第2回 ドイツ歯科技工士マイスターとして想う事 第2章

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ドイツの教育システム:

第1章では「マイスター制度、およびドイツ歯科界黄金期の終止符」について解説を行いましたが、本章では視点変え、日本とドイツの相違点に焦点を当てていきます。その中でまず、ドイツ独特の教育システムについて紹介いたします(下図)。 上図からは、3〜6歳で幼稚園から小学校に入学する事は日本と同様です。しかし10歳(小学校4年生)の時点で、3種の基幹学校(ハオプトシューレ、リアルシューレ、ギムナジュウム)へ分岐していき、進学分岐決定は生徒の成績により下から60%までの生徒は「ハオプトシューレ」へ、その上の20%は「リアルシューレ」へ、また上位20%に属する生徒に関しては「大学」まで進学可能な「ギムナジュウム」へと進学する事が可能です。これら3種の基幹学校間の相互的編入は認められますが、編入試験に合格する必要があり容易ではありません。   「歯科技工士」の場合、進学の流れからは「ハオプトシューレ」→「専門職業教育」→「ゲゼレ試験(専門職国家試験)」→「専門職」→「マイスター」といった道も可能性としてありますが、当時(医療保険制度改革前)の歯科技工士は「なりたい手工業専門職」のNo.2と人気が高く、「ハオプトシューレ」からの専門職業教育の移行は数少なく、全体数の80%が「ギムナジュウム」からの編入でした。   ところで「歯科医師』の場合は、前述の「ギムナジュウム」へ進み、さらに卒業する際、「アビトゥアー」と呼ばれる卒業試験に合格する必要があり、その試験成績は「ノーテ」というシステムで表されます。「ノーテ1、2、3、4」とは成績順であり、ノーテ1が最も優秀で、2、3、4と続き合格圏にありますが、5、6は不合格です。そこで医歯薬学部(医療関係)に進む場合、できるかぎりノーテ1に近い成績を収めないと現役進学は望めません。言い換えれば、エリート中のエリート(上位約20%)でなければ医師、歯科医師、薬剤師にはなれないシステムになっています。   さらに将来的展望として、医師、歯科医師、薬剤師のいずれかを、決めかねる学生のために、1年間の一般教養カリキュラム内の「医療総合」として同3種の職業選択の猶予が与えられる仕組みにもなっており、言い換えれば、医歯薬学部のレベルは同等であるところに、日本との相違を見出す事ができます。   また、日本の「潰しが効く」教育制度とは違い、上図のように早くから「専門分化」が始まるゆえに、世襲的要素も強いと思われますが、実際に「その道のプロ、さらには天才、秀才」も育つ教育体制および環境になっているのです。

ドイツ歯科技工士養成カリキュラム:

 ドイツの歯科技工士養成カリキュラムは上図に示したとおり、4年制(上記のアビトゥアー取得者は3年制)であり、理論は歯科技工学校で学び、臨床実習はマイスターのいる歯科技工所での上記カリキュラムに沿った実践的臨床が必要となります。

歯科技工士マイスター称号取得への道:

 また、さらに歯科技工所を経営し学生を養成するためには「歯科技工士マイスター称号」を取得する必要性があり、その流れは下図に示すとおりです。現在、EU統合とともに規制が緩和され、歯科技工士としての職人資格国家試験合格後の3年間の臨床経験の必要がなくなり、国家試験合格後、すぐにマイスター・スクールの入学試験を受ける事ができるようになりました。ただし、マイスター・スクール入学試験に合格する場合も、上述の試験成績「ノーテ」が基準となり、成績優秀者順に編入が許可されます。したがって、比較的人気の高い医療関係の歯科技工士コースを受験する場合は、「ノーテ」が悪ければ約10年も待たなければならない受験者も出てきます。   また、マイスター・スクールを受験する事なく、直接マイスター試験に臨む人達もいます。これはEXTERNER(外来の学生の意:INTERNERの反対語)と呼びますが、マイスター試験合格率は非常に低いのが現状です(州によっては20%に満たない所もあります)。マイスター・スクールはドイツの主要都市に存在し、マイスター試験の傾向と対策を教え、各州により異なる臨床上のデザインや歯科技工報酬リスト(BELリスト)などを盛り込んだ授業が数々のカリキュラムとして組み込まれている事から、ほとんど(80%)の歯科技工士が受験します。またこのマイスター・スクールは、全日制コース(約10ヶ月間)と夜間フリータイムコース(約3年間)に分かれており、前者は終日午前8時〜午後4時まで集中して行い、後者では週日は技工所などで働いた後の午後5時〜9時まで学ぶとともに休みの日を利用して授業を行うものです。   マイスター試験合格率は、これらのうち全日制コースが約80%と高く、夜間フリータイムコースは筆者の前年度クラスが合格率20%と非常に低い結果でした。筆者のクラスは合格率80%と高かったことからも、その編成クラスの優劣と姿勢がかなり左右すると言われています。

EU統合後のドイツにおけるマイスター制度の行方:

 ドイツのマイスター制度は「同職人ギルドの時代」の徒弟制度(11世紀後半から続いている制度)から発し、10世紀の伝統を有しています。この伝統が崩壊することについては、欧州統合に伴い種々の意見が飛び交っていました。よって、「ドイツの教育システム」根本が転換される可能性は、当時から存在しました。そして2003年12月19日のドイツ手工業法改正によって、マイスター資格取得義務であった94業種のうち53業種がマイスター資格取得義務を免除されることとなりました。   歯科技工業種は、いまだマイスター資格取得義務を有する残りの41業種に含まれています。しかし、EU内の住居・就業の自由のためドイツ人以外は、マイスターでなくともドイツ内にて歯科技工所を経営できるようになりましたので、オランダ・フランス国境には外国人経営の歯科技工所ができています。マイスター称号の必要性が「独立開業の必須」であった制度が1つの「ステイタスシンボル」になりつつあることは周知の事でしょう。   ただし、日本の歯科技工界では「ドイツの制度または器材』は「3年後に日本に波及する」というジンクスが存在します。もし、このジンクスが急進化するようであれば、日本の「医療保険体制」に少なからず影響が出る可能性はあると思われます。 ★次の章では、ドイツ手工業法改正の実際、およびそれに伴う手工業企業設立(または買収)に当たり、引き続きマイスター資格が必要な業種とマイスター資格が不要となった業種について紹介しましょう。 続く

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