第1回 ドイツ歯科技工士マイスターとして想う事

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Prologue:

 21世紀の現在、ドイツ経済の低迷と広範囲な財政危機の影響が歯科医療業界にも深く浸透し、そのなかでコストパフォーマンスを向上させるためには歯科技工界でも本来の医療的奔流から少々掛け離れた企業展開を期待せざるを得ない状況に陥りつつあります。筆者は15年間日本を離れ遠くドイツより母国を見つめてきました。 日本とドイツは良く似ているとよく言われます。しかし、腰を落ち着けてよく見ると生活、文化、政治、経済など、その内のどれをとってもその『発想の角度の違い』に驚かされます。ドイツ歯科界がどのように発展し、また、現在どのような問題を抱えた状況下におかれているのか日本歯科界の実際と比較し、この両国間における歯科事情の相違を考察することによって、将来の歯科技工業界の展開性と臨床の実際、そして、本当に人が暮らすとは何なのかが自ずと見えてくる気がします。

1.渡独とマイスター称号の取得:

 『ドイツには歯科技工士マイスターと呼ばれる資格システムがあり、歯科医師と協同で素晴らしい歯科補綴物を作っているらしい』と言う話しを耳にしたのは、筆者が歯科技工学科2年生の頃のことです。当時、本国で歯科専門誌からドイツの歯科技術面に関するある程度の情報を得る事は可能でした。しかも斯界ではドイツの材料、機器が優れている事は誰もが認識しているにも拘らず、その保険医療制度を含め、一般的なドイツの歯科医療界の構造に関する情報はどこにも紹介されていなかったのです。そして、上記の疑問を明らかにするため渡独に到ったのは、まだ肌寒さが残る1985年3月でした。 当面、最も難関であったのは同僚たちのコミュニケーションであり、ドイツ語をマスターしなければ話しにならないことは言うまでもない事実です。しかし、言葉を学ぶためにはその環境的必要性と持論ながら「その国、そしてそこに暮らす人々を好きになること」が最も重要な事だと思っています。そうして翌年、1986年には自身の講習会を開始し、1987年からは講演会、執筆活動に至り、1989年にマイスタースクールに入学することが出来ました。   マイスタースクールでは幅広い知識と教養が問われます。実技試験に関しては、ラボでの実践をそのまま活かす事ができれば問題ないと言われていました。しかし、筆記試験では素早い読解力と相対する知識が必要とされます。特に、法律学の民法、商法などは問題を読解するだけでも時間が掛かります。それにも拘わらず、一問平均一分間で解答していかなければなりません。模擬試験では筆者が全問のうち半分ほど終えた時点で、クラスのエリート達は退出していきます。時間いっぱい使っても80%の解答率でした。それ以来、マイスター試験の前日までマイスター筆記試験1,000問問題集を丸暗記し、日本の民法、商法、労働法から、経済学、簿記に至るまで読みあさり、多方面からの知識と洞察力を身に着ける努力を行いました。 ドイツ・マイスター試験の内容は総合的に4課程から成っており、具体的には下記に示す通りです。

マイスター称号:

 こうして1992年、マイスター称号を取得した事によって、ラボ経営陣の1人としてマネージメントにも関与することになり、また1995年には30人程のスタッフを束ねる副社長に就任しました。 そして、週日は自身の臨床、およびスタッフの技工工程チェックを含む一連の教育、週末は講演、講習会、執筆活動をヨーロッパ各地で行うようになったのです。 さて、1975年、エーレンベルグ連邦厚生大臣は『歯牙欠損は疾病の1つである』と唱え、ドイツ歯科界は黄金期を迎えることになります。それはすべての保存・外科診療=100%、補綴診療=80%という幅広い保険摘要範囲を有する医療保険制度でした。また、長者番付上位は歯科医師が独占するという時代だったのです。 しかし、ドイツ歯科界の『黄金時代』は次第に終止符を打つ事になります。1998年1月1日から施行される第3次医療保険制度の大改正は起こりうる事実として、ドイツ国内の25%の歯科技工所の倒産が予想される事になったのです。そして、その予想は的中し1998年9月には14.7%の歯科技工所の倒産、平均90%の需要激減に起因して当然のごとく経費削減による技工所規模縮小の悩みを抱え、1年後には全体の20%の歯科技工士が失業の憂き目に遭う事になったのです。この現象は歯科技界のみではなく、患者激減による歯科医院の倒産にも拍車を駈けました。ここで深刻な事実は言うまでもなく「患者(国民)の歯科離れ」でありましたが、それは第3次医療保険制度の大改正に起因するものでは無いと言う事です。それは当時のドイツ連邦厚生大臣ゼーホーファー氏による「歯科医師の不正保険点数請求の糾弾」が、広くマスコミに報ぜられた事に直接的原因を発します。過去の国民調査における「成りたい職業アンケート」によれば1位が「医師」で2位の「弁護士」を40%も引き離し80%という大きな国民的好感度を有していました。続いて3位「牧師」、4位「大学教授」という順番です。いわゆる「国民に対する裏切り行為」が国民感情を逆撫でし、結果として「患者(国民)の歯科離れ」を引き起こしたのでした。

 そこで弊社では、CNN-Newsへ、「このまま国民(患者)の歯科離れが浸透すれば、国民の平均的口腔内状態は悪化するであろうし、牽いては自身の首を締める事に他ならない。」とコメントし、広くマスコミに訴えた。

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