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記事

2013/10/24

第7回 知覚過敏を引き起こすブラキシズムについて

歯科衛生士コラム 第7回

知覚過敏を引き起こすブラキシズムについて
 

深川優子  歯科衛生士

連載にあたって

本連載の大テーマは「口腔内は人生を語る:Tooth Wear編」となっています.Tooth Wearは,その方のライフスタイル(食生活やストレスなど)が口腔内に反映されるものです.Tooth Wearを意識した口腔内観察は,口を通して,患者さんの人生を垣間見ることができます.今回は,本編のまとめとして,Tooth Wearと関連の深い知覚過敏,そして,様々にある要因の中でも,増加が見込まれる「ブラキシズム」の情報をお伝えします.

知覚過敏の要因

知覚過敏が「象牙質知覚過敏症(疾患)」として成立する背景に,エナメル質およびセメント質が何らかの要因で削除され,象牙質が露出することにあります.しかし,必ずしも象牙質が露出しただけでは,知覚過敏になることはありません.象牙質表面に象牙細管が露出し,その開口部が広がってしまった際に,刺激が歯髄神経に伝達されやすくなります.知覚過敏を訴える象牙質表面は,正常なそれと比較して,約8倍も象牙細管が開口しており,その直径は,2倍の大きさとなっています. 知覚過敏を引き起こす要因(エナメル質・セメント質の削除)について言及してみます.これには,酸蝕・摩耗・咬耗が該当します.つまり知覚過敏の要因は,Tooth Wearの範疇に属し,両者は,とても密接な関係があります.
(第1回目:図1 https://www.dentwave.com/member/column/fukagawa/01/img/pic01.jpg
酸蝕は,本連載でお伝えしてきたように,酸性飲食物の摂取が原因となり,次いで,摩耗は,不適切なプラークコントロールが主であると考えられますが,硬い性状の食物を頻繁に噛めば,咬合面の歯質は削除され,知覚過敏を惹起します.特に酸蝕と摩耗は,合併して進行することが多く,例えば,柑橘系の果実を皮ごと食したり,梅干の種を割ってまで食べたりする人は,歯質の損傷が促進されます.最後に咬耗は,加齢による退行性疾患と捉えがちですが,病的な咬耗として,ブラキシズムが挙げられます.昨今,噛み締めにおいては,就寝中ばかりでなく,日中に噛み締めることによる弊害(歯列接触癖)も問題視されてきました.

噛み締めによるトラブル急増中

常習性の歯ぎしりや歯並びが悪いことにみられる「病的な歯の擦り減り」をブラキシズムといいます.メカニズムの詳細は不明ですが,2つの可能性が指摘されています.1つには,特定の歯が他の歯よりも強く噛んでいて,ブラキシズムを誘発するというものです(局所的因子/口の中の原因).2つめは,就寝中に全身を駆使してストレスを発散するためにブラキシズムを起こすというものです(全身的因子/精神的因子).当歯科診療所でも,昨今「歯ぎしり・噛み締め」が原因で,口腔内のみならず全身のトラブルに発展している患者さんが急増しています.トラブルの内容として,出勤時に電車で居眠りをしたら,全く口が開かなくなってしまった方がいました.口が開けづらいので,代理の方が歯科予約をされました.また,定期健診時に歯が欠けている方(齲蝕ではない)や動揺歯を発見することも多くなりました.

1. ブラキシズム1,2)

ブラキシズムとは,口やその周辺の器官にみられる習慣的な癖(非機能的動作あるいは口腔習癖という)をいいます.ブラキシズムの分類に,「グラインディング」(歯ぎしり)と「クレンチング」(噛み締め)があります.前者は,上下の歯をすり合わせて音を出します.主として睡眠中に行っていることから,自覚することは少なく,家族からの指摘によって初めて気が付くことが多いものです.後者は,日中・夜間に関わらず,無意識のうちに歯をくいしばってしまうものです.噛み締めることは,緊張する場面に多いのですが,仮眠などの際にも生じます.また,スポーツ時やパソコンに向かっている時などにも無意識に噛み締めている人が増加しています.一般的に睡眠中のブラキシズムは,健康な人(歯並び・噛み合わせの不具合がない)でも,15分前後行っているそうです.これが長時間に及び過度になってくると,病的な噛み締めとなり,口やその周辺の器官の問題に留まらず,様々な問題に発展してしまいます.他にも「ナッシング」タイプ(きしませ型),「コンプレックス」タイプ(混合型)などがあります(表1参照).

表1 ブラキシズムの分類(参考文献1より引用改変)

ブラキシズムには様々なタイプがあり専門医による精査が必要である

歯ぎしり型
(グラインディングタイプ)
噛み締め型
(クレンチングタイプ)
きせませ型
(ナッシングタイプ)
混合型
(コンプレックスタイプ)

歯ぎしりの指摘
(家族,歯科医院から)
噛み締め
歯ぎしりの指摘
(家族から)
診断されたタイプが左記のいくつかに分かれる場合,それらのパターンが複合して起きている可能性がある

極度の歯のすり減り
歯牙破折
犬歯などのすり減り

頻繁に修復物が取れる
頬粘膜に歯形がつく
口腔内の骨隆起

楔状欠損がある
肩こり
楔状欠損がある

歯がしみる(知覚過敏)
頭痛
歯がしみる(知覚過敏)

エラが張っている
頻繁に詰め物が取れる
 

 
顎のこわばり
 

 
口腔内の骨隆起
 

 
顎関節の痛みクリック音
 

 
ストレスがたまりやすい
 

2. 病的なブラキシズム1,3)

ブラキシズムも病的な段階になると,全身に関わる問題に発展してしまいます(表2参照).病的な歯ぎしりや噛み締めの力は,ガムを噛んだ時の数倍から数十倍にも達するそうです.病的レベルのブラキシズムが続くと,歯がすり減ったり,修復物が破損したり,脱落したりします.口腔に関連するトラブルは他にもあり,口が開けづらくなる「顎関節症」も代表的なものです.また,咬筋の肥大による容貌の変化(エラが張る)もあるようです.ブラキシズムの弊害が全身に及ぶと,強度な肩こり,耳鳴りやめまい,顔面・頭・頸部の疼痛,眠りを浅くする睡眠障害(レム睡眠の阻害),睡眠時無呼吸症候群などを起こすこともあり注意が必要です.
 

表2 病的なブラキシズムが及ぼす影響(参考文献3より引用改変)

病的なブラキシズムは口腔ばかりでなく全身にも弊害をもたらす


歯肉に掻痒感が起こる


歯がすり減り,しみたり,痛んだりする


歯肉が退縮するなど歯周組織が損傷する


修復物が脱離・破損する


口唇,舌,口腔粘膜に歯形がつき変形する


歯槽骨が外骨症になる(膨隆する)


咬筋が肥大し,容貌が変容する


顎がこわばり,疲労感,不快感がある


強度な肩こりがある


顎関節症が起こる


耳鳴りや耳痛が起こる


顔面,頭,頸部に疼痛が起こる


情動ストレスを起こす


睡眠障害を起こし,睡眠時無呼吸を発現しやすくなる

3. ブラキシズムに対するセルフケア

ブラキシズムを行っていると自覚されている方には,それを放置するリスク(全身に影響する)が問題となるため,専門医による精査および,以下のような改善策(セルフケア)を提案します.①意識を変える(必要以上に力を出す癖を改善)
②日常行動を変える(口唇を閉じて上下の歯を合わせない:安静位空隙を保つ)
 ※安静位空隙とは,口の周囲の筋肉群がリラックスした状態の時は上下の歯は接触せず,わずかに空隙ができる.
③緊張時,集中時には姿勢をよくし,肩の力を抜いて深呼吸をしてみる.例えば,パソコンの横に「噛み締めない!」と書いた付箋などを貼って注意を喚起しましょう.
④ストレスをためない
⑤重い物を運んだり,激しい運動をしたりする時は,要注意である
⑥就寝時の注意事項として,リラックスしたイメージ,楽しい経験などを思い浮かべる.高い枕は,噛み締めやすくなるので避ける.いつも同じ方向の横向きで寝ている人は,下になった側の顎や歯に圧力がかかるので,向きを変えてみる
⑦飲食時の注意として,ブラキシズムのある人は軟らかい食物でも強い力で噛んでしまったり,早食いだったりするので,噛む回数を増やし丁寧に咀嚼する.左右均等に噛む習慣を付ける.硬い物を好んで食べない
頬杖をついたりすると,噛み締めやすくなるので注意する

おわりに

本連載は,Tooth Wearの酸蝕に関して,時間を割いてお伝えしてきました. Tooth Wearの残る1つの項目,摩耗に関しての概略を記載します.摩耗は,主に乱暴なブラッシング(不適切なプラークコントロール)が原因となって,歯質を損傷するのですが,これにより知覚過敏を起こしてしまうことがあります.特に歯磨剤を大量に付けて,硬い歯ブラシでゴシゴシ磨いてしまう方,また,狭い歯間空隙に太めの歯間ブラシを挿入してもエナメル質は削除されてしまいます.このように酸蝕,摩耗は,歯科衛生士が保健指導時に関わることが多い項目です. 今回は,咬耗をストレス社会と関連の深い「ブラキシズム」として,クローズアップしてみましたが,実に様々な問題を抱えていることが分かります.もはや口腔疾患は,齲蝕や歯周病のみならず,象牙質知覚過敏症,Tooth Wearなどと,留意しなければならない疾患および様態が多くなりました.今後,歯肉や歯石にばかり目を向けていては解決できないトラブルに,頻繁に遭遇する可能性があります.口腔内は,その方の人生を語っています.歴史があります.患者さんの人生背景に目を向ける際は,粛々と,かつ真剣に取り組まれる事を望みます.以上,ご精読ありがとうございました.

「参考文献」

1.
深川 優子.Tooth Wearの視点で考える〜歯が減るのはなぜ?〜.歯科衛生士,2008.

2.
牛島 隆,栃原 秀紀,永田 省蔵,山口 英司.ブラキシズム.歯ぎしり・咬みしめは危険!!.医歯薬出版(株),16-17,2008.

3.
小林 義典.睡眠と歯科の深い関わり.睡眠中の歯ぎしり「ブラキシズム」に注意.Healthy Diamond,(株)ダイヤモンド社,2-3,2008.

「表」

1.
ブラキシズムの分類(参考文献2より引用改変):ブラキシズムには様々なタイプがあり専門医による精査が必要である

2.
病的なブラキシズムが及ぼす影響(参考文献3より引用改変):病的なブラキシズムは口腔ばかりでなく全身にも弊害をもたらす

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