第5回 ラジカルクラブ「夏の思い出(後編)」

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歯科技工士コラム 第5回 ラジカルクラブ「夏の思い出(後編)」 川端 利明 歯科技工士

 厚木を出るころには雨もほどほどで、台風のおかげというかなんというか、東名高速はがらがらでした。順調に蒲郡へと向かう車中、二日酔いのK御門さんへの配慮も全然なく、運転手のY島さんがクーラーボックスに、たくさんの氷と一緒にキンキンに冷やしてくれた恵比寿ビールを私とK下さんが、そろそろいただこうかと話していた矢先、心配していた高速度道路の通行止めが現実化してしまったのでした。

 朝のニュースで覚悟していたので、さほどあせることもなく、下道を走ることにして、気分は一気にのんびり旅気分、「Y島さ〜ん、いっただっきま〜す!」。プシュッ! 恵比寿缶ビールがいい音を立てて、われわれ(Y島さんとK御門さんは無関係ですが)を旅気分満点にしてくれたのでした! そう、もしかしたらこの旅行で私自身は、まさしくこれをやりたかったのかも。電車ではなくバスでもなく、広い車内のエルグランドで缶ビールを片手に、愉快な仲間とわいわいと話しながら、気分は最高!

 窓の外の景色はというと、見たこともないような茶色い波がうなりを立てながら岸壁に力強くぶつかっては大きな水しぶきをたてて砕け、まさに台風4号の脅威を感じずにはいられませんでした。後から思えば、あのころわれわれの上空を台風4号は通り過ぎていったのではないでしょうか?

 車が沼津あたりの漁港に差し掛かったころには雨もすっかりやんで、青空がすぐそこまでやってきていました。

 沼津といえば、「しらすに桜海老。お昼ご飯は三色丼?」なんてY島さんに聞いてみたら、「こんな天気に、漁になんか出てないですよ」なんておろかな質問をしたのでしょう、漁師の息子のくせに!(笑)(筆者は淡路島の漁師の息子でした)。

 「ごもっとも、じゃ〜、ら〜麺にでもしましょう〜」東名が再開するインター直前のラーメン屋でお昼ご飯となりました。

 おなかもいっぱいになったところで、再び東名高速を快調に走るエルグランドを祝福するかのように、台風一過の青空が夏の景色を演出し、気分は絶好調(このころにはK御門さんの二日酔いもそろそろ収まったようで、会話に加わるようになってきていました)、目的地までにはあと1時間と少し。さあ〜、温泉だ〜!プシュッ!かんぱ〜い!

 音羽蒲郡で東名高速を降りオレンジロードを抜け国道247号を西浦温泉へと向かう道すがら、海水パンツを忘れたと言い出したK御門さんのために、“庶民の味方ユニクロ”はないかとキョロキョロ探したのですが、さすがのユニクロも蒲郡にはないのか見当たらず。「パンツでいいじゃん! タオルで“ふんどし”がいいよ! ズボンでもいいじゃん!」なんて大笑いしながら話してるうちに、西浦温泉にあるホテル東海園に無事到着したのでした(ちなみに、帰りに蒲郡駅周辺でユニクロ発見! さっすが〜!)。

 ホテルにはすでに、大阪から到着したU田さんN村さんと、今回、唯一ご家族でご参加いただいたY原さん御一家が最上階の展望フロアーで寛いでいました。

 時刻は午後3時を少し過ぎた頃で、全員で少し挨拶を交わし、それぞれ割り振られた部屋に入り早速水着に着替えてビーチに向かうことにしました。

 ビーチまでは、ホテルから坂を下って約5分。部屋を出るときにはもう既に水着姿でおおはしゃぎのY原さん家のかわいい2人のお嬢ちゃんが、ややもすると異様な雰囲気になりかねない親父8人の海水浴を、華やかなものにしてくれて救われた思いがしました。(笑)

 ビーチにたどり着くと空には青空が戻ったとはいえ、まだまだ台風の爪あとは深く、砂浜の砂が体中に吹き付けてきて、風上のほうを向いて立っていることもできない状態のため、子供たちは残念ながらハイテンションのまま部屋に戻ることとなってしまいました。

 われわれ親父たちはというと、ホテルを出るときに買い込んできた缶ビールを出してきて、とりあえずまずは「かんぱ〜い!」。みんなで一応に風上にお尻を向けた状態で、ビール片手に立ち話を始めたのでありました。

 歯科技工士ということ、ラジカルクラブメンバーであるということを除いては、参加者それぞれの年齢も違えば、生まれた土地、育った環境もまちまちなので、海に対する思いや思い出もいろいろで、サーフィンをやっている人、海釣りが大好きな人、ここ数年、仕事が忙しくて海を見るチャンスがなかった人、などなど…。

 そんな話が一通り巡ったころには、車の中で飲んでいたビールに加えて、砂浜で飲んだビールが確実に私をいい気持ちにさせてきていました。誰かが「川端さんは、淡路島の出身なので、水泳は得意なんじゃないですか?」なんて聞くものですから、ビールで気持ちが2〜3倍に大きくなっていた私は、「もちろん! 昔は淡路島のトビウオと呼ばれてましたよ!」な〜んて調子でウケを狙うだけのはずが、その場の雰囲気と(決して誰も泳げとは言わなかったのですが)酔っ払った勢いで、台風の後の黄土色の海を、遊泳禁止の柵までの約100メーターぐらいの距離を往復することになりました。

 「僕も、一緒にいきます!」と、なぜか歯科技工士の癖に全身を小麦色のいい色に日焼けした精悍な体つきのY原さんが(ラボの屋上で昼休みに焼いたそうです)言い出したものだから、さらに引くに引けなくなってしまいました。「じゃ〜、行きますか!夏の思い出に!」なんて調子で、準備運動もそこそこに、まだまだ冷たい海の中に勢いよく、2人して入っていきました。

 泳ぎだしてわかったことなんですが、地上では強風で砂が待っていたのですが、海上では水しぶきが水面から出た顔面にバチバチと刺すように当たってくるのと、自分の進みたい方向とは関係なく、体はどんどん風下に流されていくではないですか。最初の数メートルはY原さんと会話する余裕も少しはあったのですが、「やば〜! 流されてる〜! しかも酔っ払ってる〜! 息が切れてきた〜!こんなはずじゃなかったのに〜!」と思ったときに陸のほうを振り返ってみると、陸にいるメンバー達は泳いでいる我々にはまったく関心もなく、全員が風下を向いた状態で立ち話をしているではありませんか。「なんだ〜、見てないじゃん! ちょっとカッコ悪いけど引き返そうかな〜!」って思ったときにはブイまではあと20メーターたらず。そこにたどり着けばブイづたいに堤防まで移動することが可能で、帰り道は歩いて帰ることもできます。やや前方を泳ぐY原さんは、どうやらそのつもりらしい。私はというと、もうすでに体力の限界が見えていて、「このまま、もし溺れてしまったらテレビニュースで、台風4号の犠牲者の一人として、何度も何度も報告されてしまうのではないだろうか? それを見ている視聴者は、なんてバカなやつもいるもんだって、必ず突っ込みをいれるだろうな〜。カッコ悪り〜!」、「なんとしても生きて帰るぞ〜!」強い決意のもとに、砂浜を目指すための方向転換をしたのでありました。

 その後は、いかに体力を消耗せずに前進するかを考えて、仰向けに体を水面に浮かせた状態で少し休んでは平泳ぎで少し前進、また休んでは…と、その繰り返しで何分かかったのかは検討もつきませんが、何とか台風の犠牲者にはならずに戻れました。砂浜に倒れこんだときには、すでにY原さんは、タオルで顔を拭いていました。

 その大変だったことは私とY原さんしか理解できなくて、陸にいたメンバー達には楽しんでいるようにしか見えなかったようです。もしあの時、救助のために手を振っていたとしたら、おそらく笑顔で手を振り返していたんだろうな〜(無駄な体力と気力の低下につながるのでやらなくって良かった)。(笑)

 そんなことがあったせいか、その後の私の会話には「思い出作り」というフレーズが頻繁に出ていたようです。ここで教訓「飲酒の後、台風の後、海開きの前の水泳はやめましょう!」(反省)。

 部屋に戻って浴衣に着替え、夕飯までの空いた時間に、全員そろって温泉に入ることになりました。

 窓からは湾曲した水平線が見渡せる、まさしくオーシャン美湯!  台風4号のおかげというか、他のお客さんはほとんどいない貸切状態で、各自ジャグジー、露天風呂、サウナとそれぞれに楽しんだ後、誰が声掛けするでもなく、全員が8角形をしたジャグジータイプの露天風呂の一辺に足をつけた状態で、足湯を楽しみながら色々な話で大いに盛り上がりました。

 中でも、大の温泉好きのN村さん。毎週日曜日には家の近くのスーパー銭湯で、開店の朝5時から4時間は汗をじっくり流すというつわもので、今日の温泉旅行当日も、なんと朝5時からスーパー銭湯に4時間は入ってきたというから、お風呂好きもここまで来るとわれわれ一般人にはもはや理解不可能です。(笑)

 そんな大の温泉通N村さんの指導の下、足湯を基本にときどき体全体を湯船につけるという基本的サイクルを忠実に守りながら、取り留めのない話でみんなで大笑いし、心と体が大いにリラックス! これぞまさしく、温泉の醍醐味!(私はといえば、昼間のこともあり、生きていることの喜びを実感していました)。(笑)

 気がつけば、夕食をお願いしていた7時まであと5分。急いで浴衣を羽織って、海の幸たっぷりのご馳走が待っている宴会場に向かいました。

 総勢11名のわれわれのグループには不釣合いな、50人は楽に入れそうな部屋。無愛想でサービスの行き届かない仲居さん。それらを打ち消してくれるだけの、たっぷりのおいしい料理に舌鼓を打ちながら、冷たいビールで、温泉で乾いた体を十分に潤しました。その瞬間に、オヤジの温泉旅行の醍醐味を感じずにはいられません。至福のひと時を2時間ほど楽しんだ後、部屋に戻って休むこともなく、誰言うこともなく気がつけば例の八角形の1辺に、8人のメンバー全員が足をつけて先ほどの話の続きを、当たり前のように始めていました。

 後で振り返ってみると、あまり話しの内容は覚えていないのですが、ただひとつ確かなことは、N村さんがほとんど、一人で喋っていたような気がします。もちろんN村さんはできた人物なので、でしゃばっていたわけではなく、N村さんのお話にわれわれ7名が引きこまれた感じで、まさに「温泉を得たN村さんに敵なし」状態!。

 結局、お風呂が終わる12時30分直前まで温泉を満喫したわれわれは、翌日の朝風呂も合わせるとトータルで5時間強の入浴を楽しんだことになります。かつて、こんなにも温泉につかったことはありません。これを書いていて気づいたのですが、出発前にスーパー銭湯で4時間過ごしたN村さんは全部でなんと9時間! すげ〜!。

 翌日の海は真っ青で、昨日とはまったく別物のようです。さわやかな朝の光を感じながら、朝ごはんをたっぷり食べたら、ホテルのロビーで解散です。

 昨日は残念ながら海に入ることができなかったY原さんのお嬢さんたちは、今日は海水浴ができるとおおはしゃぎです! よく考えたら、今日は海の日、昨日までは台風でなくても泳いではいけない日だったのです(反省)。今更ながらに、溺れなくて良かった!(笑)。

 ホテルを後にした我々は、帰りの蒲郡インター直前のお土産物店で、お土産用と車中で食するためのかまぼこを買って、東名高速で帰路へ。もちろん。私とK下氏はエルグランドの後部座席でかまぼこ片手に、缶チューハイを楽しんだのは言うまでもありません!

 運転手のY島さんに感謝、感謝!

画像クリックで拡大表示 朝食後メンバーで記念撮影

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