第3回 大学病院は大盛況!?

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 東京医科歯科大学歯学部附属病院では、ここ数年外来患者数が増加し続けており、毎年記録を更新中である。最近の統計では、1日あたり外来患者数は約1800人を越える。大変ありがたいことではあるが、わが国の歯科界にとって必ずしもよいことではないともいえる。一般に大学病院は患者にとっては少し敷居が高いところである。多くは、開業しておられる先生方からの依頼や紹介、患者さんからの紹介であるが、初診の患者をみてみると、現在の日本の歯科医療の実態を垣間見ることができる。    初診患者の中では、以前に多くの歯科医院を受診し、納得の行く治療が受けられず、または症状が改善せずに来院したという患者が非常に多い。多くの場合は、各専門外来にて補綴物の再製作、再根治、再修復などにより解決する。これはこれで重大な問題である。大学病院だからといって決して名人ばかりがそろっているわけではない。いわゆる通常の治療で多くが解決してしまうということは、かなり質の低い歯科医療が氾濫しているということでもある。歯科医師が優れた技術を持ちながら、治療に十分な時間をかけることができないさまざまな事情があり、結果として患者の満足が得られないということもあるだろう。しかしながらこうした制度上の問題が歯科医療の質の低下につながっているのであれば、歯科界のすべての人々が改善のための声を上げなければならない。    私の関係するむし歯外来では次のような例も多い。穴も開いていないし痛くもない、なんともなかった歯にむし歯があるといわれ、麻酔をして歯を削り、型をとった。その日からその歯がしくしく痛み出し、時に激しく痛む。再度受診すると、「歯を削ったあとは時にこういうこともあるが、少し様子をみましょう」といわれ、セメントをつめた状態でいるが、1ヶ月たっても変化は無く、時に激しく痛むようになる。そして、「神経に影響が出たようですから神経を取りましょう」といわれる。すでに担当医に対する不信感は高まりつつある。ほかの歯科医院にでも行ってみようかと考えるが、どこに行っていいかわからない。周囲の知人に聞いて、転院することになるが、結局抜髄することになる。痛みは治まり、冠も入ったが、前医に対する不信感は怒りにも変化し、歯科医療全般への不満は高まることになる。教育の責任も問われるべきであるが、この場合も出来高払いが基本の保険制度を背景にした過剰診療の結果ともいえる。    不幸にして転院しても納得のゆく説明や治療が受けられない人もあり、かくして一大決心して大学病院を訪れることになる。    大学病院では、卒前学生や卒直後の臨床研修医も患者を担当しているが、さすがにこのような患者は教員が担当する。延々と治療経過やこれまでの担当医の不満など話を聞かされても、結局抜髄や抜歯という治療方針を宣告することも多い。後の対応により、信頼を得て良好な関係を作ることもできるが、患者の歯科医療に対する不満を解消できずに、不機嫌な患者を診療し続けることになることも多い。このような場合には些細なことでも大きなトラブルになりやすい。いずれにしても担当医は多大な労力を要するものであり、ベテラン教員はこうした患者を多く抱えているのが実情だ。    患者さんは、大学病院で診察、診療を受ければ症状は改善すると期待している。しかしながら原因が明確でない症状が多いのもまた、歯科領域の特徴でもある。患者の訴えに根負けして再根治を開始しても、症状の改善はなく、むしろ穿孔、リーマーやファイルの破折など新たなトラブルになることさえある。    われわれは疾患や症状に積極的に対処することを教わってきたが、その限られた知識では原因が不明のものも多い。こうした症例の中には、患者の持つストレスが原因となっているものもあるという。さまざまな難しい患者に対応すべく、本学歯学部附属病院では2004年に頭頚部心療科がスタートした。当科を立ち上げ、運営してこられたのは小野繁先生である(3月末定年退職)。小野先生は、本学歯学部卒業後、札幌医大卒、一般外科、整形外科、美容整形外科、口腔外科、心療内科など、多彩な経験をもとに、頭頚部心身医学を確立された。    小野先生の書かれた本で、「ドクターショッピング −なぜ次々と医者を変えるのか−(新潮新書)」がある。外科的な医療を「攻めの医療」、生活習慣病に対する医療を「守りの医療」と定義し、ご自身の診療内容を、患者さんを支援してゆくということで、「支えの医療」としている。患者に対するメッセージでもあるが、歯学教育にも取り入れるべきことが多いと感じた。処置ではなく会話が主な治療手段である小野先生の言葉には強いパワーがあり、全人的医療の大切さが実感される。いわゆる不採算治療の典型ともいえるが、こうした患者を増やさないためにも、お勧めの1冊である。  

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