第2回 歯科衛生士それぞれのプライド

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 長年歯科衛生士の職に就いていると、自分より臨床経験が長く仕事のできる歯科助手に出会ったり、逆に自分よりはるかに若い歯科医と仕事をするなんてことはざらにある。それぞれの立場をわきまえ、相手を敬う気持ちがあればうまくいくのだが、お互いが主張しすぎると人間関係を損ないかねない。

 これは、歯科衛生士学校の学生時代の出来事であるから、もう20年位前の話だ。知り合いの30代の歯科衛生士A子とのたわいない会話の中で、私が「助手さんが・・」と話し始めると、A子さんがこう言った。「どんなに仕事ができる歯科助手でも『助手さん』なんて言わないの。あなたはこれから資格を持つ仕事に就くのだから、プライドを持ちなさい。無資格の助手に『さん』なんてつけなくていいのよ『助手』って言いなさい」と。

 聞けば、A子さんの勤務先の院長は、職種に関係なく「できる人」に仕事を任せるらしい。スケーリングができるから手の空いている歯科助手に頼み、若い歯科医より仕事ができるから補綴物の調整を歯科衛生士にさせるというのだ。

 慌しい診療中、治療予定を時間通りにこなすことは至難の業であり、確かに「できる人」に頼めば時間の節約になるのだが、歯科医療従事者には資格があり、業務範囲を超えることは法律的に問題がある。A子さんの勤務先は、資格も職種もお構いなしで「できる人」が仕切り、指示をするという体制だった。これでは、自分の縄張りに入って来た人を敵とみなし、攻撃的になる人がいるのも否定できない。当然、人間関係はギクシャクしていたため、A子さんは、仕事ができる歯科助手に敵対心を燃やしているようだった。今の時代、こんな歯科医院があるとは思いたくないが、その当時は当たり前のようにおこなわれていたようだ。

 現在、私は3件の歯科医院に在籍しており、職種の構成や人数はさまざまだが、人間関係に問題を感じたことはない。

 3件に共通して言えることは「歯科はチーム医療であり、診療に携る全ての職種の協力で成立する」という理念のもと診療している。つまり、歯科医も含め、誰が主人公でも脇役でもない、ひとりひとりが職場の要だということだ。

 おかげでスタッフ全員の仲が良く、休憩中はくだらない会話が飛び交い、笑い声が絶えないのだが、ひとたび診療を開始すると皆が仕事モードにシフトし、相手の職種や年齢差に関係なく、全員が敬語を使っている。業務範囲は明確で、それぞれの受け持つ仕事が決まっているが、手が空いていればお互いがサポートし合う。

 当たり前のことのようだが、こういった「お互いが認め合っていると感じらえる言動」こそが、良い人間関係を保つ秘訣なのかもしれない。

しかし、円満な医院の中にも「もっと色々なことをやらせてほしい」と過剰に自分をアピールしたり「私がやりますから」と強引に同僚の仕事を取り上げるスタッフがいるのも事実だ。彼女たちは「第一線で働いている歯科衛生士としてのプライドがあるのに、地味な仕事ばかりさせられているんです」という。

 現在は充実した仕事に満足している私も、20代の頃同じようなジレンマに陥って、自分の立場を脅かす相手に牙をむき、威嚇していた時期があった。今となれば「縁の下の力持ちは重要な仕事で、医院にとって無くてはならない存在だ」と思えるのだが・・・

 近い将来、きっと彼女たちもわかる時が来ると信じて、そんな彼女たちを励まし、次のステップに導きながら温かく見守っている。

 30代後半になり、すっかり丸くなった私も、本音を言えばベテラン歯科衛生士としての誇りはあるが、そのプライドは自分の心の内に秘めている。

 なぜなら「研鑚を積み、与えられた仕事をまっとうしていれば、必ず認められチャンスが与えられる」ということを知っているからだ。

歯科衛生士 田樽 ハイジ

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