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記事

2013/10/24

第3回 フルーツや野菜も危険!?:酸蝕編

歯科衛生士コラム 第3回

フルーツや野菜も危険!?:酸蝕編
深川優子  歯科衛生士

連載にあたって

本連載の大テーマは「口腔内は人生を語る:Tooth Wear編」となっています.Tooth Wearは,その方のライフスタイル(食生活やストレスなど)が口腔内に反映されるものです.Tooth Wearを意識した口腔内観察は,口を通して,患者さんの人生を垣間見ることができます(第1回目より).2回目以降は,筆者の臨床経験などを交えて,具体的な内容に迫ってまいります.

柑橘類と酸蝕の関連

前回は,なぜ現代人が酸蝕歯の傾向にあるのかを,時代背景から推察してみました.また,健康ブームによる酢酸飲料を飲まれる方の急増に関連し,クエン酸の効用と歯に対するリスクなどもお話ししました.

今回は,柑橘類の摂取と酸蝕の関連をお話しします.前回,表2で示したように柑橘類は,どれもpHが低く外因性の酸蝕のリスクが高いのですが,適度に酸っぱくて甘いことから万人に好まれます.そして,ヘルシー志向の方,ならびに体型・体重の維持・管理が必要な職種の方(モデル,ダンサー,競馬の騎手など)は,柑橘類や野菜などを多く食されることもあり,この方達の酸蝕のリスクを懸念するところです.

*表2(https://www.dentwave.com/member/column/fukagawa/02/img/pic02.jpg

柑橘類を食べるリスク1)

Tooth Wear酸蝕の分類に,「fruit mulling」があります.fruit mullingとは,果物を臼摩する(じっくり食す)の意です.fruit mullingは,主に上顎,および下顎の臼歯が溶解され,その程度は,上下顎ともに同じであるといわれています.これは,酸性飲料の摂取に次いで多く発症し,健康に対する意識の高い人々に多く見られます.この方達は,菜食主義者であることが多く,1日中野菜やフルーツを摂取し,果肉の嚥下に時間を費やします.また,酸性の果肉は臼歯部の歯間に圧入しやすく,咬合時に上下顎臼歯が接触して酸蝕が進行するというものです.臼歯部が損耗する外因性の酸蝕は,酸の摂取が単独要因とならず,摩耗や咬耗を合併することが多くあります.例えば,酸で脆弱化したエナメル質を咬耗ですり減らしてしまう,または,固形物の咀嚼で摩耗してしまうケースです.

柑橘類の過剰摂取が歯にとってよくない理由は,pHの低さだけではありません.実は,その食べ方にも問題があるのです.柑橘類を皮ごと食すこともfruit mullingと呼び,酸蝕の原因となります.以前,柑橘類は,皮と実の境に栄養に富んだ成分があると聞いたことがありますが,このような食べ方をされている人は,酸蝕のリスクがあるといえます.また野菜には,土壌由来のシリカ(歯磨剤の研磨成分と同じ)という成分が含まれていることから,歯質が機械的に損耗(摩耗)されることが想像できます.

毎日レモンを食べる人

fruit mullingによる酸蝕を示した症例を紹介します(山本 典子歯科衛生士提供:銀座セントレ歯科).レモンを毎日1個以上,食べている30代の女性の口腔内です.この食習慣は,数年に及んでいるといい,動機は不明とのことです.主訴は,知覚過敏です. 臼歯部の噛み合せを見てみましょう.fruit mullingによる臼歯部の擦り減りは,咬合が噛みあっていなことが特徴です(図1).また,修復物がある場合は,修復物が歯面よりも突出した状態になることがあり,咬合面は陥凹が形成されます(図2).これも頻繁に遭遇する状況です.さらに前歯部に注視してみると,やはりエナメル質が酸蝕されていることが分かります(図3).このことからも知覚過敏が発症することは容易に想像できます.


(図1)毎日レモンを食べている女性の口腔内(臼歯部が噛み合っていない):山本 典子歯科衛生士より提供


(図2)fruit mullingによる酸蝕が疑われる症例(修復物が歯面より突出した状態にある):東京医科歯科大学大学院う蝕制御学教室より提供


(図3)毎日レモンを食べている女性の口腔内(前歯唇面が酸蝕している):山本 典子歯科衛生士より提供

Tooth Wear(酸蝕)の概念を基にした対処法

ここでは,実際に担当歯科衛生士が行った指導およびケアをお伝えします.まずは,レモンを毎日食べることは,口腔内,取り分け歯にとってはよくないことをお話ししました.そして,レモンによる知覚過敏の発症に関しても説明しました.本来,酸蝕している歯質は,始終酸にさらされているので,プラークやステインなどの沈着がなく,一見,プラークコントロールができているように見えます.これは酸蝕が活動性であることを示しているのですが,口腔内全般は,必ずしもプラークコントロールが良好という訳ではありません.ゆえに食生活指導のみならず,ブラッシング指導も必要となるのですが,知覚過敏の程度によりブラッシングがままならない方もいます.担当歯科衛生士は,柔らかめの歯ブラシで優しく丁寧なプラークコントロールを心掛けるように指導しました.いきなりPMTCなどはしません.患者さんの「なぜレモンを食べると歯がしみるの?」の疑問や不安を払拭しながら,信頼関係の構築をしたそうです.そして,術者手磨きでプラークを除去した後,知覚過敏や酸蝕に効果的な歯質再石灰化ペースト(MIペースト)を塗布しました.指導後,レモンは食べなくなったので,知覚過敏が治まったことを確認しています.

今回,改めてインフォームド・コンセントの必要性を再認識しました.まず“なぜレモンを毎日食べてはいけないのか”を患者さんに説明し,同意(納得)してもらう.これが酸蝕の重症化を阻止する鍵となります.具体的には,食生活およびセルフケアの改善となりますが,これらと併行して「しみることの処置」も行わなければなりません.知覚過敏の歯が特定していたら,歯科医師の指示の下に知覚過敏抑制材を塗布することで,患者さんのQOLの低下を防止できます.

酸蝕に対する保健指導の留意事項

今回の話を総括します.まず歯科衛生士は,患者さんの嗜好が少しずつでも是正するように促します.ここで焦ってはいけません.酸蝕に対する保健指導のポイントは,大幅な食生活の変更を指示しないことにあります.例えば,皮ごと柑橘類を食していたら,皮を剥いてもらうとか,摂取後は直ちに飲料水を飲み,口腔内のpHを中性に戻す努力をしてもらいます.また,ブラッシングのタイミングも食後30分以上空けてから行うことは,前回でも述べました.このような合理的で達成可能なアドバイスが重要となります.同時に知覚過敏などの不快な症状を除去してあげることは,取りも直さず私たちと患者さんの信頼関係の構築に役立つことでしょう.担当した歯科衛生士は,長年の臨床経験からTooth Wearの知識・情報を持っていたので,今回のような特異的なケースにも善処できたのでしょう.Tooth Wearの視点で患者さんの口腔内を観察することは重要ですね.

「参考文献」

1.
小林 賢一,野下 清子.歯が溶ける!酸蝕を知っていますか?.デンタルハイジーン 2006;26(7):701.

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