第6回 オッセオイテグレーション・サミット速報

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オッセオイテグレーション・サミット速報

オッセオイテグレーション・サミット

今回は、インプラント革命の話をしばし離れて、先日、私が出席したアカデミー・オブ・オッセオインテグレーション(AO)が主催したオッセオイテグレーション・サミットについて報告したい。一刻も早く報告したいと気をあせらせたのは、それが極めて大きな成果が得られた会議であったと誰もが認識できるものであったからである。またタイムリーに、また臨場感のある内容として、日本に知らされることはほぼ考えなられないからである。

このサミットは今回、AOの25周年を記念して開催された。8月4日シカゴの地に世界から招待されたインプラントに携わるトップ臨床家、関連のトップ科学者、合計約70人が集った。加えて、大手のインプラント企業の多くから各3人がオブザーバーとして招かれた。私は、オピニオンリーダーとして、ならびにアメリカ補綴学会(ACP)からの代表として招待された。ホテルに5日間、缶詰の会議である。会議のみならず、食事もともにする。会議では、デンタルインプラントならびに周辺医療に関する現状の把握、将来展望に関する協議が喧々諤々と行われ、しかし、最後にはコンセンサスを得るために調整が続いた。成果は、来年1月あるいは2月号のJOMI(International Journal of Oral and Maxillofacial Implants)に掲載される予定である。今回はそのハイライトを速報としてお知らせしたい。日本ではおそらく唯一の情報であろう。

いろいろな議題がなされたが、まずは様々なテクノロジーが今後のインプラント医療に及ぼすインパクトである。4つのテクノロジーが挙げられた。ナノテクノロジー、幹細胞技術、グロースファクター技術、そしてティシュエンジニアリング技術である。出席者は、各グループに分かれての集中審議そして全体審議を繰り返した。これら4つのテクノロジーが、インプラント医療の向上に及ぼす包括的な貢献もあるが、あらかじめインプラント治療における現在の問題点が挙げられ、そのおのおのについても、将来、どの技術がどのように貢献する可能性があるかということについても詳しく話し合われた。そして、その貢献の時期が近未来(2−3年以内)なのか、中期的(5年以内)、あるいは長期的なのか(5年以上先)についても議論され、そして貢献の度合いの強さについても格付けがなされた。つまり、時間軸と貢献度の高さによって、我々が未来へ投資すべきなのかどうか、もしそうであるならばどの程度、というところまで議論は展開した。例えば、歯そのものの再生に代表されるティシュエンジニアリング技術については(日本発の技術がたいへん話題となっている)、現在から近未来にかけて、実際の医療への貢献に関する期待は低いものの、長期的にみれば、大きく期待され、しかも達成された場合の貢献度は極めて高いといったことが論じられた。従って、我々、もっと広く言えば、人類あるいは世界が、さらにそこの研究開発に投資すべきであるという結論が導かれる。もちろんこれは、歯の再生のみにとどまらず、インプラント埋入前の骨増生を生体外で行い、移植するといった、いわゆるエックスビボの手法もこのティシュエンジニアリング技術の範疇にはいる。

4つのテクノロジーの詳細については、来年のJOMIに譲るとして、私がオピニオンリーダーとして招かれたナノテクノロジーについて少し述べる。ナノテクノロジーに対する期待はやはり大きい。何もインプラント表面修飾法としてだけではない。テッシュエンジニアリング用のスキャッホールド開発として、あるいは生物学的診断や治療方針決定のためにもちいる適正検査の媒体としてのナノテクノロジーも含まれた上での結論である。話をインプラント表面修飾法としてのナノテクノロジーにしぼると、現在、ナノテクノロジー応用に基づくと企業側から主張されているいくつかの商品が存在する。しかし、どのような形態のどのようなサイズのナノ構造がオッセオインテグレーションの向上には有効なのかは明らかになっていないという結論が導かれた。もちろん、その材質が何であるかも大きな問題であり、それも現存する商品から論ずるにはあまりにも、数が少なく、また表面修飾法ならびにその特徴が定義化されていないのが現状である。私は、工学から招かれたナノテクノロジーのエキスパートであるDr. Antoni Tomsiaとともに議論を深く導いた。また臨床家と科学者の科学の通訳の役割も果たした。そして、自らの研究成果の紹介も織り交ぜながら、具体例としてのナノテクノロジーのインパクトを語った。たとえば、インプラント表面に構築されたナノ構造が、チタンであり、しかも、丸みを帯びた結節上の構造であれば、直径300ナノメートルの構造体が骨芽細胞にとって最適であるという我々のチームからのデータも紹介した。ちなみに今回のサミットのコンセンサスのうち、このナノテクノロジーのセクションについては、ほとんどの検討項目に私の意見が多くとりいれられ、場合によっては多くのところに私の見解が採用されている。

今のインプラント臨床で何が最大の問題かという議題についても少し触れたい。実に多くの解決すべき問題が取り挙げられた。外科的、補綴的術式、さらにマネージメントまでを含めた上での問題点である。全員の投票の結果、ある二つの問題がほぼ同数を獲得し、最重要課題として選ばれた。さらに、同点決勝の結果、第一番目の重要課題として取り組むべきは、インプラント界面のマネージメントであった。オッセオインテグレーション開始から、そしてアーリーならびにレートフェイラーの予防、そして軟組織のマネージを含めた上での大きな課題である。もちろん解決のアプローチも様々なものが考えられよう。そして、第二番目に重要な課題は、垂直骨増生術であった。やはりもっとも難易度の高いサイトデベロップメントとして位置づけられていることがわかる。そして、成功の確率が上がった時の、その後のインプラント治療にもたらすメリットが極めて大きいということも理由である。これらは全員の投票で決定された結果であり、まさにトップの人間たちが一致して問題意識をもっている2大課題がコンセンサスとして明らかとなった。

最後に、サミット中議題に上ったことで、いくつか興味深いこと、あるいは私からの期待を込めたことを述べておきたい。一つ目として、トップ臨床家、科学者でさえも、現在のデンタルインプラントの成功率が95%とは思っていないことである。このいわば会社先導の統計、ある意味ではメディアハイプの要素も少なからず含まれたこの高すぎる成功率に対する問題意識をだれもが共有していることが明らかとされた。まったく反論なしのコンセンサスであった。誰かが発言し会場がうなった見解は、比較的で簡易である症例だけでも成功率は92%ぐらいでは。もちろん、そういった統計に比較的経験の浅いインプラントロジストの成績は含まれていない。さらに、そういった統計からは、我々が現在多く取り組んでいる複雑症例、難症例はいつの時でもはずされていることをよく理解しておかねばならない。このことは、今回、解決すべき課題の第1位として、インプラント界面のマネージメントがあげられていることからもよく理解できる。さらに高い骨結合能を有するインプラントの開発は最重要かつ急務である。私たちの研究チームが発見したチタンの光機能化技術はすでに大きな期待を背負っている(このことについてはコラムの第9回以降に紹介予定)。また二つ目は、米国のインプラント従事者における向上意識の高さ、高い学術性、ならびに学際性、そして大きなビジョンの共有、そしてリーダーシップ意識の高さである。サミット期間中、そのことは常に感じられた。このような学際的集中的会議は米国では頻繁に行われる。例えば幹細胞サミットなどが典型である。しかし、日本の歯科ではこういった活動は見たことがない。第8回でとりあげる予定であるが(私が日本で取り組んでいる学術活動についても是非紹介したい)、日本の歯科の成長戦略として学術戦略は非常に大きく、斬新な発想と大胆な行動は、今後の日本の歯科の発展のための重要な鍵を握るといっても過言ではない。私は、今後の日本の歯科に、強く期待したい。

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