した感染源の除去と感染予防が重要であることに変わりはありません。
 侵襲的歯科治療の際にBP製剤を休薬するかどうかは、リスクとベネフィットの観点から、骨粗鬆症治療への影響と歯科治療への影響の両方を考えて判断することが必要です。その際に重要となるのが、骨粗鬆症を診る医師と歯科医師との連携です。治療状況など患者情報を共有し、顎骨壊死の発生を未然に防ぐことが求められます。


a:Fisher’s exact test

a:Fisher’s exact test b:Mann-Whitney Unit

対象・方法:
口腔外科多施設共同後ろ向き研究。2008年1月から2015年12月に抜歯したBP製剤投与患者1,175例(男性161例および女性1,014例、平均年齢70.7±11.7歳)を対象に、BP製剤の種類と投与期間、抜歯前のBP製剤の休薬、休薬期間、抜歯後の処置方法などを調査し、顎骨壊死発生との関連を単変量および多変量解析を用いて検討した。

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 日本骨粗鬆症学会では、顎骨壊死が骨粗鬆症治療に与える影響や医科と歯科との連携状況を調べるため、1,812名の医師を対象に調査を行い、629名から回答が得られました。
 「歯科医師より抜歯前の休薬依頼があった際の骨粗鬆症治療薬はどれでしたか?」という質問に対する回答では、BP製剤と抗RANKL抗体製剤を合わせた骨吸収抑制薬が全体の4分の3程度を占めましたが、残りの4分の1はそれ以外の薬でした8)
この結果より、顎骨壊死の原因となり得る骨粗鬆症治療薬について、歯科医師にも正しい理解を求めていく必要があると考えられます。
 表4は、抜歯前の休薬期間と有害事象に関する調査結果ですが、平均休薬期間が3ヵ月未満のケースでは骨折が5例発生し、顎骨壊死の発生は1例でした。一方、3ヵ月以上休薬したケースでは骨折が20例、顎骨壊死が6例に発生しました8)。つまり、休薬期間と有害事象との関係に一定の傾向が見られなかったことがわかります。抜歯前の休薬期間については現時点ではコンセンサスが得られていませんが、臨床での現状を知る上で参考になるデータです。
 さらに、骨吸収抑制薬治療中の患者について医科と歯科との連携状況を調べたところ、連携していると答えた医師はわずか 24.8%で(図38)、連携不足の実態が明らかになりました。このような医師と歯科医師とのコミュニケーション不足は、日本での顎骨壊死の増加に少なからず影響を与えていると考えられます。


(n=629)

 

対象・方法:
2015年5月18日~6月30日に、日本骨粗鬆症学会会員医師1,812名にARONJに関する14項目からなる質問票を送付し、顎骨壊死が骨粗鬆症治療に与える影響や医師と歯科医師との連携状況などを調査した(有効回答数629)。

8)本研究は、中外製薬株式会社と大正製薬株式会社の支援によって行われた。

1)Khan AA, et al, J Bone Miner Res 2015; 30(1): 3-23.
2)Hinson AM, et al, Int J Dent 2014; 2014: 452737.
3)Penoni DC, et al, J Dent Res 2017; 96(3): 261-269.
4)Ji S, et al, J Womens Health( Larchmt) 2016; 25(11): 1159-1165.
5)Huang YF, et al, Medicine 2016; 95: e2348.
6)顎骨壊死検討委員会, 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016
7)Taguchi A, et al, Calcif Tissue Int 2015; 97: 542-550.
8)Taguchi A, et al, Curr Med Res Opin 2016; 32: 1261-1268.
  本研究は、中外製薬株式会社と大正製薬株式会社の支援によって行われた。
9)Baron R, et al, Bone 2011; 48: 677-692.
10)Curtis JR, et al, Osteoporos Int 2008; 19: 1613-1620.
11)Black DM & Rosen CJ, N Engl J Med 2016; 374: 254-262.
12)Ruggiero SL, et al, J Oral Maxillofac Surg 2014; 72: 1938-1956.
13)Otto S, et al, J Craniomaxillofac Surg 2015; 43: 847-854.
14)Hasegawa T, et al, Osteoporos Int 2017; DOI 10.1007/s00198-017-4063-7
監修者コメント
松本歯科大学歯学部 歯科放射線学講座 教授 田口 明 先生
骨粗鬆症患者を診る医師は、BP製剤や抗RANKL抗体製剤といった骨吸収抑制薬治療を開始する前に、まず患者に歯科受診を勧め、治療中は定期的な歯科受診を促すことが推奨されます。そして、侵襲的歯科治療が必要となった場合は、医科と歯科で連携を取り、患者が不利益を被らないよう努めることが臨床医の務めだと考えます。
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▶ vol.1 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死のマネジメント「病態編」

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