第10回 ~幸せを広げる歯科衛生士〈都会と地方〉~ギャップ

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 20歳で結婚した私は、初めての就職先から現在に至るまで、すべて自分の働き方を勤務先の院長と交渉してきました。福利厚生や、家事や子育ての援助をしてくれる親がそばにいる環境であれば、わたしの苦労話なんて、「へぇ〜大変だったね。」の一言で終わってしまうでしょう。私が歯科衛生士になったころは(二十数年前)、結婚したら退職する事が当たり前でした。 そんな環境で大した仕事もできない自分を売り込んでいくなんて、素晴らしい若さとパワー!いえ、すごい生活力としか今では考えられない行動力でした。近年は、子育ての経験が歯科衛生士の一つのスキルのように言われ、結婚しても出産しても退職しなければならない、なんてことは少なくなりました。当然長く勤務する歯科衛生士が増えてきましたし、確かに私も子育てしながら働く自分が、カッコよく思えた時期がありました。 しかし子どもが小学校、中学校へと成長していく過程で、いじめ問題、学力問題、教育資金などなど悩みは雪だるま式に増えていき、人を育てる大変さを学んでいきます。ここまでが大変なのです。   また長く勤務することは、当然のように昇給もしていくだとうと考えてしまうのですが、決してそのような事はありません。ある一定の額になるとほとんど昇給しないのが地方歯科衛生士の実態です。特に今年4月の保険改定は、自費の収入の少ない歯科医院には痛手が大きく、従業員の給与にもかなりの悪影響が出たはずです。 この最悪な状況を乗り切る対策として、メンテナンスや定期健診を、保険から自費に移行した歯科医院も多いと思います。しかしこの自費料金設定にも、地方の所得の低さから、東京近郊のような料金設定が出来ず、ギャップを感じるのです。

 『予防は知識と意識から』だとすれば、例えば私が勤務する田舎町の住民に、知識を提供し意識を変えていくサポートを国がしていかない限り、彼らが予防のためにお金を払うことは難しいのです。朝早くから農作業で疲れてクタクタの体で、介護の必要な親の世話に孫の世話に追われている人。田舎町に嫁ぐ人は少なく、海外からお嫁さんをもらう人も多くいます。 文化の違いや慣れない環境の中で、一生懸命子育てしていてもムシ歯を作る原因がわからない彼女たち。悪い生活習慣や不衛生な環境で、自分が病気なのか不健康かなのかわからない人、彼らにメンテナンスの重要性や予防の話をしてもなかなか上手く理解されないし、わかっていても出来ない生活をしているのです。

 自費だ!予防だ!歯科衛生士の役割が重要だ!と騒がれる中で、私たちが求める健康って何だろう?幸せってなんだろうって?時々考えてしまいます。私も都会に出て、バリバリ働いて、色々な学会や勉強会に参加して、知識も所得も高い歯科衛生士になりたい!けれども、私の役割はそうではない。自称・幸せを広げる歯科衛生士として、この町の人たちに健康と予防の大切さを伝えていきながら、日々の臨床の中で少しずつ都会と地方のギャップを埋めていこうと思うのです。

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