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2013/10/24

第2回 米国歯学部教育内容と歯科医師免許

 

さて、今回はペンシルべニア大学での日本とは異なる歯科医学教育内容と米国歯科医師免許について書かせていただきます。

授業

ペンシルベニア大学歯学部
【図1】ペンシルベニア大学歯学部(The Robert Schattner Center)
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大学での授業は歯学、医学に関するものだけではなく、現在の米国の診療体制、保険システムや治療費を払えない貧困な患者さんをどのようにサポートしていったら良いかなど多くの問題点について、学生自身が考え、それらについて討論する時間が取られています。学生はそれぞれの問題点を真剣に考え、独自の意見を持ち、かなり白熱した活発な討論を行ないます。つまり、歯科医として問われるのは技術・業績だけでなく、現状の問題点をしっかりと捕らえ、将来を見据えた政策を考える必要があります。自分自身が得てきたものを今度は一人の人間として地域、組織社会へ還元しなければならないという事を強く感じ、またこのように考える時間が持てるのは非常に良い事だと思いました。
米国では、欠損歯の基本治療の一つであるインプラント治療は重要な割合を占めます。患者さんに欠損歯があり、その患者さんが希望するしないに限らず、治療選択肢の一つにインプラント治療の説明を加えていないと、なんらかの訴訟に発展した場合に確実に敗訴になってしまいます。もちろん歯学部の授業にもインプラントはあります。講義だけでなく、臨床実習もインプラント埋入は必須ではなく見学のみですが、インプラント補綴に関しては必須なので、全員が何例かのインプラント補綴を経験しています。私場合はかなり多い方でしたが、10本ほどインプラントクラウンを装着しました。
また、必須科目の他に選択科目(前歯部の審美修復、オールセラミクス、歯周補綴のプロビジョナル、地域医療、実践歯周外科など)というのがあって、それぞれの中から2科目選択習得する必要があります。これらは平日の夜6:00-8:00を4日間のコースもしくは、土曜日の丸1日でした。基本的に大学は週休2日制ですが、朝が早いのと(講義は8時から、クリニックは7時半から)、講義内容はかなり凝縮されていて実践重視の内容になっていました。(日本のように授業のための講義はほとんどありません)。
さらに日本では受けたことのない、Practice Managementといった開業するにあたって必要な情報(ローンをどうやって返すもしくは組む、保険制度、法律、オフィス・スタッフのマネージメント、成功の秘訣など)を教える講義もありました(もちろん試験もあり)。

システム

それぞれの科において必須終了症例項目が設定されていて、各自の進展具合は全てコンピュータで管理され、大学内サイトにオンラインでアクセスすると随時見れるようになっています。またこれらのデータをもとにカルテの管理、症例進展度、必須症例の過不足などを3ヶ月ごとにチェックされるチャートレビューというものを受けなくてはなりません。自分の持ち患者(1学生約30〜60人を担当しています)の全てのカルテを持って診療管理担当者からそれらを審査されるのです。 さらに各教科の症例の進展度は量だけでなく、質も評価の対象になっていて、両者の評価が点数化されたプログレスレポートとよばれるものが3ヶ月毎に各学生に送られてきます。各教科の評価は講義と実習に分かれていて、講義の点数は筆記試験をもとに評価されますが、実習はこれらのプログレスレポート、担当教官が評価する日常の診療内容、頻繁に行われる患者とマネキンを使った臨床能力試験などを総合して評価されます。 また、生徒が講義から実習、試験にいたるまで先生に評価されるのは当前ですが、ペンシルベニア大学では全ての教官も生徒によって詳細に評価されるシステムがあります。つまり、学生教育を重要視していない講義・実習教官は生徒から低評価を受けることになり、あまりに酷いと担当から外されることもあります。成績優秀な学生が表彰されるのと同じように、教育において評価の高い教官も表彰されます。これらの生徒からのフィードバックは双方のモチベーションを高めることのできるとても良いシステムの一つだと思いましたし、日本ではほとんど考えた事もなかった教師と生徒との一体感のようなものを強く感じました。

ペンシルベニア大学歯学部

【図2】ペンシルベニア大学歯学部(The Fonseca Gardens)
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ペンシルベニア大学歯学部

【図2】ペンシルベニア大学歯学部(学生診療メインクリニック玄関)※クリックで拡大

卒業

私個人の感想としては、授業、実習、技工、試験、レポート、口頭試問、めまぐるしい毎日とそれらをこなし続けなくてはいけないというもの凄いプレッシャーとともに過ごした2年間は本当にあっという間でした。私は日本での卒後7年の臨床経験があるにも関わらず(英語という大きなハンディキャップを差し引いても)、米国での歯科教育の方が格段に大変であると感じずにはいられませんでした。これらの臨床能力試験などの全ての必須科目・単位を取得すると卒業でき、DMD (Doctor of Dental Medicine) もしくはDDS (Doctor of Dental Surgery) という学位と歯科医師免許試験の受験資格が得られます。

日本の歯科医学教育全般と比較した総括

ペンシルベニア大学歯学部
【図4】ペンシルベニア大学歯学部(学生診療メインクリニック内)※クリックで拡大

歯科医学教育に関して、私の卒業した日本大学とペンシルベニア大学を比べると、臨床前のマネキン模型実習は日本大学の方が詳細で高いレベルの教育がなされていたと感じました。特に日本大学での技工に関する教育は、私がハーバード大学大学院補綴専門医のプログラムで習ったこととほぼ同等と言えるほどの素晴らしいものでした。しかしながら、クリニックでの臨床実習は全ての面においてペンシルベニア大学が充実していたと言わざるおえません。何しろ、日本での私の学生時代は患者さんへの治療はほとんど行っていませんでしたので、比べるにも無理があるほどです。学生が直接行う患者さんへの治療とそれを側で指導する教官による臨床教育を2年間みっちり経験するという、米国では当たり前の歯科教育は日本でも必須であるように思いす。さらに、ペンシルベニア大学では前述の生徒による教官評価システムは生徒と教官の双方のモチベーションを高める、特筆に価するほど有用なシステムだと思いました。

米国歯科医師免許

米国での歯科医師免許は州単位で発行されていて、それぞれの州独自もしくは州が属しているRegional Boardという試験(例えばNorth East Regional Boardには北東米を中心とした25州が参加している)に合格すると、これに属している州免許が申請できます。現在では、ほとんどの州において北米(カナダを含む)の歯学部卒業をこれらの試験受験資格にしているため、外国の歯学部卒業者は、米国の歯学部に入りなおさなくてはなりません。また、米国にも記述のみの国家試験も存在しますが、これは日本のような直接的な免許取得試験ではなく、歯学生が2年終了時(Part Ⅰ:基礎科目)と4年生時(Part Ⅱ:臨床科目)に受ける全国歯科学生の統一能力試験のようなもので、卒業前までにはPart ⅠとPart Ⅱの合格を義務付けられています。 North East Regional Boardという免許試験は、コンピュータ上記述問題、マネキン顎歯模型の前歯根管治療・下顎④5⑥と上顎①の支台歯形成、実際の患者さんのⅡ級アマルガム修復・Ⅲ級コンポジットレジン修復、スケーリング・ルートプレーニングの4つの分野から構成されています。これらの全ての分野に合格すると、希望の州免許申請・取得ができます(この試験を免許試験と認めている全ての州免許取得可能)。歯科教育・保険医療制度、国民認識など様々な相違により一言で語ることはできませんが、少なくとも免許システムに関しては米国式の方が好ましいという気がしてなりません。

次回は歯学部卒業後の進路と卒後研修プログラムについて書かせていただきます。

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