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2013/10/24

第1回 訪問衛生士が見た現場と現実 その1

H7年、関西大震災の起きた年のこと、下の息子が小学校に入るのにあわせてDHとしての復帰をもくろんでいた。高齢社会に突入する今後 高齢者の口腔を歯科医療はどう見立てるのか?いわゆる寝たきりの方・要介護高齢者はどんな状態で誰がケアするのか?あるいは痴呆(認知症)とは?考えてみれば 衛生士学校では、全く学んでいないし高齢者と同居経験も無く想像すら出来なかった。
こういうことを復帰の予定の数年前から予備知識として必要なため研修などに出て勉強するようにしていた。高齢者がうなぎ上りに増える中で「絶対、高齢者対策やその口腔ケアが必要とされる筈である」という予想はほぼ当たっていた。

 

おりしも、歯科衛生士会に入会したらドンピシャ!訪問衛生士募集の広報が出ていた。何の迷いもなく応募する。保健師や歯科医・内科医などからの高齢者・有病者に対応するための教育を受けて、大阪市の保健センターの保健師があげたケースを担当することになり在宅訪問を始めた。そこでは、過去に診たこともない想像を絶する現実が待っていた。初めて訪問したご家庭はひたすら愛する妻に「献身」という言葉はこのためにあると思えるような介護をする夫。なんとドラマチックで美しいものなんだ・・感動して胸がいっぱいになっていたら、次の家ではあざだらけの悲しそうな顔をしたおばあちゃんが汚れたベッドに寝かされっぱなしでいる。家族は私が訪問する時間を知ってその前にどこかへ雲隠れ。

それは、いわゆる介護虐待といわれるもの。口腔ケア以前の問題ではないのか?あざだらけの手を握り、声をかけ口の中をケアさせてもらいそっと家を出る。虚しい思いがこみ上げる。これもDHの仕事なのか? 家族宛に自分が訪問したことを書いた置手紙だけでも残しておく・・・たぶん、捨てられるだけだろうけど。内情にいちいちこだわっていたら身が持たないのかも・・・在宅訪問と言うのは、保健センターが管理する要介護者の「生存確認」の一部を担っているのだった。カルチャーショックの毎日が始まった。ここに、ほんの一部だけだが 印象的なケースのエピソードを挙げてゆく。

 

1
脳卒中の後遺症で運動麻痺のある口に無理やり弁当屋のおかずを口に詰め込まれて
目を白黒させている要介護者。 ・・・摂食嚥下障害の人に対して口の機能に合っていないものを食べさせられるのはほとんど拷問にみえるが家族は食べさせたい思いで必死なのである。誤嚥性肺炎を作っているようなものではある。しかし、頭ごなしに否定するのではなく 適切な指導をすることが仕事なのである。しかしこの時それだけの能力が自分に備わっていないこととを恥じた。こういう方の口腔機能アセスメントができ、その方に適した口腔機能療法やケアをどう指導したらよいのか、これがきっかけで必死に勉強することのになった。

 

2
脳卒中後遺症からほぼ寝たきり状態。28本全部残根であり、その上部構造が歯石の塊が覆っていて、それがぐるりとアーチになって万里の長城のように繋がっている。なんと見事な建造物か!いや、これは口の中の話なのだ。そして、それで咬んで食べているのだからお見事と言う他はない。誰がこれをスケーリングしましょうといって破壊できるのだ。

 

3
25年間パーキンソンで要介護度4。28本全ての歯がカリエスになっており、残根がところどころの状態。刻み食を食べている要介護者・・・このケースは訪問して下さる歯科医が見つかり虫歯の治療と部分床義歯の装着ができ、普通食が可能となった。介護者の奥さんには負担が減ったととても喜ばれた。ついでに解説させていただくといわゆる摂食・嚥下障害のある人に刻み食は間違っている。噛めないのと飲み込みがうまく出来ないのとは全く意味が違う。摂食嚥下障害のある人に「刻み食」を提供すると舌・頬などの感覚・運動麻痺のため食塊形成がうまくできず 口の中でばらけてまとまらず 細切れの食材が咽頭などにはりついて吸い込み むせを起こしたり誤嚥したりする。 このケースは摂食嚥下には大きな問題が無かったので咀嚼を確保して食生活が激変した例である。しかし、世の中は噛めない・食べられないを一緒くたにして高齢者には刻み食という間違った常識でもって 誤嚥を引き緒起こしたりして命を縮めている事が少なくない。こういうことを伝えてゆくのもDHの仕事である。

 

4
男性はいくつになってもエロス的な楽しみを持っている(らしい)。・・・この辺りの話は特養編でも公開予定。要介護状態で麻痺の残った体でも想像はたくましくできる。まだ70歳そこそこの訪問対象者の部屋にはヘアヌードの写真がいたるところに張られている。訪問DH久保は少しもひるまず、まずその素晴らしさと精神の元気さを褒め 対象者のご機嫌を最高潮に持ってゆく。ここで、やっと口を見せてもらうことができるのだ。もし、この状態を少しでも理解しようとしなかったら次から家に入れてもらえないだろう。この人、帰り際に「ねえちゃん、よう、来てくれたな。おとうちゃん(私の主人)にこれもって帰えったり、おみやげや。」女優Sのヘアヌード写真を差し出されたが、お気持ちだけ頂くことにし丁重に断ってその家を出た。
寝たきりであっても要介護状態でも当たり前に生きている人間の姿がそこにある。

 
*イラスト)「老人ケアの達人たち」ブリコラージュ企画編集 より 引用 

 

 つづく・・・

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