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2013/10/24

第3回「次世代のための輝かしい日本の歯科界3:チタンの生物学的エイジングの発見、そのインビトロの詳細」小川隆広先生

第2回コラムでは、昨年公開されたチタンの生物学的エイジングの発見について紹介した。歯科および整形外科領域におけるインプラント治療の歴史において極めて重要な発見であり、同時に、今後のインプラント治療を飛躍的に発展させるためのきっかけとなるうることも併せて述べた。我々の研究チームはこれを約4年前に発見したのだが、データ検証や知的財産関連の様々な理由により、公表は2009年の前半となったのである。一連の研究成果は、”Biomaterials” など、生体材料分野において権威のある複数の科学雑誌に掲載されている。ちなみにBiomaterialsのインパクトファクターは、歯学領域の雑誌のレベルを大きく超えた6点代後半である。一方で、この原稿を執筆している2010年1月初頭現在において、歯科インプラント関連の科学雑誌にはまだ掲載されていない。一般に歯科の雑誌は、一般科学領域の雑誌と比較して部数が少ないだけでなく、発刊サイクルが遅いためである。そのため、歯科インプラント治療に関わる人々や歯学研究従事者の間では、チタンの生物学的エイジングの詳細はほとんど知られていない(歯科インプラント関係の雑誌には2010年前半に掲載される予定)。そこで今回から3回にわたり、チタンの生物学的エイジングについて少し詳しく、かつ噛み砕いた形で紹介したい。まず今回は、インビトロで見られる所見について説明する。

私がある学内のセミナーでこの発見について話したとき、ひとりの骨生物学学者が”This is huge.”と思わず声を発した。「とてつもなく大きいことだ」という意味である。臨床・商業的に及ぼす影響はもとより、科学的貢献、研究体制に及ぼす影響、どれをとってもhugeと言うのである。生物学的エイジングの発見の意義はこの言葉に集約される。

まず、チタン表面に付くたんぱく量から始めたい。オッセオインテグレーション、すなわち、チタンと骨の結合に最初に必要なのは、たんぱく質のチタン表面への吸着である。吸着したたんぱくのアミノ酸配列に引き付けられることによって、骨を創る細胞である幹細胞がチタン表面へと呼び込まれるからである。我々は、加工直後の新鮮なチタンとそれから4週間放置したチタンを用意した。血清中のたんぱくに、これらのチタンを一定時間さらした実験で、3時間後に加工後4週のチタン面に吸着したたんぱく量は、新鮮チタン面に吸着した量の5分の1程度だった。さらに、例えば24時間たんぱくの吸着を待ったとしても、加工後4週のチタンは、新鮮チタン面のレベルには達することができず、約半分の量のたんぱくしか吸着しなかった。このように、オッセオインテグレーションに不可欠な最初のステップにおいて、加工後4週のチタンは、新鮮なチタンと比較して大きく遅れをとり、また決定的なハンディキャップを負うということが理解できる。

次のステップは、骨形成に必要な細胞の、チタン表面への吸着である(図1は細胞がチタンに付着した様子を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である)。


図1(クリックで拡大表示)

たんぱくの結果から容易に予想できるように、新鮮チタン面と比較して、加工後4週のチタンでは、数にして3分の1から半分の数の細胞しか吸着することができなかった。この差だけでも、インプラント表面に骨を造るスピード、量に決定的な差をもたらすことが理解できる。さらに細胞が増殖するスピードも、チタンのエイジングに応じて遅くなることが明らかとなったのである。もちろん、細胞が増えれば増えるほど造られる骨量は増加する。しかし、加工後4週のチタンでは、新鮮チタン面と比べて、細胞増殖能力が30%少ないことがわかった。

次に重要なのが、幹細胞の骨を造る機能段階への成長、つまり分化である。幹細胞はそのままの状態では骨を造る能力がなく、骨系の細胞、つまり骨芽細胞に分化しなければならない。つまりチタン表面で、より多くの細胞がより早く骨芽細胞に分化できれば、インプラント周囲には多くの骨が早く形成されることになる。

図2
図2(クリックで拡大表示)

 そこで幹細胞が骨系の細胞に分化する際の指標であるアルカリフォスファターゼの産生量を調べた結果、新鮮チタン面と比較して、加工後4週のチタン面では、その値が3分の1強であった。さらに、骨系細胞の最終機能段階であるカルシウムの沈着を調べた結果、加工後4週のチタン面では、この値も半分以下に留まっていた(図2は、骨芽細胞の働きによって、石灰化物が結晶化像を呈しながら沈着する様子を描いた走査型電子顕微鏡写真)。

ではいったい新鮮チタン面と加工後4週のチタン面では、何がどう違うのだろうかという疑問がわく。端的にいうと、チタン表面は、時間経過とともにチタンではなくなってくるということだ。チタン表面、正確にいうと酸化チタン面は、物理化学的活性が高く、言い換えると周辺物を引き付ける性質をもつ。このことが負に働いて、チタン表面は、時間経過に応じて、大気中の炭化水素を吸着するのである。我々は、チタン表面はチタンであると理解していた。しかしこれは誤りだった。チタン表面には、科学的コンタミが起こっていたのである。炭化水素の吸着量は、炭素の元素量として計測することが可能だが、加工後4週のチタン面では、表面の炭素量は元素比にして60%に達する。つまりチタン表面と思っていた構成要素の60%は炭素だったということであり、これは驚きに値する数値である。現在はこの化学的コンタミが、チタンの生物学的エイジングの主要な原因と考えられている。また、付随的におきる水に対する濡れ性の低下も見逃せない。新鮮チタン面は超親水性であるのに対し、加工後4週のチタン面は疎水性なのである。肉眼でのチタンの色、形はまったく変化していないにも関わらず、表面性状は劇的に変化しているのだ。このこともチタン表面の活性の低下に何らかの影響を及ぼしていると考えられる。

生物学的研究において、各実験群の間に、倍以上の差がでることは極めて稀であり、またこのような実験を複数回、あるいは違うアプローチで繰り返した場合に、いつも一貫した結果が出ることも珍しい。そうした点で、上に紹介したデータは極めて明解で、意義のある結果だといえよう。こうしたデータを見ると“チタンの時間的経過に伴う能力の低下”ばかりに目が行きがちだ。前回のコラムでも述べたとおり、もちろんそのインパクトは大きい。しかし反対の観点から見ると、チタンの生物学的エイジングの発見は、いかに新鮮面が優れているかの発見と同義なのである。通常使用されているインプラントが製造後4週間をはるかに超えたものであることを考えると、新鮮面を使用するだけで、倍から3倍の効果が得られる可能性がある。このチタンの生物学的エイジングのインビボにまつわる所見、そしてエイジングの発見が及ぼすいくつかの重要な科学的、研究的意義と進歩については、それぞれ第4回、第5回コラムで述べたい。

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