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記事

2013/10/24

第4回 歯質を蝕む胃酸:酸蝕編

歯科衛生士コラム 第4回

歯質を蝕む胃酸:酸蝕編
深川優子  歯科衛生士

連載にあたって

本連載の大テーマは「口腔内は人生を語る:Tooth Wear編」となっています.Tooth Wearは,その方のライフスタイル(食生活やストレスなど)が口腔内に反映されるものです.Tooth Wearを意識した口腔内観察は,口を通して,患者さんの人生を垣間見ることができます(第1回目より).2回目以降は,筆者の臨床経験などを交えて,具体的な内容に迫ってまいります.

内因性の酸蝕 1)

前回までは,食事由来の酸による外因性の酸蝕について,お話しました.酸性飲料,柑橘類,野菜などの過剰摂取は,歯質に悪影響を与えます.

今回は,内因性の酸蝕をテーマに話を展開していきます.これは,身体の内から排出される酸性物質に影響されます.この因子とは,胃に由来する酸だけであり,食事由来の外因性の酸蝕ほど複雑ではないといいます.通常,胃酸が口腔内に排出されることはないのですが,「胸やけ」として胃から食道へ胃酸が逆流することがあります.これは,粘膜層の炎症が原因です.胃液は,pH1.0〜2.0(強酸性)の塩酸なので,口腔内に逆流した際は,歯質のダメージを想像することは容易です.しかし,胃液が単独で口腔内に排出されることはありません.胃液は,様々な疾患による場合や,薬物,アルコールなどの作用が原因で,「嘔吐,反芻(はんすう),逆流」の形で口腔内に排出されることになります.以下,「嘔吐,反芻,逆流」の詳細をお伝えします.

嘔 吐

嘔吐とは,胃の内容物(pH3.8程度)が食道,口腔内に逆流し,勢いよく口腔外に排出されることです.これは,延髄にある嘔吐中枢が刺激されることが原因で起こります.軽度な刺激であれば,吐き気を感じる程度ですが,重度であれば,嘔吐を催します.嘔吐中枢を刺激する原因は,胃腸の病気,代謝および内分泌系の異常,神経系および中枢神経系異常,薬剤の副作用など様々にあります(表1).これらの中でもっとも一般的なのは,薬剤の副作用であり,薬剤の中枢性催吐作用,および胃への刺激による嘔吐という二次作用が関係します(表2).薬剤の添付文書に「嘔吐の副作用がある」と記載されている中枢性催吐作用を持つ薬剤の一覧を示しました(表3).これらは,特に副作用が強いものですが,他にも薬効分類として多数挙げることができます.この他の要因に妊娠誘発性の嘔吐(つわり)があります.これは,通常妊娠3ヶ月間に妊婦の50〜90%が経験する一般的なものです.つわりと呼ばれる嘔吐は一過性のもので病的なものではありません.したがって酸蝕のリスクも低いと考えられますが,3ヶ月後以降にも引き続き嘔吐が起こる場合は,酸蝕のリスクも高くなり,また,口腔環境が悪化しがちなこの時期は,妊娠性の歯肉炎を発症することもあるので,留意が必要です.

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慢性アルコール中毒や大量に飲酒をされる方も酸蝕のリスクがあります.アルコールは,中枢性催吐作用と胃刺激による二次的作用を有しています.アルコールの過剰摂取は,胃食道逆流をともなう慢性的な問題を生じます(胃食道逆流の詳細は次回へ).
酸蝕のリスクは,アルコール消費量(頻度と期間)に比例しており,一度に大量飲酒をするよりも毎日継続して飲まれる人(中毒者)が高いリスクを示しています.
アルコール大量消費による酸蝕は,内因性の因子(胃酸の嘔吐と逆流)およびアルコールの種類により異なります.種類として,ワインなどpHの低い飲料や発泡性の酸性飲料が酸蝕の因子となることから,内・外の因子(胃酸・酸性飲食物)がともに重要な関わりを持っています.ちなみにワインのpHは2.8〜3.8で,蒸留酒はpH6.5〜6.9と中性に近いのですが,酸性の柑橘類を混ぜ合わせるとpHは低下します.以前にも記載しましたが,甘酸っぱく喉ごしが良い酸性飲料は万人に好まれますが,大量に消費してしまうのは,内臓ばかりでなく歯質にとっても負担が大きくなります.

反芻(はんすう)

反芻とは,体内に複数の胃を持つ草食動物に見られる行為で,食物(通常は植物)を口で咀嚼し胃に送って,部分的に消化した後,再び口に戻して咀嚼する過程を繰り返す行為をいいます.1つの胃しか持たない人間の反芻は,酸蝕のリスクを負うことになる以前に,疾患である可能性が高いもので,生後3〜6ヶ月後の幼児に典型的にみられます.また,精神疾患をともなった人は高い有病率(6〜10%)を示し,過食症に至っては,20%以上の人がダイエットのために反芻をするとの報告があります.吐しゃ物を口蓋,または頬側前庭部に停留,再び嚥下を繰り返す反芻の行為は,胃からの酸性物質が頻繁に歯質に接触することになるので,酸蝕のリスクは深刻になると予想できます.

逆 流

逆流とは,食道あるいは胃の内容物が咽頭や口腔内に流れ出すことをいいます.嘔吐運動を伴わないことが特徴であることから,無意識に起こったり,また胃食道逆流症(GERD)という疾患ともなれば,就寝中にも頻繁に起こったりするので厄介です.胃食道逆流症(GERD)の詳細は,次回にお伝えします.

まとめ

胃酸は,口腔から摂取した食物を消化するために強酸性であり,必要な成分なのですが,その胃酸が逆流することは,健康体であれば,ありえないことです.胃液あるいは胃の内容物が口腔内に逆流すると,歯質は想像以上にダメージを負うことになります.これが内因性の酸蝕です.今回は,疾患や薬剤の副作用,およびアルコール飲料の摂取の関連を述べました.次回は,疾患として胃の内容物が逆流する胃食道逆流症(GERD)や故意に胃の内容物を口腔内に排出する摂食障害などの詳細と,これらが口腔内に及ぼす弊害に関してお伝えします.

「参考文献」

1.
深川 優子.Tooth Wearの視点で考える〜歯が減るのはなぜ?〜.歯科衛生士,2008.

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