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2013/10/24

第3回 老人ケアの達人に学んで

 在宅訪問を始め2年ほどして有名な特養へ見学にいけるチャンスがあった。

 
特養と言うのは特別養護老人ホーム。つまり、認知症(痴呆)やいわゆる寝たきりなど、非常に要介護度の高い人が多く適応となる。当然ここが終の棲家となる人も多い。在宅訪問ケアでは1件づつ訪問し最多でも日に5人とお会いするのが私には限度。そして認知症(痴呆)の対象者は在宅でもそう多くは無い。ここには50人が集団をなして生活され様々な老人のサンプル(失礼)が目の前においでなさるようで、はかりしれない興味を覚えてしまう。見学のほんの数時間だけでも生々しい現場に圧倒された。

 そして、介護職(ケアワーカーと統一して呼ぶことにする)の方達の素晴らしいケアをずっと見せて頂いた。丁寧で優しく決して老人の言うことを否定せず対応される。プロフェッショナルだ。「どんなに呆けてもあんな風にケアされるのだったら安心だなあ。有難いなあ」というのが率直な気持ちだった。入居者の9割が認知症である。その数だけ呆け方が違いバリエーションが豊富で高齢者への対応の経験を積みたい自分にとっては、わくわくドキドキであったことは確かなのだ。ちょっと想像して欲しい・・・恐竜に興味を持ち勉強してきた人間がジュラシックパークに足を踏み入れた時の感動を。(誤解を避けるために・・ちなみに私は高齢者が嫌いではないし尊厳の念を一杯もっています。)

 

 この前に「老人ケア」というものに非常に興味を寄せる「いきさつ」があった。
大阪府歯科衛生士会に入会して最初の研修が運良く?「老人ケアの達人」によるものであったのだ。「老人介護」という言葉の暗いイメージとは程遠い愛嬌のある兄ちゃんが出てきた。へぇ?と思っているうちにこの明るいタレントキャラの兄ちゃん講師がにくたらしくて頑固な老人の上手な扱い方や体が言う事を利かなくなって元気のない老人たちをいきいきとさせる術をエピソード交えて語りだした。それは、今まで自分が学んできた学校教育の中では得られなかった世界であり、人生観の根底を揺るがすような新鮮な感動だった。

 先の見えた老人達を元気にさせるのは薬の投与やcure(勿論必要な時は必要だが)の範疇とは別に自分らしさを認められる環境・・・関わる人の知恵(スキル)と思いやり(心)。兄ちゃん講師は老人施設のオリコン1位「♪人生劇場」を好い声で歌いだす。度肝を抜かれながらも場の空気がいっぺんに変化するのが分る。手拍子で歌いながら歌詞が濁音の時、隣の人の肩を叩く・・・これはひとつの「遊びリテーション」。字のごとく遊びながら機能向上トレーニングとなるものである。

 これは、ホンの入り口で老人ケアってなんやら奥が深くて面白そうだ。リハビリといえば痛い・つらい・続かないのが相場では?そういえば歯科保健指導も同じような事が言える。欠点ばかり指摘されしんどいつらいことを強制されても人は動かない。楽しいとか誉められて嬉しいと言う感情脳に訴えることで人は動く。「心が動けば体が動く」ということは保健指導にも活かされている。そうそう!このコンセプトを確信して自分の今(いかに楽しく啓発するかに磨きをかけている)に至っているんだった。

 

 それまで、「老人ケア」というものは「食事・排泄・入浴」などを手厚く世話や保護をすると言うイメージがしていた。が、単にそうではなかった。介護界の革命家:三好春樹氏いわく「年をとれば人格が完成するどころか頑固がより頑固に、スケベはよりスケベになる。個性が煮詰まる」。そういう千差万別の老いの深さに寄り添いながら、その人らしく生きる力を引き出すことであった。例えば理学療法士を喜ばすために平行棒を往復するのではなく、自分の足で行きたい所へ行く(それがパチンコ屋でも天丼屋でもトイレでもいい:すなわち目標)ためにリハビリがある。

またはマニュアル通りのリハビリ方法ではなく当たり前の生活する(自分で食べる・トイレに行く:最後まで自分で行いたいと思う欲求の最たるもの)事がリハビリになると言うことが往々にして存在する。

口の中だけ見ているのではいけない。歯だけ磨いたらいいのではない。その歯(口)を使って生活したいと言う気持ちを作る事が大事なのだと気づかされた。「居酒屋でちょいと一杯やって焼き鳥をほおばりたい。皆と一緒に旅行して同じ弁当をつついて食べたい。」「ほな、お口をキレイにして入れ歯入れてもらおうね」

 

 今年4月からスタートした介護保険では介護予防給付などを新設、口腔機能向上などのサービスが含まれてくる。(忙しくなりそう?!)介護予防の目標が大きく出た!自己実現だと!マズローの天辺に位置する自己実現だ。まぁ、そこまでたいそうに言うことも無いが目標設定なんていうのは形だけどやはり有った方がいいようだ。根本は生活する主体として老人を認め敬うこと。こういったことを吸収してこれから活かさなくては!!もっと聴かなくては!!

 

 この♪人生劇場の上手い坂本宗久氏のおっかけをし、次に彼の師匠である三好春樹氏をおっかけた。鋭い洞察力で旧態依然とした介護をぶったぎる刺客のような三好春樹に憧れた。彼らの本を読み漁り、この三好春樹氏の主催する「生活とリハビリ研究所」の講座を次々受ける。体の構造や動きを理解し介護のコツが分れば力と忍耐の介護ではないこともわかる。年をとるという事がどういうものか分れば心にも近づける。理論と心。自分は衛生士であるが高齢者に関わってその生きる力を引き出すことを少しは手伝えないだろうか? ほどなく、思いは叶った! 

 

 三好春樹氏のコンセプトに深い感銘を受けて現場に活かしたいと思った保健師Kさん達が中心となって立ち上げたのが大阪のI区にあるA特養であり、そこに月4回の訪問歯科保健指導をさせて頂く事がことになったのだ。さて、ケースのエピソードや自由で個性溢れる生活風景を語るために前振りがこんなに長くなってしまった。次に待っているカルチャーショックはどんなものだろう?  つづく・・・

 
*イラスト:「介護覚え書」 三好春樹著 医学書院 より 引用 

 

 

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