第11回 ~幸せを広げる歯科衛生士〈ヤングとシニア〉~美を求める女性のこころ

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 父が肺ガンで亡くなり5ヶ月が経ちました。配偶者の死はかなりのストレスと聞きます。兄と私の息子の三人で暮らす母の気持ちを考えると『今の私に出来る事=母とのコミュニケーションを取る事』だと思い、東京での仕事を増やす事にしました。

 先日も仕事の合間に休暇をとり、母と食事に出かけようと考えていたのですが、予定していた休暇日は、母が参加しているサークルの少し早めの忘年会が入ってしまいました。当日の朝、何気ない会話から母に何を着ていくか聞いてみました。 すると張りのない声で「ズボンとセーターだよ。」母が答えたのです。本来派手好きな母なのですが最近は「夫を亡くしたばかりで・・・」という世間の声をかなり気にして、楽しみの一つである派手な服も少々パワーダウンしていました。なんだか私の胸がキューンと苦しくなりました。父の死と母の楽しみは別物!世間の心無い声に、母が気落ちすることが悲しく思えたのです。 もともと母は派手ではありますが、お世辞にもセンスがあるとは言えませんし、化粧もただ塗るだけです。そこで母に美味しいものをご馳走して、少しでも幸せ気分を味わってもらう思惑から、忘年会へ出席する母のメイクからファッションをプロデュースすることで、女性として美しさを体感する幸せ気分を、味わってもらう事にしたのです。

 先ずは服選びです。母自慢の衣装タンスから彼女が選んだのは、鮮やかな赤のコーディロイセーターでした。襟元がやや大きく開き、左肩から胸元にかけてバラのコサージュが付いています。さすがに派手好きな母です。次にズボンを選んでもらいました。カジュアルなカーキー系のズボンと、エレガントな黒のズボンのどちらにしようかと迷う母に「赤のセーターを引き立てるには、黒のパンツがいいよ」アドバイスする私。 服選びが終わったら次は着こなしです。早速母に着てもらうと、セーターの襟元が見た目より大きく開いています。狭心症の母は、胸元に張り薬をつけていますから、これでは見た目が美しくありません。がっかりする彼女に「首元にスカーフを巻けばいいよ」と再びアドバイス。 しかし、タンスの引き出しの中にギュウギュウに押し込まれたたくさんのスカーフは、柄物だったり大きすぎたりと、どれもが帯に短し襷に流しなのです。半ば諦めかけた時、タンス片隅に豹柄のハンカチーフを見つけました。 それは、姉の次男(中二)が「ばあちゃんは豹柄が好きだから!」と誕生日にプレゼントしたGUSSEのスカーフでした。そのスカーフを胸元に軽く巻きつけることで張り薬も隠れ、豹柄とカーキー色のアクセントが赤色を一層引き立てる小物になりました。 着こなしの次はメイクとヘアースタイルです。本当は基本である毎日のお手入れ洗顔・マッサージから始めたかったのですが、時間がありません。下地を丁寧に付け、コンシーラで大きなシミ・ソバカスを薄く隠し、ムラのないよう、また立体感が出るようにファンデーションを付けていきました。チークはシニアらしく控えにつけるのがポイントですが、それを付けることで顔色がよくなるだけでなく表情もグッと明るくなります。74歳にもなれば、当然眉毛も薄くなります。 ブラウン系で表情がきつくならないよう書いていきました。アイカラーとリップは服に合わせ、オレンジ系で統一しました。最後の本数の少なくなったまつ毛に、軽くマスカラを付けると母の表情がさらに明るくなりました。仕上げはヘアメイクです。ベリーショートの白髪に、ハードワックスをガンガン付け無造作に髪立たせ出来上がりです。 メイク後の彼女の顔は娘の私でも「なかなかの美人だな」と思うほど美しい仕上がりでした。「みんな年寄りのお婆さんだから、あたしの化粧になんか気が付かないわよ」と言いながらも、家を出て行く足取りは軽く、その姿は若々しく見えました。

 臨床現場でも、年だからと半ば女性である事を忘れようとしているシニアを多く見かけ ます。そんな患者さんとの会話から、母にアドバイスしたような事を私はよく話します。  先日も、クリーニングが終わった76歳の女性のユニットを起こすと、すぐに鏡を覗いて 「髪がボサボサデ・・・もう年ね」とおっしゃったのです。「そんなことないですよ。Kさんいつもきちんとメイクされていますし、年齢よりお若く見えますよ」「でもね、髪は 多いけど細くなってきて、お婆さんの髪よね」「Kさん、ワックスを使ったことあります か?」「えっ?ワックス?」この後私はKさんに、ワックスの使い方を説明しました。 帰り際Kさんが「いい事聞いたわ。あなたに会えてよかった」と、お世辞かも知れませんが喜んでいただけました。

 年齢を重ねても女性は美を求めています。歯科衛生士として口腔を通じて健康と、元気と若さの源である『美を求める女性のこころ』を、これからも私はプロデュースしていきたいと考えています。

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