第2回 心のつながり

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 知人に紹介されて、久しぶりに美容院を変えてみました。満足げに鏡で自分を眺め、外出先ではショーウィンドウに映る自分をチェックし、写真を撮れば自分の映り具合しか見ていないその知人が良いと言うのだから行ってみよう、と思いました。口コミって大切。    片田舎の決して交通の便の良くないその美容院は、おしゃれな外観にセンスの良い落ち着いた店内。まぁこれは美容院としての最低ラインかも知れません。電話で予約を入れておいた私が店内に入ると、長山様ですね、お待ちしておりました、と笑顔で挨拶。むむ、できるな。と感じる私。この辺りから“吸収モード”に入りました。高級そうなソファに沈みながら問診表のようなものを書く。書き終わると大塚愛似の美容師さんがすかさず取りにいらして、少々待たされる視界には各コースの案内やお勧めヘアケア製品が入ってくる。   で、担当して下さるイケメン美容師さんの自己紹介。おそらく喫煙者であろう口元が残念。しかし知人を担当されている方と知り、とびきりの笑顔にこちらもつられて笑顔に。私たちの心がける担当制に通ずるところがある。で、キメ細かい問診。どうなりたいのか?自分で感じている髪質はどうなのか?等ヒザをついて聞いて下さる。 傾聴、共感の心バッチリ。そして、一通り希望が確認されて通された椅子には名前入りのメッセージカードが置いてあるではないですか。そこに書かれているのが自分の名前だと言う事に、しばらく気づきませんでした。さらにどのスタッフの方に代わっても名前で声をかけていただけて、つかの間のお嬢様(女王様?)タイムを味わえました。最後にはホームケアや次回の来店目安などの処方箋が頂けて、ここにも歯科のメインテナンスに似通うところ発見。   スタッフも、お客さんも、その空間内にいる全ての方が笑顔でいられる、素敵なところでした。最後の最後まで、禁煙を啓蒙すべきかどうか迷ったのですが・・・それは今後信頼関係ができてからのお楽しみにすることにしました。(何の信頼関係か、それは不明ですが)。 よく歯科医院のメインテナンスも、美容院に行くのと同じ様にと形容されることがあります。PMTCされることが大好きで、いつでも誰のでも練習台になる準備万端の、他の医院を見学に行ってはアポイントを取ってもらいメインテナンスを受けているような私にとっては、そこに何の違和感も嫌悪感もありません。しかし一部の方にとっては、歯科と美容院の差は埋めがたいものがあるようです。残念ながら。もちろん根本的な目的は違うのでしょうけれども。   以前わたなべ歯科に来院されたHさんは、とにかく歯科が苦手でした。Hさんの全身からは“怖い、早く帰りたい”オーラが出ていて、いつもうつむきがちなその目には、医院の雰囲気の良し悪しなど映っていない様子。歯科医院にいることをじっと耐えてらして、治療が終わると逃げるように帰っていかれる。どうなりたいか?はできるだけ歯科通院しなくて済むようにと、プラークコントロール良好。マイナスのモチベーションばっちり。   残念ながら、私は彼女の笑顔を一度も見ることなく、治療が終了、来院が途絶えてしまいました。当時の私には、彼女のどうなりたいか?を痛みをとりたい、歯科通院を早く終わらせたい、以上のものを引き出すことができませんでした。考えようによっては、う窩が塞がり、プラークコントロール良好、それで良いじゃない、と思うこともできます。 でも彼女の口腔内にはそれでもむし歯ができたのです。何年かに1度の歯科治療に耐えながら、彼女は歯を失って行くのでしょうか。ただメインテナンスに来院してさえいればう窩ができない訳ではないでしょうが、怖いから、痛いから、むし歯になりたくない、と言うHさんに、メインテナンスを通してむし歯さえできなければ怖くて痛い治療も受けなくて済むし、それ以上の喜びがあると気づいていただきたかった。   美味しいものを美味しく食べられる、見た目の若々しさ、彼女にとっての喜びが何なのか、教えていただける心のつながりを作りたかった。Hさんへの後悔から、様々な関わり方を学び、成長してこられた私。またHさんにお会いすることができたなら、今度こそ恩返しができるかも、とチャンスを待っております。   心のつながり、について、先日とても楽しく刺激的なワークショップを体験してきました。   ケアリングクラウン、をご存知でしょうか?ご存知ない方、ぜひネット等で調べてみて下さい。新しい自分に気づく入り口に立てるかもしれません。皆で、笑うのです。そして泣いて怒るのです。参加者20数名が共に泣き、笑うその姿は、端から見れば滑稽でしょう。   でも、そんな風に客観的に考えてはいけないのです。感情を開放して演じることで生まれてくる感動があるのです。マスクをつければ私ってキャッツの一員?と思えるほどの場の心地良さ。一体感。“笑い”を届けて気持ちのケアをするのがクラウンかと思っていましたが、それは大きな誤りでした。クラウンの仕事の真髄は人に喜びと愛を与え、同時に自分自身も喜びと愛を受け取ること。その奥深さを知ると共に、実際に体験したワークショップのユニークさに感激しました。   笑って、泣いて、優しさに触れあい、自分自身の未成熟な部分に気づき向き合うことができました。楽しいばかりではなく、悲しい側面も合わせ持つクラウンは、患者さんと人間同士としてつながるプロです。私は普段どれだけ“ケア”と言う実感を持って診療しているだろうか、と帰路に着く電車の中で考えさせられました。そのワークショップで知り合った他職種の方から届いたメールが印象的です。 “あなたは普段ケアの役割は何をされている方ですか?”

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