第30回 日本再生医療学会 横浜にて開催

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先ほど、リオデジャネイロに到着し、イグアス行きのフライトを待っている。国際歯科大会(IADR)に参加するために南米ブラジル・イグアスに向かっている。すでに、米国ワシントン空港での乗り換え時間は10時間、東京とイグアスは往復のフライト時間が4日で、現地で4泊、延べ4泊8日の旅となる。IADRについては次回のコラムにて紹介させていただきたい。

2012年6月12日から14日にかけてパシフィコ横浜にて、第11回日本再生医療学会総会が開かれ、13日水曜日の午前に「歯科領域の再生医療」というシンポジウムが開かれたので参加した。

日本再生医療学会も第11回を数えるが、私にとっては第1回の再生医療学会のことはまだ記憶に新しい。再生医療学会の前身は、日本組織工学会であり、日本組織工学会の前身は、器官形成研究会であった。この研究会は基礎の先生の割合が多く、どうして体ができるかを謎解くために、細胞と細胞基質の形成機構の解明が主であった。それが、時代の流れとともに、途中、いろいろな領域を取り込むことで、再生医療学会へと発展してきた。第1回は京都の国際会議場で開かれた。私が留学から帰ってきた時だった。留学先については、以前のコラムでも話したが、私が住んでいたボストンは、“Tissue Engineering” という言葉を作ったLanger先生(MIT)とVacanti先生(ハーバード大学)がいる、まさにティッシュエンジニアリングの聖地とも言える。昔を思えば、組織工学会ができた時は、まだ、再生医学という言葉はなかった、1989年に両先生がScienceに“Tissue Engineering”が定義し、Tissue Engineeringという言葉が生まれた。そのまま訳すと「組織工学」となり、以前所属していた名古屋大学医学部口腔外科の寄付講座名は「組織工学講座」であった。

話を今年の再生医療学会に戻す。座長は、長崎大学の朝比奈泉先生と大阪大学の村上先生である。

最初のシンポジストは、東北大学・小児歯科発達歯科分野教授の福本 敏先生。福本先生の最も有名な研究は、アメロブラスチンノックアウトマウスを使い、エナメル質形成中のアメロブラスチンの機能を明らかにしたことである。歯の上皮細胞の分化機構を明らかにするために、その後も精力的に研究されてきた。このシンポジウムは、マウスiPSと歯原性上皮細胞株と共培養することでエナメル芽細胞に分化させることに成功した話だった。iPS細胞からエナメル芽細胞に分化させることが可能となれば、培養実験にて、上皮幹細胞からエナメル芽細胞までの分化段階を観察できることとなり、今まで、ノックアウトマウスを作らないとわからなかったことが、培養実験で明らかにできることになる。

2番目のシンポジストは、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・口腔再生外科学分野の住田吉慶先生で演題名は「細胞治療による唾液腺再生療法に関する基礎的研究」である。住田先生は以前、東大医科研の幹細胞組織医工学に所属しており、歯の再生に関する多くの成果をあげている。学位取得後にカナダに留学し、唾液腺の再生研究を始めた。

口腔内にある唾液腺が委縮した症例における根治的治療法はいまだに無い。さらに、重篤な器質的変化は、放射線照射によっても引き起こされる。そこで、住田先生らは、このような症例に対して、細胞移植にて改善できると考えた。外来では、唾液の分泌量が減少し、口腔不快症状・舌痛症などを訴える患者さんも増えている。高齢になるとその傾向がますが、対症療法しかないのが現状である。唾液腺の委縮症例に細胞移植を行い、唾液腺細胞が再生され、唾液分泌量が正常に戻ることを願う。一方で、唾液腺の幹細胞の局在などもまだ不明な点は多く、歯の研究とは異なり、唾液腺の研究に残されている課題は多い。

3番手は、名古屋大学大学院医学系研究科・頭頚部感覚器外科学講座の片桐渉先生で、私の古巣の教室からの発表となる。演題名は「幹細胞由来成長因子により内在性幹細胞を誘導する新規骨・歯周組織再生医療」である。この演題では、細胞移植の欠点を述べ、それに代わる新しい手法を提案している。細胞移植の欠点とは、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」に基づく「Cell Processing Center」の設立、品質・安全管理。さらには、培養にかかる人件費など莫大な経費がかかる。また、最も大きなこととして、名古屋大学の同講座において、これまでに90名に対して、骨髄由来の間葉系幹細胞を用いた骨再生の臨床を施行したようだが、移植した細胞数と再生した骨量の間には有意な差はなかったようである。これは大きな問題である。

そこで、片桐先生らは、骨髄由来間葉系幹細胞の分泌する成長因子を含む培養上清液に着目し、ラット頭蓋骨に骨欠損を作製し、上清液を添加したところ、有意に骨形成が促進されることを発見した。今後は、倫理委員会の承認後、インプラントに覆髄する骨造成や歯周疾患を対象に臨床研究を開始するようだ。

次は座長の村上伸也先生から「Periodontal Tissue Engineeringの将来展望—サイトカイン療法と細胞移植治療の融合を目指して—」という課題が発表された。塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)は強力な血管新生作用と間葉系幹細胞音増殖誘導能を有することから、村上先生らはこのリコンビナントサイトカインを歯周外科時に局所応用することで、歯周組織の再生を図ろうとした。2001年よりFGF-2の歯周組織再生誘導効果並びに安全性の検討を目的とした第Ⅱ相臨床治験(探索的試験・用量反応試験)、第Ⅲ相臨床治験(検証的試験)が行われ、ヒトの2壁性および3壁性歯槽骨欠損に対し、0.3℅FGF-2含有ハイドロキシプロピルセルロース製材の局所投与がレントゲン写真上で統計学的に優位な歯槽骨新生を誘導したと報告した。また、安全上問題になる臨床例もなかったようである。サイトカイン療法は細胞移植より関便で、移植材料が明白であることから安全面でも有意な治療法となる。

最後は、東京女子医科大学先端生命医科学研究所の岩田隆紀先生の「自己培養歯根膜シートを用いた歯周組織の再建」である。この細胞シート移植研究は、すでに臨床治験に突入している。ヒトの歯根膜組織から歯根膜由来の間葉系細胞を培養し、培養皿上にてシート状にする。細胞をシートにする技術は東京女子医科大学にて考案された温度応答性の培養皿を用いる。ある温度になると、培養皿の表明性状が変わり、細胞がシートとして剥がれる仕組みである。この細胞シートを歯周組織欠損部にハイドロキシアパタイトと一緒に移植し、歯周組織を再生させる。すでに、1症例の移植が終わり、予後の報告が期待される。

後半3演題は、歯周組織再生を目的にした手法の発表であったが、演者らの再生方法は培養上清、サイトカイン、そして細胞移植と異なった手法を提案している。皆さんの興味は、どれが最も良い方法なのかを知りたいのではないでしょうか。しかし、まだ、その答えは無いのが現状です。私は、おそらく、症例に応じた、適した手法があると考えていますので、早くその適応症を探索する必要があるのではないでしょうか。しかし、歯周組織を標的とした細胞移植を用いた臨床応用は始まったばかりなので、まだかなりの時間が必要となるでしょう。

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